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ドラゴンと魔石の島に僕等は生きている  作者: ナナイロナイト
第一章
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ロアの回想

 なぜ、ロアは殺されずに今でも採掘を続けられるのかというと、コンクロの存在が大きい。

 そしてもう一つ。

 ロアには他人と違う特殊なスキルがあったからだ。これは天性のもので、アルト人の千人に一人の割合で持っている遺伝子による。スキル内容は人によって違う。

 強く発動する者もあれば、自分でも一生気づかないスキルもある。


 ロアのスキルは、「マリオネット」と呼んでいる。

 目を合わせた一人だけ、念ずるままに動かすことができる。それが操り人形のように見えるから、自分で名付けた。

 効果は短時間しか持続せず、一度に一人にしか効かないが、ピンチを切り抜けるには充分である。

 マリオネットは、相手の行動や思考を一々念じて動かす必要があるので、大勢に長時間はやってられないというのもある。


 ロアが天涯孤独となったのも、採掘権が原因であった。

 家族は、父の実の弟である叔父に殺された。

 今でも目を閉じれば、血塗られた忌まわしい記憶を思い出せる。


 ロアは、父に言われて納屋でコンクロの掃除をしていた。

 そこに母屋から銃声が何発も連続して聴こえてきた。

 襲撃かと驚いて駆け付けたリビングでは、父が蜂の巣となって倒れていた。おそらく即死だったろう。

 弟と妹も血まみれで床に転がり、ピクリとも動いていなかった。

 母は血を流して苦悶の表情で仰向けに倒れていた。指先が微かに動き、まだ息があった。

 母の前には、マシンガンを構えた叔父が立っていた。


 叔父は、父と協力して採掘の仕事をしていた。

 兄弟仲は良かったように見えた。ロアたちにはプレゼントをくれたりして、とても可愛がってくれた。

 そんな優しくて働き者だった叔父の豹変が信じられなかった。

 まさか身内に襲われるなどみじんも考えていなかった父は、コンクロで反撃するとか、壁に掛かるライフルを掴んで発砲するとか、いざという時に考えていた防御を何一つできなかったようだった。


 ロアもそうだった。

 どこからどう見ても、犯人は叔父しかいない。

 それでもなお、現実を飲み込むことができずに棒立ちした。

 昨日まで仲の良かった親戚をいきなり殺すことなどできなかった。それは父も同じだったろう。


『叔父さん……、どうして……』


 叔父は冷たく言い放った。


『採掘権を兄貴が独り占めしたからだ。俺は長年仕えてきた。このままでは、一生兄貴の下僕だ。だから採掘権は全て俺が貰う』


 そんなことを考えていたとは、全く気付かなかった。

 断末魔に苦しむ母が『ウー、ウー』と、唸った。


『俺もこんなことをしたくなかった。せめて苦しまずに死なせたかった』


 叔父は、母の頭に銃口を向けると、情け容赦なく「バンッ」と、一発撃ち込んだ。

 母の動きはピタリと止まり、息が止まった。

 優しかった母が二度と微笑むことはないのだと分かった。


『お前で最後だ』


 叔父は、身動きできないロアに顔を向けて銃を構えた。その冷たい瞳にロアの心は凍り付いた。あれだけ可愛がってくれた自分に対して、何のためらいも情けも感じられなかったからだ。

 お互いの目が合った。スキルを使う最初で最後のチャンスだった。

 ロアは、必死で叔父の目を見つめてスキル・マリオネットを発動した。


(殺意を失くす。マシンガンを手放す――)

『………………』


 見事に効いて、叔父は、念じた通りに殺意を失くした表情となり、マシンガンを床に手放した。


(外に向かって歩く――)


 ロアは、叔父を歩かせて外に出すと崖に向かわせた。

 ためらうことなくまっすぐ歩いた叔父は、崖から転落して谷底に吸い込まれて行った。

 大好きだった叔父に手を下せなかったロアの、これが精一杯の復讐だった。


 叔父はマシンガンで兄一家を殺したあと、自責の念に駆られて崖から投身自殺したとされた。


 もしもあの時家族と一緒にいたら、スキルを使って全員殺されずに済んだかもしれないと、今でも後悔の念が押し寄せる。


 ロアのスキルを知っているのは両親だけだった。


『誰にも話すな、知られるな』と、口外することを父から固く止められた。


 叔父さえも知らなかったはずだ。だから、どうして自分が殺意を失くしたのか理解できない顔をしていた。


『お前のスキルは、必ずお前の身を守るだろう。だから隠せ』


 あのような状況になることを予見したかのような、父の教えであった。


 今では過ぎ去った過去として、忘れるように努めている。

 辛い経験があるからこそ、なんでもない日常を大切に生きようと考えている。

 日の出と共に起きて、ニワトリにエサをやり、菜園に水をやる。

 収穫できそうなものは収穫して、マハフィの体を洗ってやり、コンクロの筺体を磨き、朝ご飯とお昼のお弁当を準備して、ゆっくり食べて、採掘に出掛ける。

 火喰石を手に入れたら買い取り業者に持ち込み、アウハで夕飯を食べて、買い物して帰る。


 繰り返す営みは、とてつもなく愛おしくて、考えただけで涙が出る。

 誰にもこの日常を壊してほしくない。

 ロアのただ一つの願いである。

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