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7 リン、冒険者としての一歩。仲間の夢(2)

「あっ、ああ、あぅっ、あっあ」

「ぅおっ、うおっ、おっお、お」

「 ぴっぴぴぴ、ぴこ、こここぉっ!」


 三人がダーヴィンに揺られて目的地に向かう。


「おぼろろろろ」


 目的地に着くと全員仲良く虹を作るのはお約束。


 ミディムの町から5時間。

 目的地であるコーセキ・ホッレル鉱山に着いた。

 

 岩を剥き出しにした高々な山だ。

 甲高い音と鈍い音が奥の方から響きわたっている。

 きっと鉱夫が汗水流して働いているのだろう。


 道中何度か魔物と遭遇した。

 ここで巣食っているのは主に

 岩肌を持つ堅固なロックスライム。

 瀕死状態になると自爆する

 ボムゴロン。

 何処からか拾ってきたのか粗末な装備を身に纏うコボルトだ。


 クリンドとピコは戦闘能力が非常に乏しく魔物と遭遇する度、リンの後ろで体を震わせる。


 なので魔物との戦闘は主にリンになる。勿論、ユウキも補助にはいるが。


 ちなみにボムゴロンとの戦闘はユウキ専門。

 先程述べたようにボムゴロンは死に際に爆発を起こすのだ。

 爆発は規模は小規模ではあるが、至近距離にいると高い確率で手負いしてしまう。


 なので、ユウキボムゴロンに憑依して、リンたちから離れた位置に立つと自爆するのだ。


 ちなみにこの時の爆発は憑依しているボムゴロンの魔素を使っている。

 ユウキの魔素自体は一切使っていない。


 ユウキの心境を述べると、めちゃくちゃシンドイ。

 何故なら死ぬからだ。


 高い頻度で自爆技を使うユウキだが、魔素の底をつかすのと死ぬのとでは全く話が変わってくる。


 ユウキが悲鳴を上げる度にリンが「大丈夫?」心配そうな表情を向けてくれるので、この子のためならと頑張れる精神でいられる。

 その事情を知らない非戦闘員は

「すっげー!」 「すごー!」とはしゃぐ。

 まぁ、それもリンの評価に繋がるのだから。やって後悔は感じない。

 シンドイことには間違いないのだが。


 足場の悪い道を歩きながらリンが「どうして冒険者になろうと思ったの?」クリンドとピコに尋ねた。


 クリンドは「そりゃあ」と口を開くと

「夢があるからだよ」と答えた。


「夢⋯」

「そう、夢。俺は冒険で手に入れた鉱石や魔物の素材で皆が驚くようなスゲェ物を作りたいんだ!そして、一攫千金!って奴だな」


 クリンドはものづくりが出来るらしい。

 ロマンと野心溢れる夢だな。とユウキは思った。


「そして、それを手助けするのがピコのお役目!」

「⋯ピコのそれは夢なの?」

「夢だよ〜。大切な人の側について自分にできることをするって幸せなことじゃん」

「ばっか、恥ずかしいこと軽々しく言うな」

「惚れた?」

「惚れてない」


 夢語りから惚気にシフトして夫婦の茶番がはじまった。

 それをよそに「そっか⋯」二人の言葉を聞いたリンは呟いた。

 特にピコの言葉には思うことがあったのか寂しげな表情を一瞬だけ見せた。


「逆にリンたんの夢は?」

 ピコが口にしたリンの呼び方に「たん?」と首を傾げた。


「そう。リンたん」

 リンはピコに愛称をつけられて少し嬉しそうだ。


 ピコは続けた。

「明らかにピコたちより歳下なのに⋯。あ、言いたくなかったら別に言わなくてもいいんだよ」

 どうやら歳下っていう言葉に不満を感じたらしい。リンは頬を膨らませた。

 そこ、子供らしいですよ。リンちゃん。なんてユウキは思うがお口にチャックをする。

「⋯わたしは、ただ強くなりたいから、それだけ」

 それは追求を求めないような言い方だった。


 クリンドとピコは顔を見合わせた。何を思ったのだろう。


 歩き続けると次第に人の姿がちらほら見えるようになり

 坑道の入り口を目の当たりにする。

 向こうからは麓からも聞こえた活気ある音が止むことなく鳴り響いている。


「おい、あんたら冒険者か」

 全身に擦った傷跡。その上から化粧品する土と煤。汗塗れの男が声を掛けてきた。

 見た様子鉱夫なのだろう。


 リンたちは「そうだよ」と答えた。


「何を目的にきた。組合からの命か?」

 それに「個人的な用事だよ」

 とクリンドが答えると鉱夫がため息を吐いた。


「個人的にぃ?依頼か?」

「いや、本当に個人的に」

「許可は貰ってるのか」

  「 いや⋯んー⋯」

 グランドが口ごもると鉱夫は鼻を鳴らして「話にならん」と呟いた。


 ピコが「何この流れ」と呟くと

 鉱夫が「帰れ」と口にした。


「え、待って、組合からの命を受けて来たよ!」

「証拠は」

「 ありません」

「帰れ」

「ええええええ!?ここまで来てぇ!?」


 嘆くピコを鉱夫がやかましいわと諌めた。

 すぐに大人しくなる。

 クリンド相手なら騒ぎ続けるのに知らない相手だとお利口さんのようだ。


 しかし、この様子だとこの先には進めそうにない。


「も〜クリたんが正直に言っちゃうから」

「あ?嘘つくのもよくねぇだろ?」

「時と場合ってあるじゃんか〜」

「てか、お前も嘘ついたのに何にもプラスにならなかったじゃねぇかよ!」

 

 揉める二人を見てユウキとリンは苦笑いするしかない。


 極端に肩を落とすクリンドとピコに見かねたのか鉱夫がため息を吐いた。


「まぁ、儂らの働きを見るだけだったら中を案内してやってもいい」


 その言葉にクリンドとピコは目を輝かせたると、その鉱夫に向けて手を擦り合わせた。


『現金な奴⋯』

 とユウキが呟くとリンは「あはは」と小さく笑った。


 ●

 

 鉱夫に案内されて四人は坑道を進む。


 坑道の中は暗い。ところどころに配置された照明によって視野が確保出来ている。

 作業をする鉱夫たちはその明かりを頼りにしていた。


「ぱっと見、あまり珍しそうな鉱石は見当たらないな」


 クリンドの言葉に鉱夫が鼻で笑った。


「希少なものがそうポンポン出てきてたまるか」

「夢がねぇな」

「お前さんは夢を見過ぎだ」


 クリンドは「ケッ」と吐き捨てた。


「クリたぁん。何だかオバケが出てきそうな雰囲気だね」


 ピコがグランドに引っ付いてそう言う。

 クリンドは煩わしそうだ。


「離れろ。あと、幽霊なんているわけないだろ」


 ここにいますが。


 リンは半笑いしてるユウキを見て、くすくすと笑う。


「はぁー?クリたん冷たーい」ピコが嘆いた後にくすくすとするリンに視線を向けた

「なぁに、リンたんも居ないって思ってるの?」


 ジト目で言うピコにリンは「ううん、居るよ」 と小さく笑って答えた。


 目を丸くしたあと

「はぁい!二対一〜!」とはしゃぐピコ。


「それより、外と比べると全く魔物が出てこないね」

 リンがそう口にすると、聞き取った鉱夫が言った。


「そこらに置いてある。魔導石のおかげだな」


 リン、クリンド、ピコの声が重なった。

 リンは疑問符を浮かべ、クリンドとピコは目を輝かせた。


「あの魔導石は光を照らすだけではなくなぁ。魔除けの効果があって魔物を弱体化させるんだ。それを厭わない魔物はいないだろう?」


 話を聞いたクリンドが早速、魔導石に近付くとマジマジとそれを見つめていた。

 ⋯眩しくないの?


「ちなみに、その魔導石にはさっき嬢ちゃんが言ってたゴーストにも効力がある」


 一瞬固まった。は?ゴーストにも効力があるだって?。反芻してまた固まった。ユウキは冷や汗をかいた。


 リンも驚いた表情を見せたあと、固まるユウキを心配そうに見ていた。


「いや、ちょっと体が重いなぁ。なんて感じてはいたけど⋯」


 ユウキもあの魔導石が気になって近付いた。


「―眩しい眩しい眩しい!」

 眩しいだけじゃない、痛い。熱い。身を焦がすような感覚だ。


 ユウキは飛び退くと、

 異能【解析】を行使して魔導石にフォーカスを当てた。


【 刻印術式:

【 魔弱体化:段階一】

【 霊滅:段階一】 】


 情報がユウキの視野に映った。


「なんだよ。霊滅って⋯溶けるとこだった⋯」


 ふと、ミディムの墓で出会ったお爺さん霊の言葉を思い出した。霊を排除する組織がある。ということを。


 ユウキは身をぶらりと震わせた。

 魔導石に刻印された術式の段階は最低レベルだったのにユウキに与えたダメージが大きかった。


 もしかしたら、霊滅隊とやらはこの魔導石以上の霊滅力を持っているのかもしれない。


 なんか、そう考えただけど嫌いになりそう。


 一人わなわなしてるとリンに『バカ!なんで、オバケにも効くって言われてたのに!⋯もう!』


 かなり、御立腹だ。

 確かに今のは軽率過ぎた。

 もうちょっと考えて行動しなきゃなぁ⋯そう思った矢先。


『もうちょっと考えて行動してよね、本当』

 呆れられたように言われた。


 泣きそうだ。ユウキは涙目になった。


 もう迂闊に魔導石に近づくのは止めよう。


 そう思った時、その場に居た鉱夫たち、ユウキ以外が小さく悲鳴をあげて驚いた様子を見せた。


『どうしたの?』

『ん、足元が揺れて』

『揺れた?』


 クリンドもピコも「なんださっきの揺れは」と口にした。


 はぁ、霊体だと揺れも感じない。生きている人。それが仲間と共感出来ないのがちょっともどかしい。

 もし何か起こった時に対応するのが遅れそうだなぁ。とユウキは思った。


 それより、鉱夫たちはその揺れの事をどうにも思ってないように見えた。


「この揺れは毎日起きる事だ。気にしなくてもいい」と鉱夫は告げた。


 ●


 鉱夫たちは【 刻印術式:【傀儡】 】が付与された全長三メートルはある、ゴーレムに命令を与え坑道の開拓に勤しんでいた。


 実際に自分たちの手足を使って作業をするのと、人間の域を超えた魔物に事をさせるのとは比べ物にならない。


 人間は疲れを感じることなく成果を出せるのだ。

 

 今ではこの存在があるからかこそ、鉱業界隈が成り立っていると言っても過言ではない。


 ゴーレムが土壁を殴る。

 鈍い音が響き渡る。

 殴る。砕く。殴る。砕く。


 すると、鈍い音と共に土砂が崩れ落ちた。


「おぉ⋯」


 鉱夫が感嘆をあげた。


 目の前に現れたのは空洞だった。

 予想より大きな空洞だった。


 空洞を魔導照明で照らすと光の加減で壁面が様々な色合い、輝きを見せた。


 神秘的な光景だった。


「凄い⋯凄いぞ!やった!やったぞ!」

 高々と叫ぶその声に気付いた他の面々が続々と空洞に足を踏み入れた。

 各々が感動を露わにした。


 盛り上がる中一人が声高に言う。

「さっさと、作業に戻れ!喜ぶのはその後だ!⋯今日は呑むぞ!」


「うぉおおお!」とその場に居た者たちが歓声を上げた。


「よし、親っさんに連絡入れっかぁ。コレ見たら度肝抜くだろうなぁ」


 この場のリーダーである彼ザックは懐から魔導携帯を取り出した。

 新たな開拓地。その美しい光景。いつも以上に張り切り鉱夫たちの写真を撮って、自分の上司ホルンデスに送ろうとした。


 その時だった。


 鈍い音と何かが壁に衝突する音。叫び声が響いた。


 意識をそこに向けたら若い鉱夫が地面にうずくまっていた。

 すぐ後ろの壁は凹んでいた。

 鉱夫の前には作業で使うゴーレムが唸りを上げ、大きな手を何度も開閉し。眼光を妖しく光らせる。


 本来のあるべき姿になっていた。


「⋯なぜだ」呟いた。

 何が起きた?ゴーレムは自分たちの支配下にあったはずなのに?


 別の方向でも悲鳴が聞こえた。

 そして、続くようにまた。また。また。


 ザックは魔導携帯を使ってホルンデスに繋げる。


「親っさん!親っさん!マズイことになっちまった!奥まで来てくれて!」


 一方的に告げると魔導携帯を懐にしまい込んでザックは走った。


 仲間を助けるために。


 ●


 リンたちが不安気な表情をした。

「凄い揺れてるけど本当に大丈夫?」

 リンが言うと

「⋯今日は少し激しいようだ」と鉱夫も困惑した様子だった。


「おっと、連絡が来た」

 鉱夫は懐から魔導携帯を取り出すと耳に当てた。


「どうし⋯」

 魔導携帯を顔からバッと離した。耳に響いたらしい。


『親っさん!親っさん!マズイことになっちまった!奥まで来てくれて!』


 切羽詰まったような怒号が魔導携帯から漏れた。


 それを聞いた親っさんは表情を険しいものに変えた。


 魔導携帯からは男の声がしないものの、荒々しい音声が流れている。


 何が起こってるのか分からないがただ事ではないようだ。


 鉱夫が走ろうとした。

 そして、振り返ってリンを見た。


「お前ら、冒険者だろ。依頼だ」


 皆が顔を見合わせた。


 ●


 移動する為にトロッコに乗せられて爆速移送。

 乗車する者全員がありえないくらいに表情筋を歪めた。

 特にピコなんて美少女を台無しにしてしまっていた。


 停止とともに硬い地に放り投げれる。


 鉱夫は呻き悶えるピコの襟首掴んで強引に立たせる。

「お前、本当に冒険者か⋯?」

 胡乱げに言われたピコは

「今日そこのリンたんにお金払ってもらって、冒険者登録を済ましたばかりです」

 とおずおずと答えた。


「こんな奴に時間を使った俺は馬鹿だった」


 鉱夫が顔を押さえて嘆いた。

 ため息を吐いたあと鉱夫は苛立ち気に「行くぞ」と告げ

 背を向けた。


 何だか気まずい雰囲気ができてしまった。


 クリンドは落ち込むピコを見て何か言いたそうな様子だが。

 堪えてるようだ。


 リンも難しそうな表情をしている。


 鉱夫の背に続けば、段々と激しい物音が近づいてくる。


『気を引き締めて行くよ』

 リンは静かに頷いた。


 少ししてから目的の場所に着いたようだ。


「⋯なんだここは。何が起きているんだ」


 ユウキたちが目にしたのは今まで通っていた坑道とは大きく変わって広い空洞だった。


 辺りに道中目にしなかった鉱石が所々にあり、辺りに散らばる照明がそれを照らしていて芸術的な作品を作っていた。


 ―猛威を振るうゴーレムがこの場に居なければ皆息を呑んでこの景色に感動していただろう。

 ゴーレムの数はざっと五十近くだ。


 まさに阿鼻叫喚の間だ。


 何人かの鉱夫たちが倒れ、蹲り、呻き。吐瀉物に塗れ、中には気を失っているものをいた。


 ユウキたち、鉱夫の到着に気づいたのかゴーレムと戦っていた男が「親っさん!」と叫ぶ。

 ゴーレムの一振りの拳を手に持つ大槌で弾くと転がるようにこちらにやってきた。


「親っさん!」

 親っさんと呼ばれた鉱夫に飛びつくように言った。ちらりとリンたちに視線を向けたがすぐに親っさんに意識を戻した。


「大変なんだ!」

「落ち着けザック。見て分かる。この状況はなんなんだ。何故ゴーレムが⋯。それより何故逃げなかったんだ」

「仲間が目の前で窮地に追われて放っておけるわけないだろ!」


 ザックと呼ばれた男の言葉に親っさんは目を伏せ「そうだな」と呟いた。


「今から仲間を回収するぞ。⋯出来損ないども。依頼は解消してないぞ」


 言うと親っさんはザックを連れて敵地に足を運んだ。


「わたしたちも行くよ」 そう言ってリンが続いた。その瞳には怒りを宿していた。


「ピコ。行くぞ」

「⋯うん」


 ●


「ありがとう嬢ちゃん⋯」

 満身創痍な鉱夫たちを次々とリンは魔術を行使して回収していった。

 それを更に安全な場所に運ぶのがクリンドとピコの仕事だった。

 クリンドは負傷した鉱夫を無理に引き摺り。

 ピコは小さなその体に見合わない怪力を発揮させその身で鉱夫を一度に三人担いでいた。

 親っさんとザックはリンたちの能力を知ると前線に潜りゴーレムの攻撃を交わしながら仲間を救出しリンに投げ渡す。

 時に危なくなればリンが魔術で親っさんとザックの位置を整えた。


 こうしてリレー方式で人命の救助をした。


「⋯手負いは多いが幸い死人は居なかったようだ」


 鉱夫たちの回収を終え空洞から離れると、

 親っさんが安堵したように息を吐いた。


「しかし、俺たちの支配下にあったゴーレムが何故暴走したんだ」

「俺にもわからねぇ。ただ、刻印の術式が解けたとしか言いようがねぇ」

 明確な答えがわからず、唸る二人。

「しかし、こうなってしまったら。アレを対処しなければならん。逃げるわけにもいかん。ここを捨てたくはない」

 親っさんの言葉にザックは同意とばかりに頷いた。


「だが、あんな量のゴーレムをどうやって相手取ればいいんだ」

 親っさんが困ったように言った。

 リンがこちらを見た

『ユウキくん⋯得意分野だよ』

『⋯珍しいねリンちゃんが頼ってくるなんて』

『流石にあの量はわたしには無理かなって』

『うじゃうじゃ居たもんね』


 しかし、ユウキが一掃能力に長けてるからってここで爆発を起こしたらどうなるのだろうか。

 この鉱山がめちゃくちゃになるのではないのだろうか。

 この鉱夫たちもこの鉱山に思いやりがあるようだし。


『んー、今回はやれなさそうかな。爆発を起こしたらめちゃくちゃになりそうじゃん』

『いつもめちゃくちゃしてるじゃん』

『⋯⋯』

 返す言葉もなかった。

 なにこれ、リンが珍しくイケイケだ。やる?やるしかない?

『せめて許可だけとってよ』


 ユウキの言葉に頷いてリンが口を開く。

「わたし、爆発魔術が使えるの」


 爆発魔術かあ、ついに自分の手柄にしてるよ。この子。

 いいんだけど。


「ほう⋯二つの属性持ちか。ちなみにその爆発魔術の規模は」

「多分、あそこの空洞がなくなるくらい」

「⋯⋯強烈だな。となると、衝撃諸々でこの坑道に大きな損害が出るわけだ。それに、お前まで巻き沿いを食らう羽目になるぞ。

 規模を調整することは出来んのか」

『出来る?ユウキくん』

『⋯変な形で爆発魔術覚えちゃったからねぇ。一度かき乱したらそこから一直線なんだよね』

「無理みたい」

「みたい?⋯まぁ、そうか。じゃあどうしようもねぇな」


 他に手は?と再び考え事に。


 ユウキも一緒になって考える。


「やはり刻印の術式が解けた原因を探るしかないんじゃないか。親っさん」


 ザックの言葉にリンは「刻印?」と呟いた。


「それ、さっきも言ってたね」

「ああ、あのゴーレムにはもともと傀儡の刻印が植えつけてあったんだ。それで俺たちの思いのままに動く道具だったんだけどな」


 ふーん、何となく聞いていたユウキがぱっと思いつく

「傀儡かぁ」

 操り人形だ。操ればいいんだ。

 前回苦戦したあとにそうすれば、って一人で反省したではないか。それに今日だってボムゴロンに沢山憑依したではないか。


『ねぇ、リンちゃん。あのゴーレムに憑依してみようと思う』

『それは、問題なさそう?』

『とりあえず、やってみる』


 ユウキの言葉にリンは頷くと

「わたし、魔物を操る能力を持ってるの」と口にした。


「⋯お前。本気で言ってるのか?」と疑いの目を向けられる。

 クリンドとピコも、何か言いたそうな表情をしている。


『提案しておいてあれたけど、情報はあまり口に出さない方がいいと思うよ』

『だって、言わなきゃはじまらないじゃん』


 ご尤もだ。よし、そうと決まれば動こう。


『リンちゃん行くよ』

 リンは『うん』と頷くとゴーレムの群れる空洞に向ける。


「待ってくれ!俺もついて行く!」

「ピコも!」

「⋯大丈夫なの?」


 リンの困ったような声に二人は

「一応俺だって異能を持ってるんだ!連撃錬磨って言って、殴れば殴るほど威力が高まるらしい!」


 らしい。実用したことがないらしい。


「ピコは、ちからもちって異能を持ってるよ!名前の通り力いっぱいだよ!鉱山って重たい石とか岩とかいっぱいじゃん!もしかしたら力になれるかも!」

 

 必死に売り込みに来た。

 微妙な異能だけど、使い道は有るかもしれない。


「危ないよ?」リンがそう言うと。

「そっくりそのまま返してやる」

「それに、仲間が目の前に窮地に追いやられるのは放っておけないでしょ?」


 どっかで聞いた台詞だなぁ。

 でも、いい奴らだ。見直そう。ユウキはそう思った。


 ●


『じゃあ、早速、憑依するよ。適当にポージングして』

 リンは頷くと手をかざしてそれっぽいアクションをとった。

 傍目から見たら魔術の行使に見えるだろう。


 ユウキはすぐ近くに位置どるゴーレムに憑依試みる。


「!?」

 しかし、強く拒まれるような感覚に弾かれ失敗した。


「終わった⋯」


 抵抗された。ユウキの中ではチョチョイっと憑依をしてゴーレム大戦でもしてやろうと思ってたのに、どうやらそう簡単にはいかないようだ。


 抵抗された。つまりは抵抗出来るほどの力を相手は持っている。その力を削ぐためにはまずは弱らせる。

 話はそこからになるようだ。


『リンちゃん、憑依に失敗した。まずは弱らせるしかないみたいだよ』

「そっか⋯」

 困った様子なリン。

 口では簡単だが、難しい。

 これは骨が折れそうだ。


「ごめん!皆、操るにはちょっと相手を弱らせないと無理みたい!」

 リンがそう言うとピコが何処からか大きな岩を担いで標的にしたゴーレム相手にそれを投げつけた。

 ゴーレムは投擲された岩を大きな拳で粉砕し粉となった。


「ピコーん!?」 変な嘆きが聞こえた。


 ピコ的には大きな打撃だと思ったのだろう。大きな打撃。


 砕け散った岩の塵屑を見て

「結局、そこに至るのか」 ユウキは苦笑した。

 

『どうしたのユウキくん』

『いや、ちょっと思いついちゃって。クリンドとピコに燃やしても害がそんなない鉱石探させて、もう一回投げつけるようお願いして!』


「よくわかんないけど、わかった!」

 リンはそう言うとユウキに言われた通り二人に指示をした。


 ゴーレムも大人しくしてるわけじゃない。

 クリンドとピコに迫るゴーレムもいれば、当然リンに襲いかかるゴーレムもいる。

 動きは見た目通り重々しいが、攻撃の範囲と威力が馬鹿に出来ない。

 振り回される大きな巨腕。

 距離を離せば手短な岩を投げつけてくる。

 それも数が多いから厄介極まりない。


 戦闘経験の乏しい三人には苦行だろう。


 やっとのことでクリンドが良さげな鉱石を見つけたようだ。

 それをピコが持ち上げるとリンと対峙するゴーレムに投げつけた。


 今回はゴーレムの不意をついたようでそれが直撃して砕けた。

 粉砕して塵が舞った。

 ユウキはそのめがけて下級の火属性の魔術を放った。

 すると、赤い光が発生して弾ける。轟音が鳴った。

 爆発が起き衝撃がゴーレムを襲う。

 粉塵爆発だ。爆発は爆発だが懸念していた爆発の規模を小さくする事が出来た。


 爆発でゴーレムは木っ端微塵となった。

 脆すぎた。

「これじゃぁ、憑依も出来ないじゃんか」

 嘆息するユウキをよそに、リン、クリンド、ピコは嬉しそうに声をあげた。


 長期戦になるなぁ。ユウキはそう思った。


 ●


 同じ戦法で戦い続けて、かなり時間が経った。

 皆、体びっしょりに汗を流して息も絶え絶えだ。

 リンは戦闘中にクリンドとピコを救うために魔術を何度も行使しているから特に消耗してるだろう。

 ユウキ自信も魔術を頻繁に行使してるので疲れている。


 しかし、目に見えた結果もある。

 五十前後はいた、ゴーレムの数があと一体だからだ。

 結局、ユウキの憑依。クリンドの異能を使わずじまいになりそうだ。


「凄い⋯皆頑張った、ね」

「 はぁ。それは、終わってから言う、言葉だ、ろ」

「⋯クリ、たん、は、何も、してない、じゃん」

 ピコの言葉にクリンドは顔を顰めた。

 いつもなら「うるせぇ」とでも反発するのに、流石に疲れてるのか。それとも疲労したピコを見て口に出すのを躊躇ったのだろう。


「じゃぁ、終わりにしよっか」

 リンのその言葉を合図にピコが大きな岩を持ち上げて最後のゴーレムに投げつけた。


 ●


 食卓には子供が好きそうな食べ物がズラリと並んでいた。

 からあげ、ハンバーグ、ミートボール、オムライス、ミートパスタ、フライドポテト。


「リ、リンたん⋯!こんな食べてもいいの!?こんなに食べていいの!?」

 よだれをドバドバ出すピコに

 リンは「いいよ」と答えた。

「本当にいいのか!?」

 ピコと同様飢えた獣のようによだれをドバドバ垂らすクリンドにリンは「いいって」って苦笑いして答えた。


「皆頑張ったからご褒美」


 じゅるりとよだれを唆る二人。

 それから「いただきます」と声高にして凄まじい勢いで吸引していく。


 鉱山での一件。

 全てのゴーレムを殲滅し終えた三人は鉱夫たちに多くの感謝を述べられた。

 鉱夫の親っさん、ホルンデスが吐いた、暴言も取り消された。


 報酬として、多額の金銭と。

 坑道の奥地で採れた希少な鉱石を譲ってもらった。


 クリンド曰く最も凄い鉱石は

 鉱石全体に魔力が張り巡るという魔鉱石。

 その魔鉱石には不思議な効力が秘められていたようだ。


 クリンドは連撃錬磨の異能の他に鑑定をもっており、その魔鉱石を鑑定した結果、周囲の異能の効力を弱めるといった代物だったらしい。


 もしかしたら、刻印術式の傀儡やユウキの憑依の能力を低下させた要因はこの魔鉱石だったのかもしれない。


 ユウキがそう考えているのをよそに

「クリたん。あーん」

「バカ。やめろ。恥ずかいから」

 と目の前でピコとクリンドがイチャイチャしていた。


『仲良いね』

『そうだね』

 と二人は微笑ましくやりとりを見ていた。


「ねぇ、二人って凄い仲良しだけど」

 その言葉にイチャイチャしてた二人の動きが止まった。

 リンは続けた。

「二人は恋人同士なの?」

 決め手の言葉にピコはもじもじ嬉しそうにはにかんでいる。

 反対にクリンドはめちゃくちゃ嫌そうに顔を顰めていた。


『そーいう感じね』

 ちぐはぐとした二人の様子にユウキとリンは小さく笑った。


「そうだ。リンたん。今は一人みたいだけど、ゆくゆくは仲間を作ったりする?」


 その言葉にリンはちらりとユウキに視線を送った。

 一人じゃないよって言いたげだ。


「そんな事、全然考えてなかった」


 リンがユウキを見ながら難しそうな表情をしている。


『どしたの?』

『ユウキくんが居るから一人じゃないよって。でも、二人に説明するのもなぁ〜って』

『まぁ、そうだよねぇ』

 告白するのはリンの自由だけど、可笑しな目で見られそうではある。


「ずっとこの町に居るつもりは?」

「それはないかな。それじゃあ、わたしの目標にいつまでたっても辿り着けないし」


 言うと

「だってさ、クリたん」

 ピコはクリンドに話を振った。


「だったら、俺たちと組んでくれねぇか」


 その言葉にリンは目をぱちくりと瞬かせた。

 ユウキは「お」 とこの先の展開に期待する。


「⋯わたしと二人の目的は違うよ?」

「目的は違えど一緒に旅をする事はできるだろ?」

「でも、今日の出来事よりもっと危ない日があるかもしれないよ?」


 クリンドは「それはマジで勘弁だけどな」と困ったように笑った。

「でも、冒険に危険はつきものだろ?」

「そうそう!危ない目に遭ったら遭ったで、どうにか今日みたいに乗り越える!無理だったらしゃーなし!」


「いや、それはダメでしょ」

「 いや、それは駄目だろ」

 リンとクリンドは声を重ねた。

 ピコは「へ」と可愛らしく舌を出す。


「でも、結果よければよし!今日クリたんは何もしてなかったけど力を合わせれたから今があるっ!」


  クリンドがピコを睨みつけるのをよそに、ピコは続けた。


「絶対一人より二人、三人の方がいーよー?」


 そうそうと頷くクリンド。


「それに俺たちものづくりが得意なんだ。だからリンの力になれると思うんだ。今日のお返しもしてぇし。どうか頼まれてくれないか」


 二人の真剣な眼差しを受けて

 リンは「で、でも」とたじろぐ。


『いいんじゃない?旅にはオトモは必要だと思うよ。折角、同性の子も居るんだし、悪い話じゃないと思うよ。多分これから、どっかで問題にぶつかることもあるだろうし、その時に助けてもらえるかもよ』


 先程まで見守って居たユウキが後を押す。

 それでも、リンは「ん~」と悩む。

 後に、決心したようで嬉しそうに、でも何処か寂しさを宿した表情で「そうだね」と息を吐いた。


「わかった。これからよろしくね」


 それを聞いた二人は大袈裟にはしゃいだ。


 一瞬リンの表情に宿したあの寂しそうな顔はなんだったのか。

 何を思ったのだろうか。

 彼女の背景をユウキは思い浮かべた。


 ●


 恒例のお風呂タイムだ。

 おっと、湯気が凄い。視界を埋め尽くす細かな粒子を手で払い飛ばす。

 視界が晴れるとそこには可憐な妖精さんの後ろ姿。

 線の細い肢体透き通った肌色に綺麗な髪には毎回惹かれてしまう。


 ユウキは浴室に頭を突っ込みながら言葉を発した。


「今日は大変だったね」

「⋯うん。そうだね。本当⋯。それより、前にも言ったよね?それ、気持ち悪いって!入るなら入る!入らないなら入らない!出てって!」


 罵声を浴びたユウキは「ごめん」 と嘘泣きをして、そろり身を引こうとする。


 そして、稲妻に打たれたような衝撃を受ける。


 先程リンに言われた言葉を脳裏で繰り返す。

「気持ち悪い」「入るなら入る」 「 出てって」「 入るなら入る」


「 入るなら入⋯る?」

 え?入っていいの?言質とった?

 ユウキは喜びを露わに「わーい」と再び浴室に入った。


 すぐに大きなため息を吐かれる。

 諦めた様子でありながらも、リンは少し恥ずかしそうにしながら体を洗いはじめた。


 のちに、ユウキをちらちらと見るようになって

「やっぱり恥ずかしいから出てって」

 とこぼした。


 ハイ。と回れ右をして更衣室に出る。


「今日はウサギかぁ」

 可愛い。


「今日は試験があったり、あの二人の事だったり、鉱山で起きた事だったり、色々大変だったね」

「そうだね。明日からはもっと大変になると思うよ」

 ユウキがそう言うとリンは

 楽しそうに「そうだね」と答えた。


────────────────────

追加能力


ユウキ


属性

【土】


異能

【硬化】肉体を硬質させる。(肉体に憑依している時に使用が可能)

【変化:ゴーレム(霊体)】



今回はグダグダになってしまいました。

(いつもそうかもしれない)

特に悔やんでいるのはもともと考えていたものとは全く違う風になってしまったことです笑


本当は鉱山でユウキが大爆発を起こして

作中に現れるゴーレムよりもっと巨大なゴーレムを呼び起こしてしまって

それにユウキがリンに叱られ

後始末をどうするかとなり、ユウキがクリンに憑依してクリンドの異能駆使して皆と強大な敵に立ち向かっていく。そんな構成だったんですけどね⋯色々設定を考えていたらそれが叶わなくなってしまいました。

いつか、書き直す機会があったらその時は思い描いていたものにしたいと思ってます。

次のエピソードは冒険者となったリン。緊急任務を受けることになる予定です


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