再会
新たな部隊は、301大隊。
――新型グラオス実践部。
唯一の新型実行部隊。だれも乗り手がいないとされた新型グラオスを扱っていく、実験部隊。
レクノの血が騒ぐ。
どうやら今、会戦に向けて、各部署から新鋭兵がかき集められているらしい。
もっともグラオスを使いこなせる男達の、最強にして最凶部隊。
総指揮は、かの売国奴、ゴンヴェリンということだ。
レクノはもちろんそんなことはどうでも良かった。
ただ一つ興味深いことに、あの男――ラムもこの部署に召集されているらしかった。
(確か尉官以下は新型操縦候補にはあがらないはずだが)
推薦というヤツらしかった。戦場に放り込まれて、まだ三ヶ月しか経っていないにも関わらずだ。
(一体、どんな働きをしたらそういうことになるのか)
疑問の絶えないところではあるが、レクノはひとまずラムとの再会を楽しみにしていたのだった。
召集までは時間があった。次の日でも、すぐに戦場に赴けるようにと準備だけは施している状態だ。
明日。もしくは明後日などの近いうちに戦争があるなんてことは、想像もつかなかったが。
戦いの前というのはそういうものなのだろうなと、レクノは楽観視する。
呆れるぐらい、心は凪いでいた。
こんな調子で大丈夫なわけはないが、こんな調子で大丈夫だと変な確信があった。
この変な確信のせいかもしれない。
レクノの足が召集場所に向かうころには、彼の心に慢心というものが根付いていたかもしれなかった。
召集場所には人はまだまばらだった。レクノはあたりを見回す。
そしてお目当ての男――ラムを見かけて、歩み寄った。
召集場所で一人孤立しているラムを、見過ごすわけにはいかなかった。
「久方ぶりだな」
声をかけると、うつむいた顔を上げ、驚いたように目を見開いた。
「レクノ……」
「どうしていた?」
レクノが聞くと、ラムはまた顔をうつむかせ、ぽそぽそと。
この男には珍しく、焦心しきった顔で戦場で働いていたと呟いた。
「レクノは?」
聞き返され、レクノは将官学校にいたと答えた。
「たった三ヶ月――?」
「たった三ヶ月だ」
そこで初めてラムはラムらしい感情を見せた。にやりと笑って、
「将官学校卒業おめでとう、少尉殿」
その笑い方と言い方には、棘のある皮肉が混ざっていたような気がしたが、レクノはとりあえずありがとうと笑い返した。
「少尉殿は、これからもっと多くのご活躍をなさるのかな?」
「まあな」
答えると、ラムは眉をひそめた。
ラムの様子は完全におかしかった。レクノはそれに気づかなかった。
「地獄で鍛えてきたからな」
皮肉ってそう言うと、ラムは大げさなほど高反応を示し、レクノを睨みつけた。
「地獄? あんなところが地獄だって?
ほんと、甘ちゃんになったよなあレクノ。それとも俺をからかってんのか、あ?」
ラムの顔は暗く、その顔は今までに見たことがなかった。
「からかっているわけじゃ……」
「なあレクノ、お前言ったよな。早く戦場に行きたいって……」
じっと黙って見つめていると、ラムは首を横に振って、
「お前が体験するのはそんなものじゃない。そんなものじゃないんだ」
壮絶なほどの笑みを浮かべて。
「ようこそ、本当の地獄へ。――今日からお前も地獄の鬼の仲間入りだ。」
歓迎されているのか、倦厭されているのか。
今のラムの様子では推し量ることもできかねた。
ただしレクノとしては面白くない。この男はなにかを勘違いしているようだった。
さきほどまではラムに合わせて低姿勢で接していたが、レクノはもう我慢ならなかった。
「俺が上官だ。俺が絶対であることを分かっているな?」
軍とはそういうものだ。そういうものだということを、地獄の三ヶ月で学んだ。
こいつも戦場でその地獄を見てきたはずだ。
「俺のために地獄を見ようが、お前は俺に従うのだな?」
ラムは目を細めた。細めて、背をただし、軍式の敬礼をした。その顔は憎悪さえ感じているようだった。
レクノは返礼をする。
(これでいい。これでいいんだ)
しっくりしないながらも、自分が権力が振るえるその甘美に酔った。
もう二度と、ラムと同じ目線で物事を考えることはできない。この男とはすでに立場が。立っている場所が違う。
レクノはラムに背を向けた。
自分が向かうのは、この男が陥った暗い穴などではないと、言い聞かせる。
地獄を地獄と思うか天国と思うかは各個人の自由だ。
自分のこの焦げ付くような焦燥を鎮めてくれるのは、戦場でしかないのだと。
――本能が疼いてたまらないのだった