陰キャに話しかけてみたら実は隠れ美少女だったことが判明した、そして何故か懐かれた
俺の隣の席にいるのは桜庭 瑞貴
なんともパッとしない少女である。陰キャの部類に入るのだろう。
「おはよ」
「おっおはようございます」
俺が挨拶をすると少し戸惑いながら挨拶を返してくる。俺の最近のちょっとした楽しみでもある。
瑞貴は少しオドオドしていて自分に自信がなさそうな子だ。
髪の毛は本人は整えているつもりなのだろうが癖っ毛がピョンとなっており、ちょっと可愛い。
メガネをかけており、休み時間は1人で本を読んでいる。
俺から話しかけるといつも驚かれる。
「瑞貴、癖っ毛治ってないぞ」
「えっ本当!? あっはわわわわ」
そう言うと瑞貴は急いで髪を手で整えて始めた。
「こっこれでどう、かな?」
治ったと思ったのも束の間、また癖っ毛がピョンと跳ねている。
「まあ、いいんじゃないか?」
「よっ良かった......」
反応がいちいち可愛い。
「お前、瑞貴によく絡んでるけど好きなのか?」
絡んでいるとこう言う質問が友人から飛んでくることは少なくない。
俺はどちらかと言うと陽のグループに入ると思うので、陰キャに話しかけていること自体珍しいのだろう。
ただ、別に話してて楽しいだけで好意を持っていると言うわけではない。
話していてというか俺から揶揄っているような気もするが。
可愛いと言うのは恋愛的な意味ではなくて、動物を見るときの可愛さなのである。
***
ガヤガヤと賑わう食堂。に対して静かな屋上で1人黙々と食べている少女。
瑞貴はおそらく人が多いところが苦手だ。だから屋上に来てみたら正解だった。
俺はというと友達に昼食を食べようと誘われたが少し断っていた。
何かを察したような目で見られるのが少し嫌だったが。
ただの興味である。いつもオドオドして自分に自信がなさそうなので彼女の素を知らないのだ。
自分をあまり出そうとしない。別に知らなくてもいいのだが、単純に気になったというところだろうか。
俺は彼女の横に座った。
「よっ」
「っ......!?」
ぼーっとしていて俺に気づかなかったのか、彼女は弁当を持ってその場から離れた。
めちゃめちゃ驚かれるじゃん、と俺は内心でツッコミを入れる。
「みっ薬袋くん!?」
最初こそ驚いていたものの、瑞貴はすぐに元の場所に戻った。
「なっなんでここに? 友達は?」
「うーん、昼食に誘われたけど断った」
「なっなんで?」
瑞貴は困惑している。俺はメロンパンを1口食べ切ってから話した。
「お前に会いに行くため?」
「えっええ!?」
相変わらず反応が可愛いな、と思いながら俺はメロンパンを食べ進めていく。
困惑した表情を浮かべつつも瑞貴の頬は少し赤くなっていた。
俺はそれを見て、あることに気づいた。
瑞貴って実は......。
「そういうのは好きな子とか彼女に言った方が......って、どっどうしたの?」
瑞貴をしばらくまじまじと見ていたからか、瑞貴は気恥ずかしそうに視線を泳がせている。
「すまん、ちょっといいか?」
「えっちょっ......」
俺は瑞貴のメガネを取った。
「......」
「みっ薬袋くん!? いきなりなんでこんなこと......」
メガネを取って現れたのは別人かと思うほどの綺麗な美貌の持ち主だった。
俺は瑞貴のおでこにかかった髪をあげる。
「......可愛い」
「え?」
信じられないくらい可愛い、と俺は思ってしまった。
一目惚れとは行かないが、一瞬心臓がドキリとしてしまう。
メガネで隠れていて見えなかったが、まつ毛は長く、うるっとした瞳......。
「えっかっ可愛いって......あわわわわわ」
俺がしばらく瑞貴の顔を見ていると耐えきれなかったのかそのまま倒れてしまった。
「みっ瑞貴!?」
「あわわわわ」
***
「その、さっきはいきなりメガネ取ってすまん、嫌だったよな」
俺は隣の席にいる瑞貴に声をかけた。
あの後、お弁当を閉めて急いで屋上から出ていってしまったので謝る機会がなかったのである。
「べっ別に私は大丈夫、ただ他の女子にはやらないでね、わっ私は別に薬袋くんだったらいいけど......」
瑞貴はまたメガネをかけていた。
「そうか......あっこれは野暮かもしれんが、その、メガネ外してもっと自信持った方が可愛くなるというか、別に俺は今のお前も可愛いとは思うけど......」
「そうかな......」
「おっおう」
そう言うとなんだが少し気まずい空気になってしまう。
ってなんで俺可愛いって言ってんだ。これだと好意があるというように受け止められてもおかしくない。
ただ、メガネを外した姿の瑞貴を見て一瞬ドキリとしたのは否定できない。
「......」
「......」
少しばかり静寂が流れる。
その空気を重く感じたのか瑞貴が先に沈黙を破った。
「......あっえっと、そういえばさ」
「おっおう」
「あの、えっと」
しかし何を言い出すかと思えば、瑞貴は顔を赤らめてもじもじとしておりなかなかいい出そうとしない。
そしてやっといった言葉は予想外のものだった。
「こっ今度の土曜日、一緒にでっデパート行かない?」
「え?」
遊びの誘いだった。
俺としてはそこまで瑞貴と仲良くないつもりだったのだが向こうはどうやら友達だと思ってくれているらしい。
それはそれで嬉しいことである。
土曜日は部活もなく1日中暇だし、断る理由もない。
「いっ嫌かな?」
「そんなことない、普通に空いてるし、じゃあ一緒に行くか」
「本当!? やった!」
瑞貴はへにゃりと笑った。
***
土曜日、10分前に待ち合わせ場所に着くとまだ瑞貴はいないようだった。
少し早く来すぎたか、と俺はスマホをいじる。
よくよく思えば異性と2人きりで遊ぶのなんて久しぶりなので少し緊張はする。
5分くらい経つとこちらに来る足音と共に声が聞こえてきた。
「ごっごめん、お待たせ」
スマホをしまい、顔を見上げると、絶世の美女がそこにはいた。
思わず心臓が高く飛び跳ねてしまう。
艶やかな髪に一瞬油断すれば引き込まれそうな瞳、長いまつ毛に、スベスベとした肌。
瑞貴なのだろうが、やはりそうは思えない。
メガネはつけずに、本気でオシャレをした結果こうなるのか。
「待った?」
「ああ、えっと、いや全然」
目を合わせられず思わず視線を逸らしてしまう。
「そういえばメガネからコンタクトにしてみたんだけどどうかな?」
「......めちゃくちゃ可愛い」
ストレートに可愛いというと瑞貴は頬を赤らめて恥ずかしそうに笑った。
これは恋愛的な可愛いという意味である。普通に美人すぎないか!?
異性として意識してしまうところがある。
それに前より少し自信に溢れているところがいい。
まだオドオド感は抜けないが気をつけているのだろうか?
「というか、なんで今までこうしなかったんだ」
「えっと、自信がなくてメガネかけてたんだけど、すっ涼春くんにこっちの方が可愛いって言われたからこれで行こうかなって」
急な名前呼びとちょっとしたデレに心臓の鼓動が速くなる。
気恥ずかしそうに言っているのもまた破壊力が凄まじい。
デートが終わるまでに俺の心臓は持つのだろうか。
***
それから俺の心は色々と大変だった。
置いてあった熊のぬいぐるみを抱き抱えている姿に心を射抜かれたりと、とにかく今までの瑞貴とは全くの別人だった。
俺は一度、心を落ち着かせるため、トイレに来ている。
「.......あいつ可愛くなりすぎだろ」
心臓に悪い。鏡を見れば顔は少し赤くなっていた。
こんなはずではないのだが......俺が心動かされている状態だった。
今までの可愛い瑞貴とは違う。可愛いの意味が変化しすぎている。
まあしかし物は慣れだ。
俺は一度深呼吸をしてから外に出た。
外に出ると、瑞貴は誰かに話しかけられていた。
近づいくと段々と会話の内容が聞こえてくる。
「いいじゃん、俺らと遊ぼうよ」
「えっいや、えっと、私待っている人がいるので......」
「そんなやつ放っておいてよくない?」
ナンパだった。明らかに瑞貴は困り果てている。
まあ確かにあの美貌だ。無理もない。
そしてそのうちの1人が瑞貴の手首を掴んだ。
明らかなアウトだ。瑞貴はもう泣きそうである。
俺は急いで割って入った。
「ごめん、お待たせ、この人たち誰?」
「は? 何?」
急に入り込んだからか、少しキレている。
いい年した大人なのに落ち着きないなあ。まあ大人というより大学生だろうか。
俺は瑞貴の手首を掴んでいる人の手首を掴んだ。
そして語気を強めて言った。
「俺の彼女に手出すのやめてもらえる?」
ギャラリーの視線がチラチラとこちらに集まっている。
これ以上は騒ぎになるのかと思ったのか、チッと舌打ちをして去っていった。
「大丈夫だった? 瑞貴......」
「こっ怖かったー!」
俺はいきなり抱きつかれる。何やら柔らかいものが当たっており、心臓の鼓動がまたまた速くなる。
まあでも無理はない。ああいうのに慣れていないのだろう。
俺もそっと瑞貴を腕の中に収めた。
少ししたらすぐに瑞貴は落ち着いた。
そして何をやっていたのかハッとし、顔を真っ赤にした。
「あっえっと、ごめん、急に抱きついて、えっと、私、はわわわわ」
思わず素が出てしまっている。
俺はポンと瑞貴の頭の上に手を置き撫でた。
「えっと、涼春くん?」
「いや、撫でてみたくなった」
何それ、といい、瑞貴はへにゃりと笑った。
***
「今日はありがと、涼春くん」
「こっちこそありがとうだな、楽しかった」
「そっかよかった」
終わる頃にやっと落ち着いて話せるようになった。
何度可愛さに心臓がやられそうになったことか。
ただ、遊んでて普通に楽しかった。素でもいいがやっぱり自信を持った方が良いとは思う。
「それじゃあ、これで」
俺は背を向けて去ろうとした。
しかし瑞貴は俺の手首を掴んだ。
「ちょっと待って」
そして背伸びをして俺の頬に何やら柔らかいものが当たった。
「......じゃあ、また学校で、バイバイ」
瑞貴は去っていった。
俺は何をされたか理解するのに時間を要した。
そして俺は過去一顔を赤くしていたと思う。
帰り道、速くなった心臓の鼓動が収まることはなかった。