変われない
三題噺もどき―さんびゃくじゅうきゅう。
やけに重たい瞼を開ける。
―開けると、一言で言いはしたが、そんな簡単でもない。体感10分ぐらいかかった。
眠たいからとか、物理的に重いから、とかではない。(物理的に瞼が重いってなんだろうな?)
「……」
なぜか分からないが、瞼を開けることを、こう……。
拒否していると言うか……。開けてはいけないと、警報が鳴っているというか……。
それでも、瞼を開けて見るべきだと思って、こうして……。
理性と本能のせめぎあいみたいなものが、内情で起こっていたせいで。
瞼を開けると言う行動だけで、それだけ時間がかかったように思えて。
おかげで、酷く疲れたりして。
「……」
―体感10分と思ったが、実はもっと時間がかかっていたのだろうか。
瞼を開き、疲弊した視界に飛び込んできたのは。
どこまでも広がった、星空だった。
「……?」
いつの間にか眠っていたのだろか…。
そもそも、なんで外にいたんだったか。
ここが、プラネタリウムとか映画館とかでない限り、この星空を拝むことは出来ないとおもんだけど。
いや、まぁ、今は家の中でもそういうまねごとは出来るらしいが、あいにくそんなものは持っていないし。そこまでして、家の中で星を見たいとは思わない。
「……」
それに。
プラネタリウムや映画館だったとしたら、背中の不愉快さが酷すぎると思うのだが。
ああいう所って、快適に見ることができるからいいんじゃないのか……?
ソファなどのクッション性のあるものの上に座って、体を預けて、上に集中できるのが利点ではないのか……?
まぁ、それでも長時間は腰を痛めたりもするが。
「……」
というか、そもそも。
座っている―という感覚がない。
これは完全に寝転がっている時の姿勢で、視点な気がする。
所謂仰向けというやつ。うつ伏せではなく。
「……」
だけど。
放り出されているはずの、手足の感覚がない。
……ないと言うよりは、薄いと言うのが近いような気もするけど。麻痺しているとかではなくて。
「……」
そこにあるはずの、自分の手足の存在を感じにくい。
肩から先が、腰から下が、ぽっかりとなくなっていて。
存在そのものが無くなっているのはないかと思ってしまう。
―でも、そこにあるということは分かる。みたいな。どうも、あやふやだ。
「……」
その手足のせいで、起き上がることもできそうにない。
残念ながら、手足が捥がれたような状態で、胴を起こすことができるような筋力はない。
そのせいか、不思議と、起きようと言う意識が沸かない。
「……」
大抵、こんな訳も分からない状況に襲われてしまえば、どうにかしようと動きそうなものなんだけど。現状把握をすべきだとは、思っているはずなんだけど。
どうも……。
まるで、先程の瞼を開くと言う行為に、体力全てを。
根こそぎ奪われたんじゃないかと思う程に、動く気力が沸かない。
「……」
もしかしたら、首から下丸ごとないのかもなぁ。
その、起きるという行為が、無意味だと思っているから。
動けないし、動かない、という。
……そんなことはないか。
「―――――!?」
さて、どうしたものかと、途方に暮れ始めた瞬間。
タイミングを図っていたかのように、突然視界が動いた。
―いや、これは。自分の視界じゃなくて…星?
「―――」
視界いっぱいに広がっていた星空が、ぐるりと巡り始めた。
まるで早送りをするように、線を作りながら、視界を端から端へとかけていく。
―1つの星を中心に。
「―――」
巡り続ける星空に。
変わり続ける星空に。
なぜか。
置き去りにされているような。
「―――」
周りのすべてが変わっていって。
異なるものへと成っていって。
知らないものになっていって。
1人置き去りにされて。
「―――」
変わることを恐れる自分は、ついていくことができなくて。
たった1人になっても、それが分かっていても、変わるべきだと思っていても。
それでも、変わらないままで。
―こんなお荷物は、1人置き去りにされて。
「―――ぁ」
息が苦しい。
助けて欲しい。
誰か。誰か。
このまま。
1人にしないでくれ。
お願いだから。
1人は寂しい。
誰か。
「―――」
視界の中で、ただ1つ。
かがやき続ける星に、手を伸ばす。
あれに。
あれにさえ、手が届けば。
手が、手が―。
「―――」
あぁ、違う。
自分には。
「―――」
その、伸ばす手がないのだ。
あの星には届かない。
どれだけ足掻いても届かない。
藻掻くことも許されていない。
手を伸ばすことが許されていない。
―届かない星に、焦がれることしか許されていない。
「―――」
少しずつ。
視界が暗くなっていく。
脳内に嫌な音が響いている。
黒板を爪でひっかいたような、不愉快極まりない音。
視界が狭まるにつれ、その音は大きくなり。
やがて視界は真っ暗になる。
―――――――――――――――!!!!!!!!
鳴りやまないアラームを、右手で止める。
ガチャリと言う扉の音。
それと同時に母の声。
「―ちゃん。起きた?もうご飯だよ」
「……」
優しく、たいせつに。
蝶よ花よと育ててくれた母の声。
「――ちゃん?」
少し混じる、不機嫌な声。
起きなくては。
起きて……母のご機嫌とりをして。
今日もいい子で、いなくては。
お題:黒板・置き去り・届かない




