侵入少年
――ピーピー!
コンクロが警戒レベル1のアラートを出した。
ミサイルぐらいの危機だと警戒レベルMAXとなり、絶対に無視できない派手派手しいサイレンでアラートを出すが、それに比べると音が小さく、ラジオ程度のボリュームしかない。赤色灯も点灯しない。寝ていたら気付かないかもしれない。
つまり、それほど緊急性や緊迫感はなくて、要注意レベルということだ。
「今度は何?」
「ヒトガイマス。モニターニ表示シマス」
コンクロがモニターに外の景色を映し出した。
画面中央に、12-3歳ぐらいの可愛い顔をした少年が映っている。ロアの知らない顔だ。
「誰だろう?」
「データベースニ登録ハアリマセン」
「島外の人間なのかな。こんなところで何をしているんだろ」
少年は、「おーい! おーい!」と、両手を大きく振ってこちらを呼んでいた。
「こっちを呼んでいる」
「攻撃シマスカ、回避シマスカ。指示ヲクダサイ」
コンクロが物騒な選択肢を上げた。
丸腰の少年相手に攻撃などあり得ない。
「いやいやいや。いきなり攻撃はしないでしょ。まずは調べなきゃ」
先ほどのミサイル攻撃で、コンクロが少し過敏になっているようだ。
この一帯は、ロアが採掘権を持っている。怪しい侵入者がいれば排除できる。
資金力のある組織なら、採掘権を持つエリアに盗掘者が入らないよう、鉄条網で土地を囲み、砦を作り、大勢の見張りを立てて不用意に近づくものを容赦なく射殺する。
ロアは、侵入者がいても対処しきれないので、火喰石さえ盗まなければよしとして、採掘権を持つエリアを出入り自由にしている。侵入しただけで攻撃することはない。
少年は、こちらに助けを求めている。
場所が場所だけに、何か事情があるのではないかと考えた。
「迷子かもしれないし、ここで何をしているのか聞く必要がありそう。とりあえず、止まって」
――カサカサカサ……。ブシュー……。
コンクロは、停止した。
ゲリラが子どもを囮にして民間人を誘い出す手法を念頭に、慎重に調べる。
「あの子をアップにして」
少年にズームイン。
まずはよく観察する。
手ぶらで荷物も持っていない。
まあまあよい服を着ているが、普通の服だ。転んだり沼に落ちたりしたのか、ヨレヨレで泥だらけとなっている。
一番の注目は足元である。このような場所には不向きのブーツを履いている。つまりジャングルの知識がない素人ということ。なんの準備もなくここにいることが不可解である。
ジャングルに不慣れなものが入り込めば、飛び出た木の根や枝、地面に蔓延る植物に足を取られて転んでしまう。
コンクロならセンサーを駆使して障害物を回避しながら問題なく進めるが、普通の人間には無理である。
少年もかなり彷徨ったようだ。
視界を邪魔するもので覆われているジャングルは、地形を見誤りやすい。やみくもに進んでは、必ず遭難する。
それだけではない。毒を持つ昆虫や人間を食べる生物に襲われる危険もある。
このようなジャングルの恐ろしさを、盗掘者はよく知っている。命を落とす危険だらけのここにはやすやすと入ってこない。だから柵も砦も必要ない。
少年は、よく無事で生きていたと思う。
「ズームアウトして」
引きの映像となった。
「周囲に誰か隠れている?」
「彼以外ノ生体反応ハ見当タリマセン」
「危険はなさそうね。じゃ、あの子のところまで近づいて」
――カサカサカサ……。プシュー……。
コンクロは、少しだけ前進すると、少年の前で止まった。
ロアは、天井のハッチを開けて頭を出した。