第8話 覚醒を待つ者
リリイを助けたリリンの真意とは…?
リキエルと言う天使に背中を一突きされそうになっていた所をリリンに転移魔術で助けてもらった。
「リリイ、あんなに真剣に抱き締められたら逃げら
れないんじゃない?」
逃げて欲しいんでしょ?と笑顔で続ける。
「笑うなや!!!」
よく考えたらめっちゃ矛盾した行動をとってた…逃げて!とか言いながら抱きつくって…
「リリン・サタン…!」
リキエルはリリンを敵意を持って睨み付ける。
「リリイの頑張りに免じてあなた達は見逃してあげ
るわ。さったさと逃げなさい」
それだけ言うとリリンは俺を抱っこしたまま背を向けて歩き出し、バフォメットさんは持っていた天使二人を捨てて後に続く。
「ま、待て…!」
リリンは天使の問いかけなど意に介さない。
後には、傷だらけの三人の天使が残された。
取り敢えず、天使も俺も無事で良かった…
ー帰り道ー
天使との戦闘を終え、俺とリリンとバフォメットさんは館までの道を歩いていた。メフィストさんは夕飯の支度をしに先に帰った。気付けば陽が傾き始めている。
「聞いてもいい?何であの天使を助けようとした
の?」
唐突にリリンが切り出す。これは…怒られる流れか…?
「俺はついこの間まで普通の高校生だったんだ。
敵とか言われてもね…」
俺は言い訳をするように目を反らす。
そんな俺の反応をリリンは面白がっている。
「怒ってる訳じゃないのよ。むしろ喜んでる。
あなたに私の夢を託せるってね」
「リリンの夢?」
リリンは頷いて続ける。
「私ね…魔族は多くの争いの火種を抱えていると
思っているの」
「相手は天使だけじゃない、妖精族、魔族内部
でさえいつ争いが起きるかわからないのよ」
知らなかった…魔族にそんな事情があったなんて…
「私はそれを無くせる様な魔王に、最高の魔王
と呼ばれる様になりたかった…」
「でも私に魔王の魂は宿らなかった。だから私の
代わりにあなたを魔王にして、私の目的を果た
そうと…」
リリンは俺に魔王になって、魔族を平和に導いて欲しいのか…
「バフォメットとメフィストは試してたのよね?
リリイが私の夢を託せる人物なのかどうか」
「勝手な行いをお許し下さい。お嬢様様、リリイ
様」
バフォメットさんが頭を下げる。
やっぱり俺は試されてたのね…
「俺が天使相手にどうするか見ていた…と?」
「ええ。もしリリイ様が天使にトドメを指そうとし
ましたら、それとなく阻止するつもりでしたが、
その必要はなかった様ですな」
「フフッ、天使を逃がそうとタックルする悪魔
なんてあなた位のものよ」
バフォメットさんとリリンは微笑んでいる。
あれ?馬鹿にされてる?
リリンの表情が真剣なものへと変わる。
「リリイ…私の夢を、あなたに託してもいいかし
ら?」
リリンの話の途中で既に返答は決まっている。精一杯胸を張って言う。
「リリン、俺も平和が良いと思う。痛いの嫌だ
し!だから俺は魔王になる!リリンの言う
最高の魔王ってやつに!」
少し間を置いて「…ありがとう」と言ったリリンの頬がほんのり赤く染まっているのを見逃さなかった。
…!その表情に思わずドキッとしてしまう。
夕焼けではない…と思う。
ー天界 第4天ー
天使の拠点である天界。その第四階層、第4天は中、上位天使が体を休める場所である。
「楽園」という別名を持つそこは、美しい草原と湖がある。
湖では天使達が水浴びをしている。
その中でも多くの天使達に囲まれている天使がいる。
燃えるような赤い瞳、赤と白が入り交じった髪、端正な顔立ち、背に八枚の翼を持つ美しい青年の天使だ。
彼のもとにボロボロの三人の天使が姿を現す。
「ミカエル様、只今戻りました」
「早かったなリキエル、レネル、コロネル」
ミカエルと呼ばれた青年は顔に微笑みをたたえる。
「早速報告を聞こうか」
「はい」
「我等、第8魔界諜報部隊は魔界辺境の調査をしてい
ました。ですが…リリン・サタンの眷族に感知され、
交戦状態となったので、撤退して参りました」
「へぇ…あの眷属相手によく帰って来れたね」
「…見逃されました」
「見逃す?リリヴィムの娘ならやりかねないが…」
「件の魔王候補になった転生悪魔、奴が私達を
逃がそうと…」
「…」
「更に、その転生悪魔は『片翼の悪魔』でした」
片翼の悪魔と聞いて周りの天使がざわつき始めるが、ミカエルはそれを手で制した。
「…ともあれ無事で良かったよ。リキエルは非戦闘
員なのに無理をさせたな。ゆっくり休むといい」
「…ありがとうございます。失礼致します」
三人の天使達はミカエルの前から去っていった。
「片翼の悪魔…英雄の再来となるか」
そう呟いたミカエルの顔には不敵な笑みが浮かんでいた。
ー決戦前夜ー
特訓の七日目が終わった。ドラク・バアルとのグレート・ゲームは明日だ。
明日のために特訓してきた。アウローラ、この魔剣があれば勝算が無いことは無い。
もう寝るか…緊張で寝れるかわからないが…
俺が布団を捲るとそこにはリリンがいた。
「おっす」
「…何してんだよ」
「何って?特訓頑張ったし、ご・褒・美♥️」
「帰れ」
「ええ〜ひどい。ネベルとかサナティエルとかは
一緒に寝てあげたら喜ぶのにぃ…」
嬉しいけど…!ってかあの変態と寝たのかよ!?
「と言う訳で、おやすみ」
リリンに退く気は無い様だ。
こうして俺はリリンと一つのベッドで寝ることに…
寝れるわけがない…!つい最近まで女の子とまともに話してなかった俺が!女の子と同じベッドで寝れるわけないだろぉぉぉ!
と思っていた。
数分後、俺は特訓の疲れで眠りに落ちた。
この夜は変な夢を見た。
黒い空間に俺は立っていた。
目の前に角、牙が発達した赤い巨人がいて、俺を見つめいてる。
何かを話した訳ではないが、その巨人は俺の覚醒を待っているかのようだった。
妙にリアルな夢だった。あれは一体…?
朝になると、俺の布団は全てリリンに奪われていた。
本当に何しに来たんだよ…
次回からグレート・ゲーム編です。
次回もよろしくお願いします。