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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

泉谷さんちのハムスター

作者: まちか

残酷な描写ありは念の為です。

職場で知り合った泉谷さんという女性は、ハムスターを飼っている。

私もハムスターを飼っているので、ペット仲間として親しい間柄だ。

しかし、もともとハムスター党だった私と違い泉谷さんは猫が好きだと言う。


「珍しいですね」

「そう?生き物はみんな好きだよ」

「でも今はハム一筋なんですね」

「うん、今のところ3匹はいるかな」

「あはは、好きですね。泉谷さんとこのハムちゃん、飼って何年ですか?」

「一番長い子はもう5年目」

泉谷さんはにっこり笑った。

「ええ!?」


ハムスターの寿命は1年から2年。長くても3年だ。

5年というのは破格の長寿命である。

「すごいなあ、飼い方が上手なんですね」

「そんなことないよ。普通」

「大切に飼ってるって事じゃないですか!コツってありますか」

「ないない」

「これだけ長寿って世界記録ものでしょう」

「大したことないってば」

「そんな謙遜しないで!泉谷さんの家に、ハムちゃん見に行きたいなあ」

「うーん……今の時期かあ……」

「お願いしますよう、何だったら手土産も奮発しますから!」

「じゃあ、再来週の日曜日なら」

「やった!いいんですか」

「その日だったら旦那もいないし」

私は二つ返事で彼女の家に押しかけることになった。



「いらっしゃい、迷わず来れた?」

「大丈夫ですよ!あ、これ手土産です。……ハムちゃんにも」

私は泉谷さんに、ケーキと小動物用のドライフルーツやチーズが入った袋を渡した。

「わあ!ありがとう!ブチたちも喜ぶよ」

「一番長い子、ブチちゃんていうんですか。どれどれ早速……」


リビングの壁際にペット用ケージが並んでいた。ブチというネームプレートのケージにいたのは、白いロボロフスキーだった。

「ぶ、ブチちゃん?」

「最初に飼った子の名前を付けているの。この子は三代目ブチ」

「そうなんですか!初代ブチちゃんってどんな子ですか」

「この子」

泉谷さんは寂しそうにケージ横に立て掛けていた写真を見た。

写真の中にいたのは、満面の笑みで笑う若い泉谷さんと、白黒の猫だった。


「これが初代ブチちゃん……猫なんですね」

「うん、可愛い子だったよ。こたつに入るときなんかね」

泉谷さんはしばらく猫トークに花を咲かせた。

猫も好きなんだなあ、と思いながら飾られた写真を横目に見る。

そして、写真の隅にもう一匹、毛並みの違う色の猫耳が写っていることに気がついた。


「他にも猫ちゃん飼ってたんですね」

「あ、この子ね。名前はハナコ。実家には猫があと2匹いるよ」

「そんなに猫好きだったのに、なんでまたハムスターに宗旨替えしたんですか?」

泉谷さんは笑った。

「猫が好きだから」

私は首を傾げた。

「このお家、猫禁止とか?」

「そうじゃないの、私猫飼うの下手でね」

「まさか、だってハムはこんなに……」

「本当にそうなの」


泉谷さんは、飼っていた猫の事を話してくれた。

初代ブチちゃんは、元野良猫だった。

泉谷さんが大学生の時に拾った猫だという。

「ところがその子、良くない病気持ってたみたいで」

気付いたときには手遅れで、5年目の秋に呆気なく逝ってしまった。

「その時はハナコがそばにいてくれたから、何とか立ち直れたんだけど」

ハナコもまた、5歳の秋に死んだ。

原因不明の突然死だった。

「しばらくは立ち直れなかったなあ。それでね、旦那と出会って二代目ブチを飼うことになったんだけど」

ハムスター党だった旦那さんの影響で飼い始めた二代目ブチは、猫達と違い長生きをしたのだ、と泉谷さんは言う。

「二代目ブチちゃん……何年生きたんですか」

泉谷さんは笑う。

「5年かな」


ケージからギギィというハムスターの悲鳴が聞こえた。

三代目ブチのケージだった。

慌てて覗くと、白いロボロフスキーは血泡を吹いてのたうち回っていた。

「泉谷さん!ブチちゃんが!!」

「そう」

泉谷さんは悲しそうに、「ブチ」というネームプレートを隣のケージに移した。

「仕方がないのよ」

泉谷さんは優しく自分のお腹を撫でる。

「小さい子から順番なの」


棺はまるで分かっていたように準備されていた。

動かなくなったロボロフスキーを、小さな綿入り桐箱に入棺する泉谷さん。

私は息を呑んで、目の前の光景を見つめた。


外では木枯らしが吹いている。

朽ちかけの枯れ葉が一枚、窓硝子に張り付いていた。


「君のような、勘のいいガキは嫌いだよ」って途中入れたくなりました。

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