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7.スクール水着とは真実を映す残酷な鏡。

 「……さっさと運んでプールに行かなきゃ……!」

 

 さっき優にグジグジすんなって言われたばっかりだし。

 って言うか気合入れないと心配ばっかりが湧き出てくるし。


 インクの臭いが立ち込める薄暗い印刷室の扉を開けると男の子の後ろ姿が目に入った。

(この子もテスト中なのに、面倒なこと頼まれたのかな?)

 そんな事を思いながら運ぶ資料を探していると、突然くるっとその子が振り返る。


「……あっ!」

 私をしばらくじっと見つめた後、嬉しそうに笑った。


 よく見ると、とんでもないイケメンっ!!

 なに?!この王子様の生まれ変わりみたいな品のある顔……


「あ? あれ? どこかで会いました……?」

 あまりにもじっと見てくるものだから、何か喋っていないと落ち着かない。


 それにしても康太もまぁまぁカッコイイけど、なんか種類の違うカッコ良さ?

 好きじゃなくても見とかないと損する!みたいな気になっちゃう。


「セシリア……?」

 頬を赤らめて私を指差し、ポツリと呟く。


「ハイ……??」

 なんですか?

 誰ですか?セシリアって?

 もしかして生まれ変わる前の婚約者の名前ですか??

 私似てるってことですか???


 異世界の様な空気感に全く現実味がない。


「あ、ごめん。二ヶ月前に死んだ猫にそっくりだったから……」






「ぎゃはははっ!!! なにそれっ!?」

 プールの入り口で先に待っていた優が大爆笑する。


「いや、ほんっとイケメンだったんだからぁ!!」

「そんな生徒この学校にいる? 異世界の王子様見たいな……ぶっ!」

 まだまだ笑い足りない様で下品に吹き出した。


「しかも死んだ猫って……人として見られてないのもウケる……ふぐっ」

 もう優なんか笑い死んでしまえっ!!


「なに騒いでんだよ……。うるせぇっていつも言ってんだろ」

 (康太!!)

 プールバックを片手に、はしゃいだ私達を見つけて、ため息をつく。


「いやさ、柚子が王子様に出逢ったなんて寝ぼけたこと言ってるからさぁ……」

「優っ!! 康太に言うなって言ったじゃん!」

 こんなこと康太に知られたらまたからかわれるのは分かってるし、お菓子の賄賂でしっかり口封じしたつもりだったのに!


「もー! さっきあげた新発売のチョコ返せっ!!」

「ごめん、ごめんて。つい笑いを共有したくて……」

「もー怒ったっ!!」


 優と私が追いかけっこしている姿を呆れながら康太が見ている。

「なんでお前らここにいんだよ? 早く帰って勉強しろや。柚子、帰るぞ!」

「え? あ、うん」

 康太に片手を掴まれてはしゃぎスイッチがプツリとオフになる。

「ケーキ屋、寄ってくんだろ?」


 せっかく頼まれごとを終えてプールに辿り着いたものの、結局間に合わなくて東海林先輩との事をチェック出来なかった。

 今日どんな風に東海林先輩と会っていたのか考えると嫌になるけど、こんな風に康太が私の側に戻ってきてくれると嬉しくてつい顔が綻んでしまう。


「ニヤニヤすんなよ。ケーキ楽しみなのは分かるけど」

康太が大きな手で私の頭をくしゃくしゃっとした。

「うふふ」


 そんな風にピークに浮かれていた時だった。

「康太くん、また明日ね」

 透明な声が騒いでいる私たちの頭上を通り過ぎて行く。

「ん?」

 私はびっくり水を差されたような気分で声の出先を探した。


「……東海林先輩……!!」

 ちょうど室内プールの出口から歩いて康太の側を笑顔で横切る所だった。

 濡れたロングヘアーがキラッと光って『ほぅ……』と羨望の溜息が出てしまう。


 (ん? 濡れた……ってマネージャーじゃなかったの?)


「康太、東海林先輩も泳いでんの?」

「あぁ、中学の時大きな大会で何度も入賞してるんだぜ、彼女」


「……そうなんだ」

「……?」


 康太が私の顔を覗き込む。

 私は逃げる様に視線を逸らした。


 東海林先輩、水着着てたんだ……。

 やだな。

 やだな……。


「柚子? どした?」

 優が心配して私を康太から引き寄せる。


「東海林先輩もプール入ってるんだって」

 康太に聞こえないような小さな声で優に伝えた。

「……それ気にするのは分かるけど、どうしようもないじゃない」

 優のいうとおり。

 どうしようもない。


「柚子は学校のプールはほっとんど見学だもんね」

「……だって嫌じゃん。誰も私の気持ちなんてわかんないよ」


 スクール水着。

 それは真実を映し出す鏡……ってのは言い過ぎだけど。

 もう貧乳には『残酷』この一言に尽きるコスチュームだ。


 体のラインがほぼ出てしまうアレは、学校という拘束された中で一切盛ることは許されない……



「絶対康太も見てるよ、あのナイスバディ!」

「おっさんみたいな表現やめなよ……」


 優は顔を私の耳に近づけた。

「今度近くに出来た市営のおっきい室内プール、一緒に康太も誘おうよ。モリモリに持った谷間が見えない可愛い水着着てさ! きっと康太の頭の中にある東海林先輩も霞んじゃう……ハズ」

 その自信なさそうな言葉、信用していいの?


 でも、私だって……!!

 まともに張り合えるとは思わないけど、おへそ周りとかはシュッとして自分でもイケるって思えるしっ!


「康太!! 今度プール行こ!」

 こんなに余裕が無くなったこと、今まであっただろうか?


「え? なんだよ急に。いいけど別に、柚子プール大っ嫌いじゃなかったけ?」

「泳ぐんじゃなくて、遊ぶのは好きなの!」

「ふうん」


 私からプールに行こうなんて誘った事は物心ついたときから一度もなかった。

 康太は不審そうな目で私を見ているが、えへへと笑ってごまかす。


 ……私だって、この身体の中に、魅力の一つくらい、ちゃんとあるんだから!

 


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