第九話 三人から二人(後編)
遅れてすみません。
「そんなことあったんだ。昌ちゃんやっぱりすごいなぁ」
「いろんな意味でな」
「それでそれで」
「あの時は最高のケーキを作って、昌と仲直りしようとしたんだ」
その日の夜に俺は出来立てのケーキを持って昌の家に行った。
「帰ってよ、来ないで」
「お願い、これだけ食べて」
嫌なものを見ているような目で俺を見ながら、昌がケーキを手づかみで食べた、
「やればできるじゃない。最初からやりなさいよ」
怒っている口調なのに、昌のうれしいという気持ちが伝わってきた。
口にはいっぱいクリームがついて、涙を流しながら食べていたからだ。
その時に知った。料理は人の心を動かせるものなんだと。
「ごめん。ちゃんとケーキ作ろうとしなくて」
「明日の7時にお前の家に友達連れて行くから。材料用意して待ってろ」
「わかった」
昌との仲が直ったことが、思った以上にホッとしている自分に驚いた。
明日は早起きして誕生日パーティーの準備だ。
「その時に、その瞬間に料理が好きになったんだ」
なんか笠原は自分のことのように嬉しそうに言った。
「まぁな」
「その続き聞かしてよ。続き」
聞きたそうだったが、
「また今度ということで」
「えーー、なんでなの?」
ちょっと怒っていた、ここまで話しおいたのだから当然だ。
「じゃあ後もう一つだけ聞かして」
「何?」
「昌ちゃんの事好きでしょ」
やはり心を読まれている。でも、
「・・・なんでそう思うだよ」
笠原は少し考えてから、
「正確にいうとその時は好きなんだろうって、話を聞いてて思ったの」
俺は観念した。
「確かにそうだよ。俺はもっと好きな人がいるから、今は昌は親友なんだ」
「じゃあ、あのーもし昌ちゃんが好ーー」
「質問は後一つの約束だったよな」
ちょっと怒った顔して、
「意地悪だなぁ。まあいいや、またね」
「じゃあね。」
もしかして昌のことが俺は好きだ。でもそれ以上に、
萌がそれ以上に好きで忘れられないからだろう 。ただ夏休みだけの
出会いだったが、よく覚えている。今までの人生でこれほど
心に残るものはない。しかし、この話をしたいと思ったことはない。それは、思い
出を大切にしたいという女々しい考えではなかった。その時は楽しかったが、今とな
っては哀しい思い出だかからだ。萌にはもうたぶん一生会えないだろう、
だから笠原にこの話がなぜ自然にできたのかわからない。




