第十二話「近いけど遠い距離」
何年かぶりの新作を出します。
今回が初めての方は最初から読んで頂けると
嬉しいです。
俺の話が終わると笠原は満足気な顔をしていた。
「ねぇ今度ケーキ作ってよ」
「いいけど、何かイベントがある時がいいと思うんだけど・・・・・」
少しすねた顔をして、
「早いほうがいいなぁー、そうだ今度はケーキ作りを教えてもらおうかな」
「どうせ俺が作ることになるんでしょ」
笠原が少し微笑んでから、
「違うよ。沖田君に教わったお兄ちゃんが作るの」
確かにそうなるかも、納得した。
その発言後なんか妙な沈黙になった、
改めて思うと笠原と二人きり、
そう思うとなんか少し緊張してきた。この空気はきつい、
なんか笠原の方を急に見れなくなった。
笠原は小さいあくびをしてから、
「テレビでも見よっか」
うん、と短い一言、向こうはなんとも思ってないみたい。
恋愛ドラマが放送中。
なんかタイミングが良いのか悪いのか、なんなんだ。
別に笠原を好きとかそんな感じはないけど、
女子と二人きりで恋愛ドラマ視聴する。この雰囲気無理、
「そうだ、そろそろ帰るよ」
立ち上がろうとしたら、肩に何かが触れた、
「えっ」
静かな吐息、普段の授業で見せる寝姿だった。
完全に俺に寄り添った状態で熟睡している。
電車で寝ている若い女性に肩を貸しているおじさんはこんな気持ちなのだろう。
とても動くことは出来ない、そしてなんかこの時間が愛おしいと思った。
体感時間は数十分か数時間か分からない。まあ時計を見ていたので42分経過であることは明白だが。突然のポピポロロロリンという固定電話の着信音が鳴り響いた。
ふらふらと起き上がり、
「ちょっと待っててね」
と小声で言いながら電話へ向かい、受話器を取る。
電話の勧誘のようで、「大丈夫です」を連発していた。
どうにか電話を振り切ったらしく受話器を置いた。
ふうっと一言、
「あれ、ごめん寝ちゃってたね」
少し照れながら喋っていた、その会話の流れで、
「そうだよ、しかもずっと肩を枕に寝てたんだからな」
その時の笠原の謝り方は尋常じゃなかった。
こっちが引くほどに、笠原は一週間ほど少し俺を避けていたようだった。
その理由を今は知る由もなかった。




