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入軍

「新卒の諸君、入軍、まことにおめでとう」


 大広間には、新入兵卒五百名が集まり、神妙な面持ちで演説台の上にいる、新卒教育部総督大佐の話を聞いていた。

 窓の外から射す光の暖かさにうつらうつらしながら、レクノはぼんやりと演説台を眺めていた。


「諸君らには一ヶ月の訓練の後、君たちの技量をはかる試験を行う。試験結果によって、君らの配属先が決まるから、まあ、せいぜい頑張りたまえ」

 せいぜい頑張りたまえとは、なんともいい加減な総督もいたもんだと、レクノはぶっきらぼうに思う。

 あとの話はどうでもいいような、気分の向かないものだったので、右から左に流した。

 軍の話など、どうせ正義をかたどった偽りでしかないのだ。聖なる光をかたどった人工太陽と同じように……


「以上、解散――」

 ようやく話が終わったようだ。

 レクノは立ち上がり、手元の入軍証書の筒をぎゅっと握り締めた。

 いよいよだ。

 気負いのようなものは一切ない。なぜなら自分には才能がない。それはありとあらゆる仕事をしてみて分かっていることだった。顔の美しさ以外はまったく平凡なものだった。

 もちろん、やる気というものは、一割すらその仕事につぎ込んだことはないのではあるが……

 とりあえずは軍にも、期待すらされてはいなかった。

 入軍応募の末、レクノは二等兵という、軍でいう最下層の地位についた。

 理由は地表からの避難民だからである。アンダーポリス出身の若者は、みな一等兵か、それ以上にはなっているのだった。

 入軍試験は一ヵ月後。それ以外は面接しかしていないのだから、そのひいきの差は歴然としている。

 肩に力が入るだけ無駄だと分かっていた。自分の全力を出しつくす意味はない。

 ただ、そのようなことをすれば、叩かれるだろうということは想像に難くない。

 それなりの成果は上げねばならないだろう。

 当初の給料は、戦争に投入されないだけあって、さすがに低かった。

(もらえるだけマシ)

 レクノは誰にも聞かれずに呟いた。


 母に入軍の意思を伝えたときも、反対はされたが、レクノはただ首を横にふるだけだった。

(決めたんだよ)

 このままアルバイトや派遣の職業だけを続けていても、自分はつぶれていくだけだと分かっていた。

 その職はなにより不安定であるし、高収入も見込めない。

 軍で命を張るからこそ、面白いのではないか。

 戦争を楽しめる身分には、まだ自分は到達していないのだけれど……

 レクノの命の価値観は、底辺だった。

 暗い瞳で自分を見つめる息子に、とうとう母は許しを与えた。

(毎月、生活費は入れるから――)

 それだけ言った息子に母は首を横に振って、

(そんなことよりも、毎週手紙を寄こしなさい)

 と、それだけを言った。


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