1.そもそも女に見えない私。
短編でサラッと描こうと思って夜中書き始めましたが、収まらなくなってしまったので連載にします。
そんなに長くならない予定なのでお気軽に呼んでいただけたら嬉しいです♪
白み始めた朝。
今日のテストは国数社の最悪な組み合わせ。
ほぼ徹夜で一夜漬けに挑んだ私は、思った以上に捗らなくてシャーペンをコトンと机の上に置いた。
お気に入りのクマのぬいぐるみをギューっと抱きしめて、深いため息をついた私は川嶋柚子、高校二年生。
少し外の空気を吸おうと窓を開けた。
夏の暑さは何処へ行ったのかと思うくらいにひんやりと秋の物悲しい風が優しく髪を撫でる。
「はぁ……、楽しかった夏も終わりね……」
今年の夏休みは仲のいい友達とプールやら遊園地やら、『来年は高3で受験で忙しくなるし』なんてみんなで都合のいい言い訳を持ち寄っては遊び呆けていた。
休み明けのテストを目の前にして、ようやく夢から目が覚める。
「うぅ〜っ!!」
大きく伸びをして家から1.5メートルくらい離れた隣の家の二階の窓に目を遣った。
(寝たのかな……アイツ)
薄らとオレンジ色の光がカーテンの向こうに見えるものの、勉強が出来るほどの明かりはない。
手元にあった布団たたきを手に窓から身を乗り出して隣の窓をコンコンと軽く叩いた。
「……やっぱ寝てんのか」
あんまり叩くと一昨日に窓を叩いた時みたいに怒鳴られちゃう。
昼間見たホラー映画を思い出して夜中怖くなって叩き起こしたんだっけ。
今日はこの辺でやめとこう。
「柚子! うるせぇって何度言ったらわかんだよ!?」
閉めようと窓に手をかけた時ガラガラっと大きな音を立てて勢いよくさっき叩いた窓が開いた。
「ご、ごめん、康太はテスト勉強やってないのかなぁ……なんてちょっと気になって……つい」
「ついじゃねぇ! 何時だと思ってんだ!」
せっかくの整った顔が鬼のように変貌し、ギロッと私を睨みつける。
私の幼馴染、咲田康太、同じく高校二年生だ。
「ほ、ほら、あんまり大きい声出すと、近所迷惑だよ? 怒られちゃうよ?」
「どっちが近所迷惑だ! お前が近所の俺んちに思いっきり迷惑かけてんだろっ!」
ごもっとも……
「ごめんなさい……」
こういう時は素直に謝るのが正解。
伊達に生まれた時から幼馴染やってないんだから。
「……まぁ、いいけど」
フンと横向きながらもやっぱり許してくれる。
「テヘヘ」
「テヘヘじゃねぇ!」
日常茶飯事のこんなやりとり。
怒りながらも、康太はいつもちゃんと私に優しい。
「……で、俺にどうしろっての?」
「来てよ、私の部屋」
おいでおいでと康太に向かって手招きする。
「もっと女らしい誘い方で来ねーのかよ! まったく」
そう言って康太が部屋の窓枠に足をかける。
「なに? 私の事女の子だって思ってくれてんの?」
「女に見えねーから言ってんの! ほら、行くからどけ!」
私は床に何か散らばっていないか確認する。
(あ、ヤバっ!!)
私はしまい漏れていた服や下着を大急ぎでベットの下に寄せた。
(こんなの見られたら私引きこもって一生この部屋から出られないっ!!)
布切れでもなんでもいい!
ちょっと小さいけどこのタオルで……
足元にあったフェイスタオルで大きさ的には心許ないが急いで洗濯物を覆う。
「ふぅ……」
額の冷や汗を拭った瞬間。
「よっしゃ!」
そう言ってムササビのように私の部屋に飛び移ってきた。
「……相変わらず華麗な飛びっぷりね」
「おかげさまでな。お前にパシリにされ続けて17年。俺、そろそろ鳥になれるかも」
そう言いながらすぐ様勉強道具を広げていた机の横にどしんと座る。
「おら、何処分かんねぇんだよ?」
私は康太の機嫌を損ねないように慌てて席に着く。
「えっとね……」
これが康太と私の日常だった。
部屋に来ない日はない位。
「おい、ここが間違ってんだよ」
康太の顔が私の顔にグッと近づく。
……ドキン……
康太が男の子だって意識しはじめたのはいつからだろう?
高校生……?
中学生………?
違う。
康太が初めて別の女の子に告白されているのを目撃してからだから、小学校4年生の頃だ。
片想い歴7年ちょっと。
こんなに近くにいるのに触れる事もできない。
しっかりと目を見る事も出来ない。
幼馴染のくせに、近そうで遠い康太との距離。
『女に見えねーから言ってんの!』
結構キツイよ、その言葉。
くすんだ窓に映った自分の姿を見て肩を落とす。
「ほら、ちゃんと教えてやっから、元気出せ!」
ニカっと康太が笑った。
(あぁ……今日も康太が好き)
こういう二人だけの時間がなくなってしまうのが怖くて、私は今日も康太に本当の気持ちが言えないでいる。