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姫の閑話

 おだやかな朝とは言いがたい。

 宮廷内は軍事作業で休まる暇もない。

 それはナフィの居住するこの天球園もその例外ではなかった。

 軍事、軍事、軍事。

 戦争とは悪いものばかり運んでくる。

 ナフィの平穏も、戦いはすべて掻っ攫って、ズタズタにして、原型もとどめずに押し流してしまうのだ。

 忙しさの波にさらわれると、踏みとどまる力など自分にはありはしないのだ。

 ――たまにそんな無力感に襲われる。

 世界は自分一人じゃ変えられない。その無力さ、非力さ。

 もちろんそんな感傷に浸っている時間すら、ナフィにはありはしないのだが。


「姫、姫! いらっしゃいますか? ナフィ様――!」

 宮付きの召使いの声が聞こえて、ナフィは書類から目線を上げた。

 たった今まで戦場の資料を確認していたのだった。

 自分が姫と呼ばれることは少ない。普段は軍事参謀としての地位でこの国に在るからだ。

 召使いの声からして、幼いときから自分に仕えているルリだと分かった。ナフィとはそう年が変わらず、三、四歳年上なだけだった。

 ふさぎこんだナフィの生活に、いつも新鮮な風を吹き込んでくれる。

 今回の慌て方といい、騒ぎ方といい。きっと「面白い」ことだ。ナフィはそう予想をつけた。

「なんだルリ。そんなに急いで」

「は、はぃ」

 息を切らしたルリは、テーブルに手を着いて息を整えた。

 ごくんとツバを飲み込んで、ルリは改めてという感じでナフィに向き直る。

「姫、ゴンヴェリン様がまた楽しいことをしてくださいましたよ」

 自慢げな、まるで特ダネを見つけた新聞記者のような得意満面の顔だった。

「新兵の一人を戦場ではなく将官学校へと編入させるようにと、王にお願いなさったそうです」

「ふうん」

 そう。関心のあることにもそっけない返事を返してしまう。

 話題に食いついていけば、揚げ足を取られる。

 誰に? それはもちろんルリには当てはまらないのだが。

 ルリ以外の全員に当てはまるのだ。その警戒をルリの前だからといって解くことは難しい。

 しかし自分がそんな態度をとる理由をルリはちゃんと分かっていて、返答があったことに満足してにこりと笑った。

「どうやら、その新兵は才能もさることながら、顔も美しいらしいんですよ!」

 ――ルリの話によると、その新兵は試験で多大なる結果を残したということらしい。

 出身は地表民らしいが、背に腹は変えられないと、王はゴンヴェリンの嘆願を受諾した。

 三ヵ月後に空挺軍との激突を予定していて、それに合わせての編入だそうだ。

「どこの部隊に配置されるんだ?」

「まだ、決まっているわけではないとは思いますけれど、たぶんゴンヴェリン様が統括する部隊に配属されるかと……」

「それは……」

 唯一、新型グラオスを戦闘部隊に組み込んだ、実験部隊。

 今、もっとも地底人における期待を集める、最強部隊。

 なるほど、やはりその新兵は顔がメインなのではない。

 才能なのだろう。

 でなければ、わざわざ官位を与えてまで戦争に駆りだすはずがない。

 それは、そこはかとなくナフィの心を揺り動かした。

 ――久しいな、感情の起伏など。

 表情を動かすのも、もちろん久しぶりだ。

 ナフィは口の端を少し上げた。

「それは面白いな」

 正直に言ったら、まだそれほど面白い段階ではないのだが。

 ――面白くなりそうなことは確かかもしれない。

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