第四話 02
前回の瀬尾さんからの紹介で来られたらしい女性は「夢を斬ってほしい」と冷静に言った。
「あの、それをどちらで聞きましたか?」
「上司からですが、なにかまずかったでしょうか?」
「いえいえ、大丈夫ですよ。詳細を伺っても?」
「はい、子供の頃から喫茶店をやりたくて、ずっと紅茶入れとかを趣味にしていたんです。大人になってもその夢は消えず、ますますのめり込むようになってきていたので、貯金していたんです。自分の店を将来持てたらなぁ、と。けど、どうしてもその貯金が必要になってしまって、けど夢のせいでその貯金を切り崩すのにも強い抵抗があって。いっそのこと夢なんか持ってなかったらどんなに楽だったのだろう、みたいなことを、最近人が変わったかのように優しくなった上司に相談したんです」
重い話のはずだが、妙にさばさばと話してくれた。自虐なのか他に理由があるのか。ひっかかるところもあるしな。それはさておき。
瀬尾さんところの部下なら給料いいだろうし、けっこう貯金もあるはずだ。しかし若い女性が急にお金が必要になるというのはあまりに怪しすぎる。それは他人から見ると良くない理由であるようにも思える。しかし今それを直接聞いても、おそらく正直には答えてくれないだろう。
断るのが一番だと思うが、それは瀬尾さんの顔を潰すことになり、まわって兄を名乗る占い師二郎丸の顔を潰すことになるだろう。それはあまりよくない。断るにしても準備が必要だ。
二郎丸がここにいたら楽だったのだが、あいにく今はいない。よけいな時にはいるくせに必要な時に限っていない、彼らしい。ならば……。
「分かりました。しかしその件は受けられるかどうかのチェックが必要なのです。よろしいですか? 時間はそれほどかかりませんので」
依頼者の女性は鹿沼祥子と名乗り、彼のあとをついて、事務所があったビルの三階に上った。事務所の上に占い師がいて、その人に占ってもらって受けられるかどうかを判断するのだそうだ。
「野箆さん、いますか?」
何の看板も出ていないドアをノックし、声をかける。
返事もなく、奥開きのドアが開く。
「どうぞ、鹿沼さん、この部屋に野箆さんがおられますので話をしてください」