内道的ジブン
猛獣の断末魔の様な叫び声、それに応じて反響する音……全てが僕から発せられた物である事に気が付くのはもう少し後のことだ。
身体がネジ切れる様な痛み、腕に力を入れると血液が漏れ出しまた壮絶な幻肢痛が襲う。
それに呼応するかの様に不気味に笑う怪物。
「アヒィ…ウマァ…キ……キヒヒ、やっぱり若い子供のニクはカクベツダナァ」。
我が身を毟り狂う怪物、猟奇的で狂気的な姿、消えた左手に目をやり再度死を覚悟する。
「……でも、良いか…」。
この先、生きていたって、きっと絶望の連続だ。いい事なんか無い、痛くて辛くて苦しい、地獄だ、きっと生き地獄だ。それがこの一瞬の痛みで拭えるのならそれでも良いか。
『───それで良いのか?』。
もし、ここから生きて帰れたって、僕は片腕で家族無し、親族もみんなお金にしか興味の無い守銭奴ばかり、ボロ雑巾みたいな扱いされて捨てられるに決まってる。
『もう逃げおおせた後の事を考えているのか、勝ち気だな』。
誰がそんな事を───。
『───理不尽だよなぁ』。
……理不尽?
『自分ばっかこんな目にあって不平等極まりないと思わないか?』
何が言いたいんだよ。
『もうこの先幸せに成れる事なんか無いんだ、お前に出来る事は二つ、憎しみを抱いて苦しみながら死ぬか、それとも何も考えずに何かに当たり散らすか、後者なら丁度、目の前にうってつけの奴がいる』。
僕なんかが、あんな化物にかないっこ無いだろ、逃げたってこんな足じゃすぐ追いつかれて嬲り殺される、僕は非力だ、弱い、とても弱いんだよ。
足の震えが止まらない。
『死にものぐるいでやったら一矢位は報いれるんじゃ無いか?』
ふと、自らの内道的感情を受けると同時に自死の選択がすっかり消失している事に気付く。
『───なんだ、自分で気付けたじゃないか』
「あーもう、クソ……」。
ボサボサになった髪の毛をやけくそに掻き毟る。
『───憎いか?』
憎い。
『───悔しいか?』
悔しい。
『だったら、やる事は一つだ───
────抗え』。
震える足をゲンコツで叩く。
身体のありとあらゆる所が鬱血している、骨も何本か折れているだろう。
静かな闘争心だけが彼を動かし、アドレナリンだけが少年の痛みを忘れさせる。
気付けばあしの震えは止まっていて、地に沿ってがっしりと少年の身体を支えていた
「あぁそうかよ、やってやるよ───君は又、僕を死なせてくれないんだな」。
そっと、その小さな手で先の尖ったパイプを握りしめた。