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6.女の子には努力が必要?

「ふーん。やっぱり康太も男の子だったんだねー」

 教室で昨日の数学の宿題をノートに懸命に移しながら、新道優(しんどうゆう)が口先だけで返事をする。


「どういう意味よ」

 男の子に決まってんじゃない!

 優には女の子に見えんの?


「どういう意味って、あんなにモテんのに女の気配ゼロじゃん? あたし、康太って男にしか興味ないのかと思ってたよ」

「まさかぁ。私だって女だけど仲良い方だと思うし」

 仲良いっていうか、腐れ縁って言った方がしっくりくるか。


「あのね、柚子は康太に女子としてカウントされてるんかい? あたしにはあんまりそうは見えないけど」

 心ここにあらずなトーンの会話に、優の面倒くさそうな空気はビンビン伝わって来るものの……

 その発言には少々引っかかるものがある。


「じゃあ、私って周りから見たら康太との関係どんな風に見える?」

 優の宿題なんてお構いなしに私は続けた。

 『うるさいなぁ』そんな顔で、書き写している手を止めて私を見上げる。


「兄妹。うん、間違いない」


「やっぱそう……?」

「あれ? 自覚あった?」

 クスクス笑って優は私をじっと見た。


「柚子が康太の事好きなのは知ってるけど……なんかそんな風に見えないんだよね。わざと隠してるのかもしれないけど、もう少し女の子の可愛らしいところ見せた方がいいんじゃない?」

 そう言いながら私の寝癖の取り切れていない前髪にそっと触れる。


「東海林先輩みたいに……?」


『え? 何言っちゃってんの?』間違いなく優はそんな顔をしてた。

「いやいや、東海林先輩は息してるだけで色気や可愛さが滲み出てくるタイプだし、柚子とは全然違うっしょ?」

 机の中から折りたたみの鏡を取り出して私に向けた。


「地味に傷つくんだけど……。じゃあ何をどうすれば女の子に見えんのよ?」

 私は出された鏡の中で跳ねた前髪を軽く直す。


「うーん……。全部女の子っぽくしてみたら? 服とか、振る舞いとか、言葉遣いとか……」

 そう言いながら優がブハッと吹き出した。

「想像もできないわ、柚子がそんな風にイメチェンしてるとこ……ふふは!」

『あー笑った、暑い暑い』と笑いすぎて声を震わせながら下敷きで仰ぎ出す。


「ね、後で見に行こうよ。水泳部のマネージャーになったんでしょ? 女っ気のない康太も気になっちゃう東海林先輩」

「……うん」

「よし! その前に宿題とテストっ!! 柚子は康太の事考える余裕がたっぷりあるみたいだけど、私はもうギリギリだからもう話しかけないでっ!」

 再びシャーペンを握りしめ机に向かいガリガリとやりはじめた。



(あたしだって余裕ないよ! 色々全部……)

 優の前の席にストンと座る。

 机に広げたノートにはメモられた康太の意外と綺麗な文字。

 いつの間にこんな大人な字を書けるようになってたんだろう?


 少しずつ成長していく康太に、私は今まで全然気付けないでいたのかもしれない。


(あぁ、小さい頃に戻りたい)

 可愛いとか、大きいとか、小さいとか……

 そんな事なんてあの頃は考えたこともなかった。

 当たり前のように毎日康太は私の隣にいて四六時中一緒に遊んだっけ。


『ボーッとしてると、康太くん誰かにとられちゃうかんね?』

 成長していないのは自分だけ……?

 朝ママに言われた言葉がぐるぐると頭の中を回った。


 ◇◆◇◆


「あー!! やっと終わったテストっ!!」

 朝のテンションとは比にならないすっきりした声で優が叫ぶ。


「まだ明日英語と物理残ってんじゃん」

「私その二教科は結構得意なんだよね」

 ニシシと笑って教科書を鞄に仕舞い込んだ。


「最悪、私どっちも苦手……」

「また、康太に教えて貰えばいいじゃん。夜這いにくるんでしょ? いつも」

 鼻歌まじりに鏡を見ながら色付きリップを塗る優を見て、そう言えば自分は鏡すら持ってないなと改めて女子力の低さを自覚する。


「昨日の今日だからなぁ……。水泳部大会近いからテスト期間も部活あるし、疲れてるんだろうし……。今朝も呼び出した時『うるせぇ!』って怒ってたし……無理かも」

『はぅ……』と弱々しく息を吐くと、『ゲホッ』とむせる程の強さで優が私の背中を叩く。


「グジグジ言ってんじゃないよっ! アンタは康太の用事なんていつもお構いなしにいつも好き勝手振り回してんじゃない。どうしたのよ、今日は」

「私だってそういう日もあんのっ!」

「あっそ! じゃ、行くよ、水泳部」

 強引に優に腕を引かれて廊下に出た途端、誰かにドシンとぶつかった。


「コラ! 廊下で暴れんじゃないぞ」

 担任の吉岡修(よしおかおさむ)43歳だ。


「そうだ、川嶋。ちょうどお前探してたんだ。明日日直だろ? 修学旅行のしおり作るのに大量にプリントあんだけど、明日配るから教室に運んでおいてもらえんかな?」

 がっしり肩を掴んで私を引き止める。


「え〜、今からちょっと大事な用事が……」

「修学旅行のが大事だろ? ん?」

 もう、ほんっと修ちゃんは人の都合ってものを配慮しない先生だ。

 気軽に絡んだ生徒たちは気がつくといつも面倒な雑用を押し付けられている。


「まぁ、修学旅行も大事ですけど……」

「よし、ついでに新道は暇しちゃうだろうから、職員室までちょっといいかな? この前使った資料集、図書室に返却して欲しいんだよー」

「え〜! なんで私まで!」

 ブーっと頬を膨らましながらも修ちゃんに優が拉致られていく。

 遠くから『じゃ、頼んだぞ』そう残された私に手を振る修ちゃん。


「もーっ!!」

 私は渋々一人印刷室に向かう。


 東海林先輩……

 今、もうプールに康太と一緒に居るのかな……?

 アイツどうせデレデレした顔してるんでしょ?


 やだ、やだよ……

 他の女の子なんてみないでよ……


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