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学校のチャイムが鳴る、今日の授業は終了で明日から土曜日だ。皆が少し浮き足立った様子で帰りの遊びの予定や部活三昧の日々を嘆くものなど色々いる中、僕は早めに帰り支度を始めるが、そんな中話しかけられた。
「実、今日は部活も休みだし皆でゲーセン遊びに行こうぜ」
声をかけてきたのはきたのは同じ部活の小野拓也、中学高校と同じ剣道部に所属しており2人で今では県選抜に選ばれるほどにまでなった。高校でもクラスが同じでよく遊んでいる。拓哉は明るくクラスの中でも友達が多いため、女子人気もある友達だ。僕も昔は明るい性格ではあったのだが、中学のあの日からあまり本心から笑えなくなっていた。
「ごめん、今日も早く帰らないと行けないから、遊びに行けないや」
僕も遊びに行きたいのは山々だが、数ヶ月前あの屑男が浮気をして出て行ってしまい、色々大変なのだ。
「また?2年にってから付き合い悪くね?他のやつも実のこと付き合い悪いって言ってるぞ?剣道の大会もそろそろだしお前が努力家で強いのは知ってるけど、部活に顔出したり友達と遊んだり付き合い大事にしたら?」
一瞬ドキッとするが、付き合いを考えている余裕はあまりない。せっかくあの屑男が家を出ていったのだから、もう二度とあの男が戻ってくる必要がないようにお金を稼がないといけないのだ。これからのため内緒で始めたバイトなど、早く帰らなければいけないのだ。最近さらに増えてしまった愛想笑いを顔に貼り付け、無難な返答を返す。
「大丈夫、大丈夫、自主練はしてるし、今度埋め合わせするから大丈夫でしょ。剣道なんてお前こそ僕に勝ったことないんだからもっと頑張れよー」
誤魔化すための冗談だったのだが、ちょっと今のは失言だったかもしれない。拓也は少し間を開けて返事をする。
「・・・・・・分かったよ」
そう言って拓也はほかの友達の所に向かった。拓也を怒らせてしまっかもしれないが、明日謝ればいいだろうと思い自分も荷物をまとめ帰路に着いた。思えばこの時点で心に余裕なんてなかったのかもしれない。
まっすぐにバイトに行きたいが、一度家に帰って荷物を置かないといけないため家に帰る。
家の近くまで来たとき時、教室に課題を忘れたことに気付いた。明日からは土日のため、今日取りに行かないと休日に学校に行かないと行けなくなってしまう。
「バイトで急いでるのに・・早くしないと」
僕はUターンして走って教室に戻る。教室から誰かの笑い声が聞こえる。ここで聞き耳を立ててしまったのが全ての間違いだった。
「最近あいつうざくね」
「それな、遊びにも来ないし、元々暗いやつなのに剣道ができるからって拓也と同じポジション気取ってんのキモすぎw」
「拓也、あいつ部活ではどうなの?」
「実は部活でも剣道が皆より少し上手いからって調子に乗ってるから皆から嫌われてるよ」
「だろうなwあんな奴皆から嫌われてるだろ」
その言葉に賛同するようにゲラゲラ笑う声が後に続く。
それを聞いた瞬間目の前が真っ暗になった気がした。確かに最近付き合いは悪かったかもしれないし、家の件で心に余裕がなくて物言いもキツかったかもしれない。でも皆のことは嫌いではなかったしバイトがない日は遊びに行こうとも思っていたのに・・・上手くやれていたつもりだった分胸が苦しくなる。今まで我慢して積み上げたものが崩れたようだった。話題は変わっていたがその顔で教室に入る自身もなく僕は忘れ物を取らずに家にまっすぐ帰った。
「実ご飯だよー」
母親の声で目が覚める、家に帰って部屋にこもっていたらいつの間にか外は真っ暗になってしまった。バイトは休んでしまった。誰かと話す気分では無いが、母に心配はかけられないため階段を下りてリビングに向かう。
「最近学校はどう?剣道大会近いんでしょ?応援行くからね」
その言葉に胸が苦しくなる、父が出ていってからパートをはじめ疲れた様子が増えた母だが、いつも通り優しく接してくれるのが辛い。
「学校は楽しいし、剣道も絶好調だよ!」
そう笑顔で返すが、上手く笑えていただろうか、母にはホントのことを言うべきだろうか・・・そんな思いが頭をよぎるが、ここは流してしまう。
「・・・そう、なら良かったわ。家のことは心配しなくていいからね、お母さん頑張って働くから」
「分かったけど、無理しないでよね?母さんが倒れたら誰が僕のご飯作るのさ、ご馳走でした」
「はいはい、ってそれは自分で作りなさいよ?」
「確かにw」
そこからは他愛もない話をしながら食事を進めた。食事がもう終わるころ母さんはいい辛そうに話を切り出してきた。
「お父さんのことはごめんね・・・今までたくさん迷惑をかけちゃったね。これからは家のことは気にせず実の好きなことをして好きなように生きてね」
父は僕が中1の時に母の再婚相手だった男で死別した元父と違い日頃から暴力や女癖などもひどかった、今思えば子供ながらに反抗したくて剣道を始めたのもあるかもしれない。
「母さんは何も悪くないよ、悪いのは何もできなかった僕だし・・父さんはいなくなったんだしこれからがんばろうよ!」
そう言って笑いながら自分の部屋に向かう、後ろで心配そうな表情をしている母に気づかないまま自分の部屋に入り布団を被るが、今日のこともあり上手く振る舞えているか不安になり、頭が痛くなる。明日もいつも通り振る舞えばいいのだろうか?影で笑われているのに・・・そんな考えが頭の中で堂々巡りするが、気付いたらもう朝だった。
「学校行きたくないなぁ、でも母さんんを心配させるわけにもいかないしどうしよう」
真面目な性格のため今までズル休みなんてしたことがないが、明日行けばいいとその日は初めて休んだ。だが次の日、その次の日も僕は休み続け、かれこれ1年がたった頃、僕は部屋でゲームをするだけの引きこもりになっていた。剣道で鍛えていた体は醜く肥え太り、平均くらいだった身長は猫背によって少し縮んだようにも思える。体重が増えた影響か、体を動かすのもとても億劫だ。そんなある夜1階で大きな物音がした。
「ガッシャーン!な、なんの音だ?」
最近は母も気を使ってか、学校に行こうと言われなくなった矢先だった。母が心配になり下に降りると部屋は暗いが荒らされていた。
「母さん!大丈夫!?」
よく見えないが母を探すため、部屋に入ると見えない何かに躓き転ぶ。
「いて!何に引っかかたんだ?」
暗闇に目が慣れてきた僕が目にしたのは血塗れで床に横たわっている母だった。
「母さん!母さん!」
「実・・・ごめんね・・・」
母さんが何か言っているが母さんの腹から流れてる血が止まらなく何も聞き取れない。
「それより早く病院に行かないと!?」
パニックになっていた俺は冷たくなっていく母に夢中で部屋にいたもう1人の存在に全然気づかなかった。胸にドン!と強い衝撃が走り衝撃があった場所が、焼けたように熱くなると同時に地面が倒れてくる。
「え、な、何が」
体に力が入らない。何かに刺された?分からないがどんどん狭まっていく視界に母が映る。あんなに優しい母は血溜まりの中弱々しく倒れている。その事実が手放しかけてた意識をギリギリで連れ戻す。
「俺がもっとしっかりしていれば、俺がもっと強ければ!」
歯を食いしばりながら眼球だけで刺した相手をにらみつけるが顔が見えない。様々な後悔の念が押し寄せてくるが、頭がどんどん重くなり僕の思考はそこで途切れた。




