一秒という永遠~過ぎ去る桜~
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四月の後半初期、枝の先に残る数枚の桜の花びらを視界の端に捕らえながら、透明な水が静かに流れる川を眺めている。
見上げると、鮮やかな緑色の葉が、真っ青な空を覆い隠すようにあり、そよそよと小さく音を立てる。
人の声でかき消されてしまうような、小さな音。
桜の木から生える、無数の葉が、川に影を落とす。
その影は、綺麗な木漏れ日を描いていた。
だが、その透明な水の下には、人間が捨てたごみや、どこからか流れてきた泥が、下に埋まっているはずのコンクリートの類が見えないくらいに積み重なっている。
物心ついた時には川の下に泥がある。
下にあるのが本当にコンクリートなのか、違うのか、私は知らない。
一度、静かに目を閉じて、深呼吸。
聞こえてくるのは、この川を挟んだ向こう側にある道を歩く、人の足音。
初夏なのか、春なのか分からないこの季節の、暖かな空気。
遠くで聞こえる、子供たちの高い声。
この瞬間が、一番好き。
とはいえ、ここで目や耳に入ってくる情報で、分からないことなどいっぱいある。
いつもここで泳いでいる鯉は、今日はいない。
数日前には12匹いた鯉。今日はどこを泳いでいるのだろう。
いつも通るこの道。少し前まで、気が付けば川には桜の花びらが浮かび、少し来た道を戻ると、桜の花びらが道をつくっていた。
でももう、そんなにたくさんの花びらはない。
あるのは、少し茶色くなった花びらが、数十枚しかない。その数で、桜の道をつくることはできない。
いつの間にか来て、いつの間にか去っていく春を、捕まえることはできない。
また一年待てば、また、きっと、思わず歩きたくなるような道をつくって、新学期を、応援してくれるはずだ。
読んでくれてありがとうございます。こちらが実話です。
実はこの話の場面の前に、下を向いて歩いていたらトカゲがピュッっと横切って思わず悲鳴をあげそうになりました。入れようと思ったけど入らなかった…。
これを少し変えて作り話にした短編ポエムもあります。よければ読んでみてください。
好評でしたら、作り話か実話のどちらかで物語をつくろうと思ってます。