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アストロ・レールウェイ ―火星姉バカ放漫軌道―  作者: 井二かける
第二章 波乱の火星編 セクション4: ディストピア飯改革
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分断


 翌朝。


 辞令交付式までの間、少しだけ散歩することにした。一人の意見を鵜呑みにすることはできないからだ。


 まだ、寝起きでぽやぽやしているルナを引き連れて、まずは朝食である。



「ヘイ、アシスタント。二名分お願い」


 相変わらず、ディストピア飯である。ただし、昨日とは内容が違う。プロテインバー的なものに、青緑のゼリー、そしてオレンジ色のゼリーである。あと錠剤。


 慣れれば何と言うことはない。オレンジ色のゼリーは、一応オレンジジュース味である。ただし、かなりケミカルな香りで、しかも薄味ときた。これが毎日続くのはキツいなぁと思う。


 地球の庶民の私でこれである。ルナは食欲が湧かないようで、スプーンの裏でペしぺしとゼリーを叩いていた。



 たまたま隣に座った少尉に、挨拶してみる。


「おはようございます、少尉」


 彼は戸惑った後、ボソリと返事する。


「……ッス」


 向かいに座った少尉にも、声を掛けてみる。


「おはようございます、少尉」

「……!? ぉ……すぅ……」


 彼女も戸惑っているようだ。


「私は地球から来た、少尉のヒカリ・サガと言います。こちらはルナ准尉。これから二年間お世話になります。よろしくお願いします」


 少尉二人はお互いに顔を見合わせた後、苦笑いする。これは、何かハブられてるやつ……。


「お名前を伺っても?」

「……」

「……」


 気まずそうに押し黙ってしまった。


 ルナがじっとこちらを見ている。命令でもしたらどうですか?という表情だ。ごめんよ、そういうので好感度を削るのはルナでこりごりなんだ。しかも、階級同じだし。


 二人は困惑しながらも食べ物を口に運んでいる。何か違和感があると思ったら、スプーンやフォークの持ち方である。それは、柄を握る持ち方である。まるで、一度も正しい食器の使い方を習ったことがないかのようだ。


 そうか。


 この場では、私達の食べ方は浮いているのである。私もどちらかといえば庶民を自認しているが、ここでは、スプーンやフォークの持ち方一つ正しいだけで、上流なのかもしれない。ましてや、やたらと姿勢の良いルナはお貴族様のように見えるだろう。


 つまり、彼らは、お忍び(バレバレ)のお貴族様に苦笑いしている、みたいなところなのだろう。


 何となくいたたまれなくなって、ルナと一緒にディストピア朝食を胃の中に流し込む。


「それでは、私達、これから用事がありますのでお先です。今度会ったときは、火星のこと色々教えてくださいね」



 廊下を行き交う同僚に挨拶しても、反応が二分されている。貴族……専門市民のような立ち振る舞いの人からは「あらごきげよう」と和やかな反応が返ってくるのに対し、親近感を感じる立ち振る舞いの人からは苦笑しか返ってこないのである。


 二十一世紀頃に流行った中世ヨーロッパ風ファンタジー小説では、平民はお貴族様に対して膝をついて敬意を払わなければ打首だったりするものだが、それもないようだ。格差があるとはいえ、建前上は平等であるが故に、労働という義務さえ果たしてさえいれば処断されることはないのだろう。つまり、お互いに触れぬ神に祟り無しと、分断だけが深まっているように見えた。

 

 公団庁舎内はまだ反応があるだけマシであった。少し庁舎を出て、労働にいそしむ人々に挨拶をしても、まったく反応が返ってこない。


 私達の種族が異なるからなのか、それとも上流的な立ち振る舞いだからなのか、いずれにしても、ブライトン少尉の懸念には真実味があるように思えた。

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