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ドラゴンと魔石の島に僕等は生きている  作者: ナナイロナイト
第一章
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トウゴの汚れた服

「ガーゼラって何があるの?」

「トアルト島の東南部随一の繫華街だから、そこに行けば生活必需品が大抵揃う。着替えがいるだろう? 新しい服を買ってやる。その汚い格好じゃ家に上げるわけに行かないから」


 島と名づけられているが、トアルト島の面積は広大である。

 地域によって自然環境が全く異なり、中央部には砂漠、北西部には氷河が広がり、ロアのいるジャングル地帯は東南部にある。

 掘削に最も適しているのは砂漠だが、好条件な場所は資源メジャーと王家にがっちり抑えられていて、付け入る余地はない。


「着替えを買ってくれるの?」

「今着ている服より安物だぞ」

「全然構わないよ! ヤッター!」


 トウゴが瞳をキラキラと輝かせて喜んだ。

 そんなところも弟と面影が重なった。喧嘩ばかりしていたけど、本当は大好きだった弟。

 トウゴが今日は誕生日だというのを聞いて、殺された日の翌日が弟の誕生日だったことを思い出した。

 祝ってやれなかった弟の代わりと言っては語弊があるが、トウゴの誕生日をアウハで祝ってやろうとも考えていた。


「いい時間だし、買い物のあとに食べて帰ろう」

「うわあ。嬉しいなあ。まともな食事は久しぶりだ」

「行きつけの定食屋があるから、そこに行こう」


 早くもトウゴの腹の虫が「グーギュルルルル……」と暴れだした。


「お腹が空いているんだ?」

「もう三日はまともに食べていない」


 ジャングルで見つけた果物を食べて空腹を紛らわせてきたが、全然足りていなかった。ここにきて猛烈に腹が減った。


「水は飲んだ?」

「飲まなかった。木に生っている果物から取った」

「生水を飲まなかっただけでも賢いよ。あそこには危険なバクテリアや線虫がウヨウヨいるからな」

「そう思ったから我慢したよ」


 喉が渇いている時は、目の前の沼がとても魅力的に映る。


「ジャングルの沼の水は、飲めば飲むほど喉が渇く悪魔の水と言われている。飲むなら雨水か湧き水に限る」


 ロアは、バッグから水筒を取り出すと「中身は安全な沸き水だ。飲め」と、トウゴに渡した。

 トウゴは、グビグビと一気に飲んだ。


「プハー! 美味い! こんなに美味しい水は初めてかも」

「オイオイ、飲み干したのか?」


 飲めと言われた水を飲んだだけで怒られるとは思っていなかったトウゴは、キョトンとした。


「え? ダメだった?」


 罪悪感の欠片もないトウゴにロアはイラつき、鼻先に水筒を突きだす。


「いいか、大事なことを言っておく。ここでは物資に限りがある。なんでも分かち合い協力し合わないと、あっという間に追い詰められて命の危険にさらされる。独り占め禁止! それがルールだ!」


 頭ごなしに怒られて、トウゴは、「ごめんなさい」と、素直に反省した。

 その様子を見て、ロアは落ち着きを取り戻した。

 家族なら当然共有されたルールが、他人には通じないと知らなかったロアの落ち度ではある。


「二度とやるなよ」

「はい」


 トウゴが肩をすぼめて縮こまった。



「目的地ニ到着シマシタ」


 コンクロが停止した場所は、ガーゼラ入り口の駐車場。ここからは徒歩で行く。


「降りるぞ。マハフィはお留守番頼むよ」

「ピィー」


 ドラゴンを連れて店に入れないので、コンクロに置いていく。


「ここがガーゼラか。人がたくさんだ」


 初めてのトウゴは、行き交う人や立ち並ぶ露店、店の看板を眺めて驚き興奮した。


「洋服屋はどこかな」

「こっちだ。ついてこい」


 弟の服をよく買っていたなじみの洋服屋に入ると、セクシーな女店主エリサが、一年振りに顔を出したロアに驚きの声を上げた。


「いらっしゃい……。ロア! 久しぶり! 元気だった?」

「見ての通り、とても元気さ。彼の服を買いに来た」


 トウゴを紹介し、サイズを見繕ってもらった。


「ボーイの服はこの辺ね」

「これがいいかな」


 ロアが選んだ服は、シンプルで丈夫なツナギだった。

 カーキ色で、どうみても採掘用。


「色違いもありますよ」

「トウゴ、好きな色を選んでいいよ」


 トウゴは、デザインは選べないんだと知った。

 だったらせめて好きな色を選びたいが、土とジャングルに紛れそうな色しか揃っていなかった。その中から仕方なく選ぶ。


「じゃあ、これにする」


 オリーブグリーンのツナギを一着取り上げた。


「おう、それもいいな。じゃ、それをくれ。着替えさせて欲しい」


 試着室で、買ったばかりのツナギに着替えさせてもらった。


「前の服は持って帰ろう」

「袋にいれましょうか」

「汚れているのに、すまない」

「構いませんよ。あら、この服……」


 エリサがトウゴの着ていた服を手にすると、オヤッという顔になってジッと観察した。何かに気付いたようだった。

 着衣からトウゴがモナハラメ難民だと知られてしまうんじゃないかと心配したロアは、「ああ、大丈夫。自分でやるから」と、無理やり奪って自分で袋に詰めた。


「良かったら、買い取らせて貰えないかしら?」

「え? 何故?」

「凄く質が良いから、中古でも高く売れると思うの」

「いや、汚いし」

「こちらで洗濯するから、そのままでいいわ」


 急にどうしたんだと、ロアは訝しんだ。

 本当に服を転売したいだけなのか、それとも、トウゴを狙っているのか。


(人身売買組織に情報を流しているのかもしれない)


 売れるものは何でも売るのが、トアルト島の商売人魂と言える。本当に服だけとしても、そこからトウゴの足がつく恐れはある。

 売る売らないで揉めていると、トウゴが割って入ってきた。


「買い取ってくれるというのなら、僕の服を売ってください」

「なんで?」

「だって、お金は必要じゃないですか」

「バカ、坊やはそんな心配しなくていい」

「また坊や扱い? 一つしか違わないのに」


 トウゴは不満そうな顔をした。


「一つでも大きいよ。とにかく、この服は売らない。これはお前のためだ」

「あら、残念」


 エリサは、それ以上深入りすることなく諦めてくれた。


 店を出ると、「私の判断に逆らわないという約束をもう忘れた?」と叱った。


「良かれと思ったのに、これもダメ?」

「そう。ダメ。この島の恐ろしさをあなたはまだ知らない。大体、難民であることを知られたくないって言ったのは自分なのに。誰かの手に渡って、身元を知られたらどうする」


 トウゴは肩をすくめた。


「そうでした。今後は気を付けます」


 危機感がいまいち薄い。

 何を考えているのか、何も考えていないのか。

 トウゴに関して分からないことが多すぎて、ロアは今後の対応を計りかねた。

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