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アストロ・レールウェイ ―火星姉バカ放漫軌道―  作者: 井二かける
第二章 波乱の火星編 セクション4: ディストピア飯改革
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ディストピア飯


「本当に大丈夫ですの?」


 私とルナはブライトン少尉に支えられながら、ふらふらと食堂に向かっていた。火星歴ではもう昼食には少し遅い時間なのだ。


「たはは……すみませんね……」

「はしゃいで湯あたりするなんて、本当に人間みたいですわね」

「私達は人間ですが?」


 不機嫌に即反論するあたり、ルナも外面を取り繕う余裕はないようだ。今にも死にそうな顔をしている。


 少し言い訳すれば、私達がフラフラなのは、湯あたりだけが理由ではない。時差もある。今は地球歴Z時で深夜四時である。


 しかも、火星は到着日によって時差が変わる。火星の一日は「ソル」と呼ばれ、地球の一日より少し長いからだ。それでも、無理矢理SI単位系に揃えるため、火星の日時はややこしいことになっている。一ソルは二三時九九分三四秒まであり、四ソルごとに二三時九九分三五秒の閏秒がある。その上、火星は暦も独特で、一年の月数は二十四月あり、毎月の日数は二十八日ある。ただし、六ヶ月ごとに二十七日までしかない月がある。ちょっと火星で暮らすのが心配になってきた。


「あなた方が、少なくとも実用を目的としたロボットではない、ということだけはよく分かりましたわ……」

 

 なんとまあ、不名誉な分かられ方であろうか。


 でも、考えてみれば、ロボットは期待通り動いてなんぼである。資源の限られる火星では、よりタフで実用的なロボットが求められているのだろう。ロボットといえば命令通りにガシャーンガシャーン(?)と動くロボなのであって、温泉で水遊びの末にのぼせ、時差に苦しむポンコツロボなど彼らは想像だにしないのかもしれない。だからこそ、物品は消毒だぜヒャッハーという発想になるのだろう。


 諸刃の剣ではあるが、変に畏まるよりは、いつものマイペースな私とルナでいる方が、意外と人間として見て貰えるのではないか。


 となれば、普通の私を演じてみるか。


「あ~晩ご飯楽しみだな~。どんなだろう、火星メシ」


 すると、ブライトン少尉は一瞬ピクリとする。


「……あまり、期待なさらないほうがよろしくてよ」


 なぜだか申し訳なさそうな様子であった。


 食堂は、中規模会議室ほどのスペースに、長机を並べただけの質素で慎ましやかなものであった。収容人数はざっと数十人。まだ夕食には早い時間だからか、人は疎らである。


 この部屋も例に漏れず露出配管が多い。中には高温注意の表記とともに、ガードが設置されているものもある。あれは、頬ずりは難しそうだな、などと考える。


 奇妙なことに調理室が見当たらない。カウンターも返却口もない。どういうことかと考えていると、ブライトン少尉がコンピューターに呼び掛けた。


「ヘイ、アシスタント。三人分の食事をお願いしますわ」


 男声のコンピューターが応答する。


『レプリケートを開始します』


 すると、机の上に光のヴェールが舞い、やがて料理が実体化する。


「こ、これは……!」


 私は思わず声を漏らしてしまった。


 金属の仕切り皿に、直方体の物体が並んでいる。ライムグリーン一色のテリーヌ的なものに、小麦色のプロテインバー的なもの。サイコロ状の謎肉に、カラフルな錠剤を添えて。


「――ディストピア飯! ディストピア飯じゃないか!」


 私の声に視線が集まる。


「今何と仰いまして?」

「ああ、すみません。貴国がディストピアというわけではなく」

「……そういう料理のジャンルがあるんです。まさに、こういう感じの……」


 私の記憶データから漁ったのだろう。ルナは死んだ魚のような目をしている。


 私はというと、


「C-三級労働市民の俺はこんな物しか食えねェのか。クソッ」


 なんて冗談を言いながら、ムシャムシャと食べる。まあ、不味くはないのだが、当然、美味しくもない。謎肉的なものは、かろうじて肉の味と塩味でジャンキーな美味しさはあるが、そのほかは薄味で、モサモサで、口の中の水分を奪われるだけである。


 え、マジでこんなもん食って生きてるのこの人達、と内心思ってしまう。


 地球でも一世紀前ぐらいは食文化が衰退しきっており、トフーオという豆腐のような見た目の完全栄養食が主流だった時期がある。しかし、それは新人類が食に拘らなくても生きていける設計だったからに他ならない。少なくとも旧人類が、食という娯楽を、こんな形で提供されることに不満を抱かないわけがない……と思うのだが。


「C-三級労働市民などというものはありませんが、専門市民と一般市民の区別は、センシティブな社会問題ですの。そういう風に茶化すのはお勧めできませんわ」

「専門市民と一般市民ですか?」

「この場で説明するにはやや政治的ですわね」 

「もしかして、もっと良い物を食べている人がいるんですか?」

「この話題は後でよろしくて?」


 ブライトン少尉は、食い気味に言葉を遮る。そして、周囲の視線を気にしながら肩をすくめた。その張り詰めた声色からして、本当にこの場で話さない方が良いのだろう。


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