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ダンジョン管理人は美少女ヒロイン!?

 両手の指に指輪をはめて、3ピーススーツに着替えた俺は、コハクと一緒にエレベーターに乗り込んだ。


 狭い空間に美少女と二人きりでいると、なんだか不思議な気持ちになる。

 最初は半信半疑だった俺だけど、今ではこれがドッキリやイタズラの類ではないと実感する。


 あの小さなプレハブ小屋にこんなスペースがあるはずがない、というのもだけれど、なによりもコハクの存在が俺にここがダンジョンであることを強く自覚させてくれる。


 ――現実に、こんなきれいな子がいるわけないもんな。


 人間と言うよりも、ダンジョン上層部に出ると言われるフロアボスの女神や精霊に近い、人間離れした美しさを誇る横顔に見とれていると、ぽぉん、と電子音が鳴った。


 すると、コハクはエレベーターガールよろしく、上品な笑みで手をかざした。


「25階、大森林でございます」


 ドアが左右に開くと、そこは木々が鬱蒼と生い茂る森の中だった。


 濃い緑と土の香りが鼻腔を満たして、学校行事のキャンプ学習を思い出した。


 いや、それよりももっとずっと深くて、奥行きのある香りだ。


 革靴で草地を踏みしめるも、歩きにくさはまったく感じなかった。


 まるで、運動靴を履いているような軽さとフィット感、そして柔軟性を感じる。


「じゃあついてきてマスター。こっちに、最適の相手がいるから」


 言われるがまま、俺はコハクのうしろをついていく。


 すると、一分も経たないうちに、暗い森の静寂をおしのけるように鈍い音が聞こえた。


 ずぶずぶと、土を掘り起こすような、そして、地面をこするような異音。


 耳を澄ませてそちらへ視線をやれば、一本の大木がうごめいていた。


 直径1メートルはありそうな枯れ木が、広く伸ばした根をタコのように動かし、猫背の老人のように幹を前にカーブさせながら、地を這っていた。


 口と目のように三つのうろが空いていて、非常に不気味だ。


「ドライトレント。硬くて剣も槍も弓矢も効かない上に長い根や枝の攻撃範囲は広い強敵。だけど……」


 コハクが声を潜めてから、俺にグッとサムズアップ。

 それを合図に、俺は事前の打ち合わせ通り、右手を突き出した。


「フレア!」


 俺の言葉をトリガーに、右手人差し指の指輪が耀いた。


 手の先には火花が散り、それは見えない燃料に引火したように燃え上がり、一瞬で直径30センチほどの火球へ成長した。


 表面に紅蓮の渦を巻きながら波打ち、うねる火球に感動した直後、火球は放たれた矢のように手を離れていった。


 灼熱の尾を引きながらフレアは大気を駆け抜けていく。


 その音か、熱を感知したのか、ドライトレントはわずかに身じろぎして、こちらに顔を向けた。


 その顔面に、俺のフレアが直撃した。


「■■■■■■■■■■■■!」


 木々が燃える音ととは違う、怨嗟のような雄叫びを上げて、ドライトレントの顔面が燃え上がった。


 火は瞬く間に全身に燃え広がり、ドライトレントを飲み込んでいく。


 ドライトレントはもだえ苦しみながら根をうねらせ、枝葉を腕のように振り回した。


「ドライトレントは強敵。だけど、火炎属性の攻撃には極端に弱い。おまけに動きが遅いから攻撃を当てるのも簡単。根や枝の攻撃射程外からフレアを浴びせれば、レベル1でも一方的に蹂躙できる」


 コハクが淡々と説明する間にも、ドライトレントは炎上し続け、枝葉が燃え落ちていく。


 紅蓮の炎の中で黒いシルエットが徐々に輪郭を崩し、動きも鈍くなっていく。


「もっとも、普通のダンジョンだと20階層以降にしか出ないから、レベル1の冒険者がこのレベル上げ方法を実践することはできないんだけどね」


 コハクの言う通りだ。


 やろうと思えば、どこぞのお金持ちが高レベル冒険者のインストラクターを雇った、接待プレイをするしかないだろう。


「そしてここでワンポイントアドバイス。魔術の使い分けは弱点属性と、もうひとつ、追加特性を見極めて」


「追加特性?」


 俺がオウム返しをすると、コハクは頷いた。


「うん。ほら、見ればわかるけどマスターが使ったフレアは一度だけ。なのにドライトレントはまだ燃えている。火炎魔術の特性1、当たった後も相手を炎上させて追加ダメージを期待できる」


「あ~」


 俺は深く納得した。


「それに物理強度を無視してダメージを与えられるのも特徴だね。火炎攻撃は熱攻撃、防ぐのに必要なのはあくまでも熱耐性。知っている? 最高の硬度を誇るダイヤモンドは炭素の結晶だから、火を点ければ燃えちゃうんだよ」


「つまり、炎属性が弱点、てわけじゃなくても、たとえば硬い甲殻をまとったモンスターなんかにも、有効ってわけだな?」


「Excellent! マスターは呑み込みが早いね。そういう子はボク好きだよ」


 指を鳴らして、コハクはぱちりとウィンクをしてくれた。

 あと、好きという単語を使われて少し胸がドキドキした。


「ただ手のかかる子も可愛いと思うけどね」


 にやりと笑いかけられて、俺は頬を硬くした。


 ――この子、童貞の気持ちに精通しすぎじゃないかな?


 俺がコハクに優位を取りたいなと思っていると、突然目の前にリザルト画面が開いた。

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