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エピローグ

 それから、何度目かの春がきて――


 舞い散る桜の木の下で、私は彼を待つ。


「佳奈さーん」


 桜吹雪を浴びながら、彼が満面の笑みで手を振って歩いてくる。

 足元には、キャラメル色のコーギー犬のモモ。


「颯太君。モモの注射どうだった?」

「このとおり、俺に裏切られたって思ってますよ」


 答える颯太君は肩をすくめて困り顔だ。

 私の足元に擦り寄って助けを求めてくるモモの頭を優しくなでてあげる。


「よしよし、よく頑張ったね。帰ったらご褒美に美味しいおやつをあげるからね」


 モモはうれしそうに私の顔をぺろぺろとなめるから、私はくすぐったくて笑ってしまう。


「佳奈さん。モモに嫌われて傷心の俺にも、ご褒美ください」


 颯太君はうずうずと、期待した声で言う。

 急な仕事で私がモモの予防接種を連れて行けなくなったのを、颯太君が代わりに引き受けてくれたのだけど、まあ、連れていった方はこうなるんだよね。

 助かったけど、しばらくはちょっとかわいそうな役回りだ。


「はいはい。颯太君もね。ケーキ買ってきたから後で食べよう。お客さんとこの近くの評判のケーキ屋さんでね――」


 言いながら颯太君を見上げると、彼の唇が私に落とされた。


「んっ……!」


 顔が離れれば、颯太君は後ろの桜の花に負けないくらいの春爛漫の笑顔を浮かべている。


「待ちきれなくて」


 私は笑ってしまいそうになるのを堪えながら、口をとがらせてみせる。


「もう……」

「あれ? 怒っちゃいました?」


 わざとらしい。わかってるくせにそういうことを言う。


「怒ってないよ。……早く家に帰ろ?」

「はい!」


 颯太君の手を取って、歩き出す。

 私たち(・・)の家に向かって。


 ――あれから颯太君は、働きながらもそれはそれは楽しそうに花の絵をモリモリと描いた。そして大学のツテの有名画廊に絵を置いてもらって、あっという間に売れっ子画家になった。


 とはいえその人気も一時的なものだろうと、私は退職には断固として反対していたのだけど……。

 うん……、すごく、すごく素敵な絵を彼が描いてしまうものだから、ついに私の我慢の限界がきてしまって……

 私は彼のご両親のところに行って頭を下げて、絵を買わせていただいた。

 彼の人生の責任を取る覚悟で。


 その結果、仕事を辞めた彼の指先からはどんどんと新しい花が咲き溢れてゆき……、今や巷では『花の貴公子』と呼ばれる人気アーティストになっている。テレビや雑誌にも顔出しして、絵の注文は三年待ちという大繁盛っぷり。順調すぎて、逆に怖い。


 どうやら、彼は大学で絵の道に迷いつつも技術だけはちゃっかりつけて、後は気持ちの問題だけの天才だったらしい。


 でも私はそんな彼がなにかの拍子にうっかり路頭に迷わないか、心配だ。だから私は絶対に仕事だけは辞めないぞと心に決めている。モモもいるしね。


 40を超えて、とんだ荷物をしょい込んだものだけど、まあ。

 私の人生はまだもう少し続いていくものだから――


「颯太君、来年もここで一緒に桜、見ようね」


 微笑む颯太君の手を引いて頬にキスをすれば、颯太君の顔がさくらんぼのように真っ赤に染まる。


 君と一緒にいられるのなら、


 そんな幸せな苦労をするのも、いいのかもしれない。



佳奈視点のお話はこれで終わりです。

この後青木君視点のアフター話が入って完結します。

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