第三話 05
「合計百万ですね、分かりました。即金現金の前払いでよろしいでしょうか?」
瀬尾は普通に分厚い封筒に入った百万をポンと小滝の机の上に置いた。
「え? はい、ありがとうございます!」
「領収証も別にいりませんよ? そのお金は私の生活費からためていた、いわゆるタンス貯金といったものですから、足もつきませんし」
趣味も何もないのに優良大企業に務めているからか、金払いはとても良いようだ。
「けっこうな大金ですが、本当によろしいのですね?」
三郎丸が念押しで意思の確認を取る。
「はい、これで生き甲斐が得られるなら安いものです」
「えと、私の処置はそれを付与する占い師の前段階の処置ですから、占い師からも処置代金を請求されると思いますよ。かなりの額になりそうですが、よろしいのですね」
「え……、はい。大丈夫です。それぐらいの蓄えはあるはずです」
三郎丸が立ち上がり、ロッカーを開けて、日本刀を取り出す。
瀬尾はさすがにぎょっとなったが、そのまま座っている。
「これで瀬尾さんを苦しめていた夢を斬ります」
「だ、大丈夫なんですよね?」
「ええ、もちろんお体には一切傷もつけません。夢だけを斬ります」
横にさやを抜き、さやを机の上に置く。軽くその場で刀を振り回す。刃が煌めく。
「瀬尾さん、立ってもらえますか?」
言われて瀬尾が跳ねるように起立する。
「では体から力を抜いて、できるだけ何も考えないようにしてください」
「はい……」
瀬尾は言われた通り、体を脱力し、うつむきになって目を閉じた。ほぼ完璧だ。
「では斬ります。夢操術、夢斬」
フッ、と瀬尾に向けて刀を袈裟に振り下ろす。もちろん瀬尾には当たっていない。三郎丸は残心してから、刀をおろした。
「もう、いいですよ、瀬尾さん。処置は完了しました」
三郎丸は机においたさやを手に取り刀を納め、それをロッカーに再び収めた。
「何も変わった気がしませんが……、本当に終わったのですか?」
恐る恐るといった感じで目を開く瀬尾。
「ちゃんと斬られてるから安心していいよ。それじゃ、ボクの事務所に移動しようか、瀬尾さん。ここじゃウチの施術はできないからね、あ、タクシー代出してくれる?」
とことん二郎丸は瀬尾にたかるつもりのようだ。
「それじゃーね、探偵さん、ありがと助かったよ。また報告に来るからね」
馴れ馴れしく瀬尾の手をひっぱって事務所から出ていく。瀬尾はそれに引っ張られながらもこちらに軽く会釈してから事務所を出ていった。……ドアは開きっぱなしだ。
「まあ、乱暴に閉められるよりは、ましか」
三郎丸は軽く首をこきこきさせながら、ゆっくりと事務所の扉を締めた。