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紅蓮の花  作者: アザネ
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第1章 荒れ地の少女 1. 荒地と町の情景描写

麺屋ドラゴンラーメンを偲んで

赤土の大地が、どこまでも続いていた。

 風が吹くたびに粉のように細かい砂が舞い上がり、目や喉に入り込んでくる。乾いた空気は、肺の奥をひりつかせ、吐き出した息さえも砂の匂いをまとって重く落ちる。


 ここは〈サグラの町〉――地図にも載らない辺境の交易集落だ。

 町と呼ぶにはあまりにも小さく、村と呼ぶにはあまりにも荒れている。周囲を囲むのは無限のように広がる荒地で、緑はわずかに枯れかけた灌木が点々とあるだけ。遠くには岩山が蜃気楼のように揺れ、昼間は太陽に焼かれ、夜は氷のように冷え込む。


 道と呼べるものはない。

 石と砂の混じった地面には、行き交う人々や荷馬車の車輪が刻んだ轍が浅く続くだけだ。その轍には雨水が溜まることもなく、ただ粉塵が堆積し、風が吹くたびに跡形もなく消える。


 町の中心には市がある。

 と言っても、常設の市場ではなく、週に二度だけ人が集まる露店の群れだ。色あせた布を屋根代わりに張り、木箱や粗末な台に品物を並べる。干し肉や硬い黒パン、割れかけの陶器、砂にまみれた香辛料、そして武器――刃こぼれした短剣や柄の欠けた槍などが、食料と同じ棚に無造作に置かれている。


 人々は粗野だ。

 旅の商人、日雇い労働者、放浪者、そしてならず者。互いを信用せず、相手が笑っていても、背中に隠した刃物を信じる者はいない。握手よりも先に、武器を抜く準備をするのが礼儀のような場所。


 建物はほとんどが日干し煉瓦造りで、壁は風雨で削られ、所々に穴が空いている。屋根は藁か、拾った板を無理やり組み合わせただけで、砂嵐が来ればひとたまりもない。

 夜になれば、通りは暗闇に沈む。灯りは乏しく、松明やランプの炎がちらつく程度。その明かりに浮かび上がるのは、酔っぱらいが争う影と、暗がりから覗く鋭い目つきの者たちだ。


 この町には、法はない。

 いや、あるにはあるが、それは力を持つ者だけに適用される。弱い者は理不尽に搾取され、抗えば命を落とす。たとえ子どもであっても、それは変わらない。


 そんな環境の中で、人々は日々を生き延びていた。

 働ける者は働き、盗める者は盗み、奪える者は奪う。それが当たり前で、恥でも罪でもなかった。


 町の片隅には、壊れかけた井戸がある。

 水は泥混じりで、飲めば腹を壊す。それでも、命を繋ぐために人々はそこに並ぶ。太陽が真上に昇る頃、砂塵の中で順番を待つ長い列――それがサグラの町の日常だ。


 そして、この町の片隅に、一人の赤髪の少女が暮らしていた。

 名をヨウリン・ファラクスという。

 その髪は、この荒地の色彩にはあまりにも鮮やかで、夕陽を背負ったように燃える赤だった。彼女の存在は、町の埃っぽい空気の中で異彩を放っていた。

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