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8 夜の呼びかけ

「はっ、はぁっ、はっ!」

 ポンコは荒い息を吐きながら鬱蒼とする森を走っていた。


 後ろからは魔獣の雄叫びが、

 地を蹴る鈍い音が、

 木々をへし折る音が聞こえてくる。


「何なんだよ!アイツぁ!」

 ミディム冒険者組合の調査任務を受けた彼は今起きていることに嘆いた。


 任務の内容はドドン山岳に出現したという魔獣の調査。

 事前に聞いた情報によると、狼のような見た目で全長四メートルはある巨躯。

 点々と移動をする活発型のようで目撃情報が多数。

 群れを持たない習性なのか、固体数は恐らく単体。

 凶暴。

 その魔物と遭遇した冒険者の生還率20%


 この情報を耳にした時は正直難問だと思った。


 単体で所々を往来するとは、何にも恐れずにいる強者のように思えた。

 冒険者の生還率を思えば実際に強者なのだろう。


 ポンコは紫等級で中堅の位置にある。

 冒険者としての勘も鋭くなってきた。

 この任務は受けれない。警鐘が鳴っていた。


 なのに、人間というのは愚かだ。危険である事を承知しているのにも関わらず、自らリスクを冒してしまうのだ。


 ただの調査だ、行くだけ行こう。冒険者を脅かす魔獣がどんなものか気になる。という好奇心。


 任務を達成すれば、等級の昇格に高額な報酬。それを得るための欲求。


 自分たちなら出来るという自己肯定。


 社会や他者に影響が及ばぬようにと立ち向かう使命に。


「ダスト、クズマ、ザッコ、ヘボ⋯!」


 ポンコを逃がす為に戦った仲間たちは死んでしまった。


 彼ら身を挺してポンコを生かせようとしたのだ。

 ポンコは涙を拭って歯を食いしばり、震える脚を叩く。


 今も襲いかかってくる恐怖から無様に逃げ続けた。


 しかし、彼は突如後ろから飛んできた鋭い何かに突き刺さされた。


 ●


 朝。ミディム冒険者組合にある酒場でユウキたちは食卓を囲んでいた。


「わたしたちは目的のために、いつかこの町から離れなきゃいけない。離れた先で困ることのないように、ここで出来ることをやっていきたいな〜て思う」


 可愛いお豆のパッケージパックの豆乳を口にしたあとリンは言った。


 ユウキはリンに憑依してその味覚を共有していた。

 この控えめな甘みなら甘いのをあまり好まないユウキでもイケる。

 寧ろ好きだと感じてしまう。

 苦手なものを好きだと感じるのって不思議だなぁ。と思った。


 ピコはシロップたっぷりのパンケーキを頬張りながら

 クリンドは朝から重い肉肉しいハンバーグを頬張りながら、リンの言葉を聞いていた。


 ちなみにコレ、リンの奢り。


「できること?」ピコが手についたシロップを舐め取り聞いた。


「とても単純な話だよ。まず、わたしたちが活動するために必要な資金を作ること」


 その言葉にクリンドとピコは自分が口にしてるものを一瞥すると「うっ」とした表情を見せ、食べる手を止めた。


「お金は昨日みたいにお外で魔物の素材とか鉱石の素材とか売れそうな物を手に入れてお金に替えてもらうっていうのもいいけど」


「いいけど?」相槌をする二人。


「いつか、拠点を変える事を考えると、ただそうやってお金集めするだけじゃなくて、わたしたちの名前も売れたらなぁって」


 クリンドが頷いた。

「名声獲得か」


「そ。クリンドの夢でしょ?」

 

 クリンドの夢は冒険で集めた素材を使って世の皆を驚かせる凄い武具を作り、名のある者の力の一部になりたいらしい。


 クリンドは小さく笑った。

「ん、んー。ちょっと違うかもしれんが、最終的には⋯そうか。そうだな」


「それでね、わたしたちの頑張りを他の人に見てもらって、評価してもらえばツテとかコネとかが出来るんじゃないかなぁ。

 そうすれば、目標にぐぅーっと近づけるかなって思ったの」


「旨すぎる話だと思うけど」

「でも、そーだね。上手く行けばこの先が楽ちんになるかもね」


 ピコが不思議そうに

「そんな事も考えるんだねリンたん。尊敬しちゃうねー」

 リンは「あはは」と苦笑いした。

 これまでリンが口にしたのはユウキが提案した内容で、リンは提案されたことをそのまんま口にしただけである。


 クリンドが「で、その要は?」 と問うとリンは言った。


「クエストを受ける。かな」


 クエスト。

 個人が抱える問題から国が抱えるような大問題と規模の振り幅は大きい。

 冒険者が受けれるのは基本的に冒険者組合が国から流れる治安維持を名目とした区画、地域の調査及びに魔物等の駆除となる。

 また、冒険者組合が一般民から直接依頼されたのを担う。

 冒険者は組合を介してその抱えた問題を代わりに受け持ちますよ。手を貸しますよ、と。

 助けを求める人は「では頼む」と依頼。

 依頼を受ける人は「解決した際の報酬は期待してますよ」と、

 そういった仕組みだ。


 では、リンたちの活躍をご覧あれ。


【依頼:ペットの捜索・保護】


 住宅街の細い路地に「にゃあ」と鳴く愛らしいそれがいた。


 それを見たクリンドは荒れた呼吸を深呼吸してどうにか抑えて

「今度こそは!」と意気込む。


「きゃ〜猫ちゃん!可愛い〜!お持ち帰りしたい〜!」

 と目をハートにして大はしゃぎするピコとリン。


「クッソ!また逃げやがった!お前ら!コレ何回目だ!?」

 言って「あああ!もう!」と地団駄踏みながら猫を追いかけるクリンド。

「あ~!待って〜!」と、

 それに続く女子二人。

 

【依頼:引っ越しの手伝い】


「わ〜凄いのねお嬢ちゃん」

「へへぇ、ピコは力持ちなので〜!」

 

 重たそうな荷物を大量に抱えるピコは依頼人の言葉に自慢げだ。

 少量の荷物を重たそうに持つリンはそれを見て「すごい」と感嘆。


「ピコのそれにはいつも感服さるけど、あまり調子乗るなよ〜」

 リンより少し多めな荷物を持ったクリンドが言った。


「もー、クリたんってば、わたしがそんなヘマするとでも?」

 と、言ったそばからピコは足元の段差に躓いて「お、おわ、おわっ!」と慌てめく。


「危ない!」「バカ!落ちつ―!」


 リンとクリンドが声をあげた直後。

  「ぎゃああああ」

 ピコは大勢を崩して荷物を放り投げてしまう。


 その荷物の中には見るからに高価そうな物があった。


 依頼人が目を見開いた。

「あ、あれは!大事な物なのっ!」


 その時世界がスローになったかのような感覚。

 そこにいた皆が酷い形相で酷い悲鳴をあげた。


 いくつかのワレモノが地に落ちる。終わる。そう悟った。

 途端、更に皆の顔が歪んだ。

 リンもそうだが、ピコは特に顔面を崩壊させている。

 美少女がしてはいけない顔だ。


 そこに、ユウキがさっと割り込みワレモノが地に着く前にキャッチ。


 時が戻ったような感覚。皆が歓声をあげた。


「今のはリンたんがやったの?」

「ま、まぁ⋯?」リンはユウキをチラッと見て苦笑いした。

 


 組合の掲示板に目を向ける三人。


「なぁ、たまには冒険者っぽいことしようぜ」

「戦えないのに?」

「うるせぇ。スライムぐらいなら倒せるわ」

「え、スゴー」

「棒読み」

「えっ!スゴ〜!」

「うるせぇ」


 二人の茶番をよそにリンが見つけた。


「ここからちょっと距離あるけど、ヌメットル湿地に大きなカエルが出るんだって」

「へぇ、カエルか弱そうだな」

「大きい!カエル〜!?見てみたい!」


【任務:ベロリンフロッグの駆除】


 それを見てユウキ含む全員があんぐり口を開けた。


 四人が言葉にせずとも「デカくね?」と表情に表した。

 二メートル程あるカエルだった。


 頬をぷくぷく膨らませたカエルはリンたちに気づくと長い舌をブランブランと振り回しながらピョコピョコ跳ね迫ってきた。


 速攻で踵を返し、悲鳴を上げながら逃げる三人。


 足が一番遅いピコは足元の石に躓いて「あっ」と、転ぶ。

 直後、カエルが舌の伸ばしてピコを捕らえた。


「ぎゃあああ!」

 悲鳴をあげるピコ。

 リンとクリンドはピコの名前を叫んだ。


 ピコはカエルにあちこち舐め回されながら、

「助けてえええ!」

 と、全力で助けを求める。


「今助けに行く!!」

 リンとクリンドが声を重ねたその矢先。

 カエルが舌を大きく振り上げピコは宙を舞う。そして、ピコがカエルの口の中へ。


「ぎゃあああ!」

「ピコぉおおお!!」

「って⋯あれ?」


 口の中に放り込まれる。というところでピコが背負う重い荷物がカエルをドスンと押し潰した。


 それを見てリンは胸を撫で下ろし、ユウキは「そんな事ある?」と呟き。

 クリンドは「アイツ鞄の中に何入れてんだ⋯」と息を吐いた。


 それからも、似たような日々が続く。

 時に町のお店で売り子をしたり、また魔物の駆除でえらい目に遭ったりして。

 そんなこんなで一カ月が経った。


 ●


「お疲れ様です」

 冒険者組合の役員から依頼の報酬を得たリンは受付の女性に「ありがとう」と礼をしてから

「二人もありがとう」と

 クリンドとピコに分け前を渡した。


 それを受け取ると、

「お疲れ様。じゃあ、ピコはこれから用事があるから」

「悪い俺も」


 ピコに続いてクリンドは「また」と手を振ってこの場をあとにした。


「⋯最近、あの二人帰るのはやいね。たまに、どっちか来ない日あるし⋯。やっぱりお仕事が大変だったのかな」


 そう、寂しそうにリンは吐露した。

 そんなリンにユウキは

「まぁ、二人にも事情があるんだよ」

 と、リンの身形を見て言った。


「事情⋯」と口の中で転がして可愛く首を傾げるリン。

 それから「あっ」と何か思いついた様子。


「もしかして、あの二人ちゃんと恋人同士になったのかな!」

「いや、今日の二人思い出してみ?いつも通りにすれ違ってたけど」

 リンの言葉にユウキは苦笑した。

 あの二人がくっつくところ何故か想像が出来ない。

 あんな、仲が良いのに⋯。人間って不思議だ。


 リンは小さく笑う。

「でも、そっかぁ⋯。やっぱり二人と冒険を続けるのは難しそう⋯かなぁ」


 自分の言葉に一層寂しそうに口を尖らした。


 そんな姿を見てユウキは「そんな事はないよ」 と言ってやりたい気持ちに駆られる。


「ユウキくん。ご飯にしよ」

 言って酒場に向かうリンにユウキはついて行き、少し前の出来事を思い出す。


 ●


 ユウキもリンと同じように二人の付き合い方に違和感を感じて、リンには何も言わずに二人を探ろうとした。


「あー、今日もシンドかったわぁ」

「そ〜?ピコはらっくしょ〜だったけどね〜」

 疲れたように言うクリンドにピコは自慢気に言った。


 クリンドは短く息を吐いて言う。

「お前は力に関しては割と強引にやってのけるし、何かと運が強いからな」

「お〜、褒めてるん?」

「 褒めてない」

 そんな会話をしながら二人は繁華街に足を運んだ。


「この二人。リンちゃんが知らないところでイチャイチャして⋯」


 ユウキがブツブツ言い出したところで


「こっちはもうちょっとだけど、そっちはどう?」

 ピコが言うとクリンドは

「ああ、順調だ」と返した。


 何の話をしているのだろう。

 ユウキは注意深く耳を傾けた。


「ピコ、だいぶ力入れてるんだ〜。似合ってくれるといいな〜。それに、貯めたお金で刻印もするつもりなんだ〜」

「おお、それはだいぶガチってんな。ま、俺もお前に負けないくらい魂込めてっから」

「 えー、うらやま。ピコには魂込めてくれないの?」

「萎えるわ」

「 今まで一番酷い言い草!?」


 この二人はいったい何の話をしているのだろうか?


 ユウキが首を傾げていると、

 表にゴツゴツとした武具が並んだ建物と、お洒落な衣類が並んで明るい雰囲気の建物の前で

 二人は「またね」と挨拶を交わして別れた。


 ユウキはそれを見て「もしや」と思った。


 湧き立つ思いを胸に、さぁどっちの様子を見ようかと逡巡して、美少女見たさにピコの方へユウキはついていった。


 服屋に入ると、元気よく店員に挨拶を交わしながら奥へ向かうピコの姿。


「女子更衣室⋯」

 ユウキはゴクリと喉を鳴らした。

 これは調査だ。不可抗力だ。

「ちょっとだけ」

 と言い聞かせ、ピコが入っていった部屋にユウキも入る。


 いつもの探検隊の服を脱ぐピコの姿。線の細い女の子らしい肢体が露わになっている。

 リンより胸はあるようだ。

 下着はリンの可愛らしい下着と違って、ピコが身につけているのは繊細な刺繍に、透ける薄絹は上品で何処が艶やかさがあった。


 服屋のお洒落な制服に着替えるピコ。

 ヘルメットを被っていないので水色のツインテールがぴょこぴょこと揺れる。


「いつもこんな格好だったら絶対クリンドも振り向くだろうに」


 ユウキは今のピコの格好を見てギャップを感じている。


「見た目って大事だなぁ」そう思った。


 制服を身に纏ったピコは服屋で接客をしていた。つまり、掛け持ちで働いていたのだ。


 店が閉店したらピコは店主らしい人と

「今日もお借りしま〜す」

「ど〜ぞ、今日も精が出るね〜」

 と、言葉を交わした。


 奥の方に向かえばアトリエがあった。

 ピコはアトリエに入るとこれまで使ってたのか迷いのない足取りで席に着くと作業をはじめた。


 何を作ってるのだろうかと思ったら子供が着るような服だった。

  「リンたんなう。リンたんなう。リンたんな〜う!」


 おかしな歌を口ずさむのにユウキは「なんだよその歌」とおかしそうに笑った。


「次はクリンドだな」

 ユウキは嬉しい気持ちになりその場から去った。


 武具屋に入れば並ぶ武具の数々に思わず「 うぉー!」「わぁー!」「すげー!」と感嘆をこぼした。


 奥の方からはカンカンと心地よい快音が聞こえてくる。


 そこに向かえば、辺りが火の色に照らされていた。

 ユウキは霊体だから熱など一切感じないがそこにいるだけで暑くなりそうに思えた。


 そんな場所に一振りの鉄を叩くクリンドの姿があった。


 普段の彼と違って何一つ呟くことなく黙々と作業に向き合っていた。


 クリンドが誰のために鉄を叩いてるのかはピコとクリンドの会話でわかった。

 思い違いだったら残念だけど。

 この二人なら。


「あの子が喜ぶ姿を期待してもいいかな」


 そんな出来事があった。


 ●


 リンは辺りを見渡し空いてる席を探していた。

 すると「おー、爆発幼女」とリンを呼ぶ声がした。

 リンは小さな鼻に思いっきりシワを寄せた。

 ね、顔。顔。



「あはは、凄い嫌がってるよ」

「俺は割と好きな通り名だぜ」


 リンの前に現れたのはヘボイナの森で出会った冒険者たち。ゲン、ヘイト、ショット、イアの四人だ。


「知ってるか?リン嬢ちゃん。ここ最近、アンタらの頑張りのウケが広まってんぜ。巷ではアンタらのこと爆発幼女と愉快な仲間たちって言われてんぜ」


 愉快そうに笑うゲンにリンは更に不快げにして頬を膨らませた。


「ゲンったらリンが怒ってるよ。ごめんね?良かったら私たちとご飯食べない?奢るよ?」


 イアがリンに食事を誘った。

 他の三人も頬を緩めてリンの反応を待つ。


 何気冒険者たちからの誘いに初めてでリンは『ユウキくん⋯』と、おどおどする。


『この人たちに何の悪気もないと思うよ?せっかくのご好意なんだから、甘えてもいいんじゃない?』

「生活費も浮くし」と付け足してユウキは言った。


 リンはそれを聞いて『最後のは余計だよ』と笑う。


「じゃぁ、そうしよっかな」

 甘えることを決めたようだ。


『ユウキくん入ってきて』 リンの言葉にユウキは「わーい」とリンに憑依をした。


 食事をする時はユウキがリンに憑依をする。それが今では当たり前になっていた。


 ●


「ははっ!可愛いお嬢ちゃんがいると飯も美味くなるなっ!」

 手に持った酒を豪快に口に流したあとにしたゲンが言った。

「ねぇー、私も女何だけど〜?」

「いやぁ、お前はもう、その領域から脱してる」

「なんでよ!?」

 バンっと机を叩くイアに男三人が愉快そうに笑った。

 と、そこで、高い音色が鳴る。ゲンたち四人が懐に手を突っ込み魔導携帯を取り出した。


「タレッタさんから連絡がきた」

「俺も」「オレも」「私も」

 皆が顔を見合わせ表情を渋らせる。

「急務か?」

「今から?この時間に?」

「このタイミングって事は相当なんだろう」

 と大きくため息を吐くと同時に肩を落とした。


「悪いけど今から俺たち仕事になっちまった。楽しかったぜ」

「また、機会あったら一緒しよ」

 ゲンとイアが言うと各々が怠そうに席を立ち会計を済ました。


 リンも皆を見送りするために冒険者組合の受付までついて行った。


「あれ、リンちゃんも一緒だったの」

 受付にいたタレッタが皆を目にするとそう言った。


「ご馳走になってたの」

「あら、それは、ごめんね。楽しい時間に」


 苦笑するタレッタに

「本当だよ〜」と呆れる四人。


「で、呼び出しの用件は?」

 その言葉にタレッタが表情を険しいものに変えて語った。


 リンの情報をもとにドドン山岳の調査を行ったことだった。


 調査に向かったこの町の腕利き冒険者の一人が一カ月前に瀕死状態で町に生還した。しかし─そのまま意識を失った。

 そして、一カ月が経ったこの日生還してきた冒険者の意識が覚め、事情聴取を行った。


 その結果、その魔獣は極めて危険。町に被害が及ぶ前に早急に討伐するべきだ。

 と判断が下された。


「それで、そんな危なそうな事を俺たちにか?」

 タレッタは目を瞑り頷いた。


 タレッタの肯定に頭痛そうに眉間を押さえるゲン。

 彼は「どうする」と仲間に問う。


 そうなるわなぁ。とユウキ。


 調査に行った冒険者は一人ではなくきっと他にも何人かいるだろう。

 この町に帰還していないってことはもう既に死んでいる可能性が高い。

 腕利きの冒険者が瀕死にさせられるような相手だ。


 そんなものに立ち向かえっていうのだ。しかもこんな時間帯に。


「流石にキツイぜタレッタさん」

  困ったように言うゲンに

「分かってるわ、だから報酬には期待して頂戴。物資も用意するわ」

 前もって用意してたかのようなお決まり文句を言う。


「⋯それでもなぁ。今回は流石に、俺たちは大きな危険を冒したくないんだ」

「昔とは違って日和ったわね」

「グッ⋯」


 タレッタの言葉が刺さったようだ。

 ゲンが少しムキになって反論しようとするが言葉に詰まったようだ。


「⋯断ったら」

「 他の人に任務が回るわね」

 言ってタレッタがリンに流し見た。


 おい、流石に!とユウキは思った。

 ゲンもそう思ったようで

「流石にリン嬢ちゃんには─」



「あの、わたしも力になれる?」


 予想外な発言だったのかその場に一瞬沈黙が起きた。

 誰もがリンの言葉を飲み込めず、目を瞬かせた。


 やっとのこと、最初に出たのは


「え?」



 ⋯⋯。ああ、はじまったよ、コレ。






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