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三題噺もどき2

変われない

作者: 狐彪
掲載日:2023/08/14

三題噺もどき―さんびゃくじゅうきゅう。

 


 やけに重たい瞼を開ける。

 ―開けると、一言で言いはしたが、そんな簡単でもない。体感10分ぐらいかかった。

 眠たいからとか、物理的に重いから、とかではない。(物理的に瞼が重いってなんだろうな?)

「……」

 なぜか分からないが、瞼を開けることを、こう……。

 拒否していると言うか……。開けてはいけないと、警報が鳴っているというか……。

 それでも、瞼を開けて見るべきだと思って、こうして……。

 理性と本能のせめぎあいみたいなものが、内情で起こっていたせいで。

 瞼を開けると言う行動だけで、それだけ時間がかかったように思えて。

 おかげで、酷く疲れたりして。

「……」

 ―体感10分と思ったが、実はもっと時間がかかっていたのだろうか。

 瞼を開き、疲弊した視界に飛び込んできたのは。

 どこまでも広がった、星空だった。

「……?」

 いつの間にか眠っていたのだろか…。

 そもそも、なんで外にいたんだったか。

 ここが、プラネタリウムとか映画館とかでない限り、この星空を拝むことは出来ないとおもんだけど。

 いや、まぁ、今は家の中でもそういうまねごとは出来るらしいが、あいにくそんなものは持っていないし。そこまでして、家の中で星を見たいとは思わない。

「……」

 それに。

 プラネタリウムや映画館だったとしたら、背中の不愉快さが酷すぎると思うのだが。

 ああいう所って、快適に見ることができるからいいんじゃないのか……?

 ソファなどのクッション性のあるものの上に座って、体を預けて、上に集中できるのが利点ではないのか……?

 まぁ、それでも長時間は腰を痛めたりもするが。

「……」

 というか、そもそも。

 座っている―という感覚がない。

 これは完全に寝転がっている時の姿勢で、視点な気がする。

 所謂仰向けというやつ。うつ伏せではなく。

「……」

 だけど。

 放り出されているはずの、手足の感覚がない。

 ……ないと言うよりは、薄いと言うのが近いような気もするけど。麻痺しているとかではなくて。

「……」

 そこにあるはずの、自分の手足の存在を感じにくい。

 肩から先が、腰から下が、ぽっかりとなくなっていて。

 存在そのものが無くなっているのはないかと思ってしまう。

 ―でも、そこにあるということは分かる。みたいな。どうも、あやふやだ。

「……」

 その手足のせいで、起き上がることもできそうにない。

 残念ながら、手足が捥がれたような状態で、胴を起こすことができるような筋力はない。

 そのせいか、不思議と、起きようと言う意識が沸かない。

「……」

 大抵、こんな訳も分からない状況に襲われてしまえば、どうにかしようと動きそうなものなんだけど。現状把握をすべきだとは、思っているはずなんだけど。

 どうも……。

 まるで、先程の瞼を開くと言う行為に、体力全てを。

 根こそぎ奪われたんじゃないかと思う程に、動く気力が沸かない。

「……」

 もしかしたら、首から下丸ごとないのかもなぁ。

 その、起きるという行為が、無意味だと思っているから。

 動けないし、動かない、という。

 ……そんなことはないか。



「―――――!?」

 さて、どうしたものかと、途方に暮れ始めた瞬間。

 タイミングを図っていたかのように、突然視界が動いた。

 ―いや、これは。自分の視界じゃなくて…星?

「―――」

 視界いっぱいに広がっていた星空が、ぐるりと巡り始めた。

 まるで早送りをするように、線を作りながら、視界を端から端へとかけていく。

 ―1つの星を中心に。

「―――」

 巡り続ける星空に。

 変わり続ける星空に。

 なぜか。

 置き去りにされているような。

「―――」

 周りのすべてが変わっていって。

 異なるものへと成っていって。

 知らないものになっていって。

 1人置き去りにされて。

「―――」

 変わることを恐れる自分は、ついていくことができなくて。

 たった1人になっても、それが分かっていても、変わるべきだと思っていても。

 それでも、変わらないままで。

 ―こんなお荷物は、1人置き去りにされて。

「―――ぁ」

 息が苦しい。

 助けて欲しい。

 誰か。誰か。

 このまま。

 1人にしないでくれ。

 お願いだから。

 1人は寂しい。

 誰か。

「―――」

 視界の中で、ただ1つ。

 かがやき続ける星に、手を伸ばす。

 あれに。

 あれにさえ、手が届けば。

 手が、手が―。

「―――」

 あぁ、違う。

 自分には。

「―――」

 その、伸ばす手がないのだ。

 あの星には届かない。

 どれだけ足掻いても届かない。

 藻掻くことも許されていない。

 手を伸ばすことが許されていない。

 ―届かない星に、焦がれることしか許されていない。

「―――」

 少しずつ。

 視界が暗くなっていく。

 脳内に嫌な音が響いている。

 黒板を爪でひっかいたような、不愉快極まりない音。

 視界が狭まるにつれ、その音は大きくなり。

 やがて視界は真っ暗になる。



 ―――――――――――――――!!!!!!!!



 鳴りやまないアラームを、右手で止める。

 ガチャリと言う扉の音。

 それと同時に母の声。

「―ちゃん。起きた?もうご飯だよ」

「……」

 優しく、たいせつに。

 蝶よ花よと育ててくれた母の声。

「――ちゃん?」

 少し混じる、不機嫌な声。


 起きなくては。

 起きて……母のご機嫌とりをして。

 今日もいい子で、いなくては。





 お題:黒板・置き去り・届かない

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