第2章 鬼角の師 アザネ 3. 弟子入りの条件
アザネは金棒を地面に突き立て、その音が収まるまで黙っていた。
風が吹き抜け、砂埃が二人の間を流れる。
「ヨウリン」
名を呼ぶ声は低く、それでいてどこか響きがあった。
「私の弟子になりたいのなら、ただ“蹴れる”だけでは足りん。力を持つ者は、力の使い方も知らねばならん」
ヨウリンはまっすぐその金色の瞳を見返す。
アザネは口角を上げ、指を二本立てた。
「条件は二つだ」
一本目の指が、ゆっくりとヨウリンを指す。
「まず、今日から一か月間、食料も水もすべて自分で調達しながら、この霊峰の麓から山頂まで毎日登れ。どんな天気でもだ」
ヨウリンは息を呑む。
山頂までは半日以上かかる険しい道のり。昼は灼熱、夜は凍える冷気。
しかも食料も水も、自分で確保しなければならない。
アザネはもう一本の指を立てる。
「二つ目。登る途中で魔物に出会ったら、必ず一撃入れて通れ。逃げてはいけない。たとえ倒せなくとも、戦意を示せ」
ヨウリンは眉をひそめた。
この辺りには牙獣や砂蛇、岩を噛み砕く巨大なトカゲもいる。
子どもが武器も持たずに近づくにはあまりにも危険だ。
アザネは金棒を軽く担ぎ直し、角を揺らして笑う。
「これは、お前の足に“命”を刻むための試練だ。生きて山頂にたどり着けば、私はお前に“力”を授ける。六開祖の一人としての、本物の力をな」
その言葉に、ヨウリンの胸が高鳴る。
逃げ道はない――いや、もともと逃げるつもりはなかった。
彼女は静かに頷き、拳を握った。
「……やります」
アザネは満足げに目を細めた。
「よし。それでこそだ。楽しくなってきた!」
その声は、鐘の音よりも鮮やかにヨウリンの耳に響いた。