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アストロ・レールウェイ ―火星姉バカ放漫軌道―  作者: 井二かける
第一章 火星行き試運転編 セクション1: スタートライン
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相談


「起きてください、少尉!」

「むにゃむにゃ、コンジットの音は最高だよぉ~ごもっ」


 私はルナ准尉の手刀で叩き起こされた。


「少尉、時間厳守は鉄道員の誇りです。あなたのひん曲がった性根には何かご事情があるのは分かりました。ですが、これ以上、私たちの誇りを汚すのは許せません」


 誇り、か。懐かしい響きだ。そんなものはこの任務を受けたときに捨てたのだ。


「あれぇ、昨日はちょっと分かり合えたはずだったのになぁ」

「何も分かり合っていません。分かろうとも思いませんが」


 一睡しただけで、ツンケン状態に戻ってしまったルナ准尉なのであった。


「でも、ありがとう。おかげでグッスリだったよ」


 すると、ルナ准尉はキッと私を睨んだ。


 ……そうでした、寝坊しかけたのはグッスリしすぎたからでした。


 私は鬼軍曹様――正確には准尉だが――に睨まれながら身なりを整えると、慌てて部屋を飛び出した。


 その後も、ルナ准尉は、私の立ち振る舞いを一つ一つ咎めはじめた。


「通路を走らないでください!」

「歩き方がなっていません!」

「上官に何て言葉遣いをするんですか!」

「セロリを残してはいけません! 大切な資源なんですよ」


 これは、完全に嫌われてしまったパターンなのか……。




「ルナ准尉、厳しすぎるよう……」


 私はサリー少尉の前で突っ伏した。ブリッジクルーの運用主任の少尉だ。食堂車で軽食を取ろうとしたとき、たまたま同席することになったのである。


 サリー少尉は私と同じ階級だが、もちろん私よりも年上である。とはいえ、ルナ准尉を除けば一番年が近いクルーでもある。


 私の話を一通り聞いたサリー少尉は、目を細める。


「訓練所を出てから数年ぐらいは、どうしても潔癖になっちゃうからね」

「ブリッジクルーの皆さんみたいに和気あいあいとしたいですよぉ」

「うん。だよねぇ」

「どうすれば良いんでしょうか」

「うーん。でもあれは私たちが地球の周りで何度も試運転を重ねて、同じ生死の境をくぐり抜けてきたからこそなんだよね。クレイ中尉が船長や副長に対してあんな態度でも許されてるのもそう。それでも私はちょっと遠慮しちゃうけどね」

「そういうもんなんですね……」

「それにね、ルナ准尉の言うことは正しいと思う。厳しいこと言うけど、ごめんね。ヒカリは、今、『この人のために命を賭けていいのか』とクルー全員に見定められてるところだから。もちろん、私もそうだよ?」

「……それは分かってるつもりです。サリー少尉はどう思いますか?」

「うーん、本当のこと言ってもいい?」

「はい」

「正直言うとね、私は納得できなかった。あなたが地球の代表みたいになることも含めて。だって、本当のところ、あなたは迷っているでしょう?」

「……」


 私は迷っている……のだろうか? このモヤモヤは、迷いとは別のような気もする。


「だから、私たちも不安なんだよ」

「そうですか……」

「でもね、私を頼ってくれたから、今日からは応援する」

「えっ……。ありがとうございます」


 案外そんなもんだよと、サリー少尉は笑う。


「だから、ヒカリ。友達としてアドバイス。多分、ルナ准尉はヒカリに歩み寄ろうとしてると思う」

「え~……そうですか?」

「考えてみて。直属の上司に、食べ残しのレベルで苦言を言うなんて、デメリットしかないでしょう」

「……確かに」


 そんな上司は自滅するまで好きにやらせたほうがメリットも大きいはずだ。


「彼女があなたに何を期待してるか知って、それに応えてあげて。彼女は私と同じ高卒だから、ただでさえキャリア上は不利なんだ」


 私は少し驚いた。サリー少尉は、高卒入職で少尉への昇進を掴んだ、極めて希有な人物なのだ。そのアドバイスは、きっとルナのためになるものなのだろう。


「これは、ヒカリにとっては厄介事かもしれないけれど、彼女にとっては人生を左右するようなチャンスだと思う。このチャンスを活かして成果を残せなければ、少尉への昇進はさらに遠のいてしまう。もしあなたのことが気に入らなかったとしても、彼女にはこのチャンスの逃す手はない。だったら、誰だって気持ちよく仕事したいじゃない?」


 彼女の言葉には、底知れぬ迫力があった。


「ありがとうございます。努力してみます」


 もっとルナ准尉のことを知る必要がありそうだ、と私は思った。



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