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ドラゴンと魔石の島に僕等は生きている  作者: ナナイロナイト
第一章
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少年を拾う

 戦車のような採掘ロボットから出てきたのが、自分と年端の変わらない少女だったからか、緊張した少年の顔は一瞬意外そうな顔になってから安堵した。


 ロアは、コンクロから降りた。続けてマハフィが出てきて、鼻先を少年に当てて匂いを嗅ぎまくる。警戒のサインだ。


「フンフンフンフン……」

「ウ……」


 少年はドラゴンが苦手なのか、蛇に睨まれた蛙のごとくされるがままでジッとしている。

 マハフィが命令なく襲うことはない。放っておくとして、少年に話を聞くことにした。


「坊や、名前は? ここで何をしている?」

「僕は坊やじゃない」

「どうみても、私より年下じゃないか。私はロア。火喰石ハンターをしている。この辺一帯は私のものだ。いわば坊やは不法侵入者。返答によっては射殺されても文句を言えないんだぜ」


 殺す気など毛頭なかったが、嘗められないように少しだけ脅しを入れた。

 少年は、「僕を殺すの?」と、怯えるように言った。


「だから、返答次第だってば。名前は?」

「トウゴ。トウゴ・ピド」

「年は?」

「12……3!」

「どっち? 嘘は良くないよ」

「今日、誕生日なのを忘れていた。13歳だ!」

「そっか。誕生日か」


 ふと、死んだ弟と会話している錯覚を起こした。

 弟とは年子で、いつもどっちが上かで張り合って喧嘩していた。


(バカだな……。あの子は死んだんだ……)


 思い出すと泣いてしまうから、グッと堪えて虚勢を張る。


「じゃあ、私がお姉さんだ。14歳だからね。トウゴは坊やだ。異論はないな」

「分かったよ……」

「どこから来た?」

「僕は……」


 唇を噛み締める。


「どうした? 言えないのか?」

「僕はモナハラメからきた」


 モナハラメ国は、為政者に恵まれず、常に政治が混乱している。近年、独裁者による恐怖政治が強まり、難民が多数出ていた。


「密入国した難民ってこと?」

「ああ。だから、大っぴらに行動できないんだ。軍に見つかれば国に帰されてしまう。そうなると殺される」

「それでこんなところまで逃げてきて隠れていたって言うのか」

「うん。ここなら見つからないで暮らせると思ったんだけど……」

「想像以上に過酷な環境で、早々に音を上げたってことか」

「そうなんだ。分かってくれる?」


 トウゴは、小リスのような目で情に訴えた。


「分からないでもない。私だって、ジャングルでの生活は出来ないからね。で、行く当てはあるの? 難民を保護する機関にでも頼んでいるのか?  ここにいては、遠からず野垂れ死にだよ」


 難民救済活動をする国際ボランティア団体はいくつかあり、アルト国を経由して第三国へ出国することが多い。

 しかし、それは大陸での話。

 この島を経由して逃げるルートがあるかどうかは知らない。

 地域によってはモナハラメより危険だったりするからだ。


「そんなものはないよ。自力で逃げてきたんだから」

「そうか。それはご苦労な事だ。それはともかく、一刻も早くここから出て行ってくれ。ここは危険だ」


 一言注意してコンクロに戻ろうとするロアに、トウゴは、「連れていってくれ」と無茶な頼みを求めてきた。


「は? そんなこと、出来ないよ」


 トウゴは切羽詰まった顔をした。


「ここにいたら、死ぬんだろ? 僕には行く当てがない。どっちに向かって進めばいいのかも分からない。放置したあんたが次に見つけるのは、きっと僕の骨だろうよ。それを見ても何にも思わない?」


 今度は罪悪感を刺激してきた。


(なんなんだこいつは、図々しい)と考えたロアだったが、トウゴの無垢な瞳を見つめている内に少しずつ気が変わった。

 憐れに思ったのもあるが、弟の面影が重なったのもある。


「あんたの骨ぐらい拾ってやる、と、言いたいところだが、あんたの言い分にも一理ある。確かに、自分が見捨てたことで死んだら寝覚めが悪くなりそうだ……」


 マハフィは、トウゴの匂いを嗅ぐのに飽きて毛づくろいを始めている。


「私のやり方に文句を一切言わない、絶対服従すると約束するなら、コンクロに乗せてやる」

「え、いいの?」


 トウゴの顔が明るくなった。


「ああ。さあ私に向かって誓え」


 ロアは、無茶だと分かって上で、あえてきつい言葉を投げかけていた。

 諦めさせようと思ったからであって、本心で言っていない。

 拒否すれば置いていくだけのこと。受け入れるなら絶対服従を強いる。

 騙しあいと殺し合いの世界であるこの地では、それぐらい強く抑え込まなければならないと知っていた。身内でさえも裏切るのだから。


「……誓うよ。えっと、名前は?」

「ロア」

「ロアには決して逆らわないと誓う」


 背に腹は代えられないと覚悟したのか、トウゴは誓いの言葉を小さく口にした。


「じゃあ、乗れ」


 ロアは、コンクロの上でトウゴが上りやすいように右手を差し出した。


「ほれ、掴め。引っ張り上げるから」


 トウゴは少し驚くと、小さくほほ笑んでロアの右手を掴んだ。


 ロアとトウゴ、マハフィは、コンクロに乗り込んだ。

 椅子は3脚。センターが操縦席なので、ロアが座り、後方の椅子にトウゴを座らせる。


「ここに座れ。移動中は揺れるからしっかり掴まること」

「うん」


 ロアは、先ほどの偉そうな言葉とは打って変わってトウゴの身を心配している。

 言葉ほど悪い人じゃなさそうだとトウゴは考えた。


 マハフィは、体を丸めて寝ているが、自分に対して警戒を怠っていない。

 ご主人様を守るガーディアンなのだろう。


「その子はマハフィ」

「よろしく、マハフィ」


 ちょっとでも早くマハフィの警戒を解いてもらおうと、トウゴは無理して笑顔を向けた。


「そして、AIのコンクロだ」


 異変に気付いたコンクロが喋った。


「荷重ガ増エテイマス」

「今日から一人増えた。トウゴだ」

「荷重増ニヨル再設定ガ必要デス。再計算ヲ開始シマス」


 採掘ロボットのコンクロは、荷重変更による再計算を行った。

 積み込める火喰石の量、移動に掛かる時間、地中を掘る時間とエネルギーなど、予測に関わる数字を算出するためである。


「再設定完了デス」


 一瞬で終わった。


「目的地をガーゼラに変更」

「了解デス。到着予定時刻ハ、2時間18分45秒後デス」


 コンクロは、ガーゼラに向けて出発した。

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