第7話 懐へ飛び込め!
たった3日特訓しただけの元人間、リリイはどう天使に立ち向かうのか…?
俺達が特訓していたの原っぱの近くには森がある。
今、俺はバフォメットさんに抱えられ、森の中を逃げる天使を追っている。
バフォメットさんは恐ろしい速度で空を駆ける。気付いた時には三人の天使の前へと回り込んでいた。
「天使が魔界に何の用ですかな?」
バフォメットさんの声には穏やかさがある。
それにしてもこれが天使か…大体イメージ通りだ。四枚の白い翼が美しい。ついでに顔も良い。
四枚羽…ということは中位天使だ。天使の九階級で真ん中の三階級にあたる。
「山羊頭…!バフォメットだ!リキエル、俺達で時
間を稼ぐ。お前だけでも逃げろ!」
男の天使がそう言う。
「わかった…!」
それにリキエル、と呼ばれた女の天使が答える。
こっちの問いかけは無視して殺る気満々の様子だが…
「バフォメットさん…あの…」
「問答無用、ですか」
一瞬の静寂。
天使二人が攻撃態勢を取った瞬間、バフォメットさんは目にも止まらない速さで天使二人を連れていく。
「リリイ様、一人お任せします!」
「えっ!?」
隣の仲間二人が消えてリキエルと呼ばれた天使は呆然としている。
俺は翼を広げ、戦う姿勢だけは見せようとしたら、
「貴様ッ…!片翼の悪魔だと…!」
何かめっちゃ驚かれた。
リキエルは光の剣を抜き放ち、突っ込んで来る。
待てい!逃げるんじゃなかったのかい!
「速い…!ヤバい!」
アウローラを抜こうと思ったが間に合わない!
ぼ、防御魔術を…
俺が慌ててる間にリキエルは間近まで迫り、剣を振りかぶる。
だが、飛んできた銃弾がリキエルの翼と腕を同時に貫く。
「くっ…!」
リキエルはその場から飛び退き、木陰へと後退する。
助かった…!
『リリイ、私が狙撃でサポートします』
通信魔術だ。メフィストさんの声が聞こえてくる。
隙を見て俺がアウローラを抜くと、
すかさずリキエルは光の球を飛ばしてくる。
いける!俺は飛んできた球を斬る。
さっきまでの特訓のお陰で飛んでくる攻撃への恐怖心は軽減されている!
ここに来てバフォメットさんとの特訓はヤバかったんだなぁ…としみじみ実感した。
すぐそこでは天使二人を格闘で圧倒しているバフォメットさんの姿がある。
中位天使二人を素手で追い詰めるって…
どうやらこちらが優勢らしい。
「ちょっと話を聞こうとしただけなんです!戦うの
止めませんか?」
取り敢えず会話を試みる。
「黙れ悪魔!貴様らの虚言に耳は貸さん!我等の同
胞が何人そうやって騙されてきたか…貴様には分
かるまい!」
確かに!分からねぇ!
「光魔術 白矢雨!」
リキエルがそう言うと手元の術式から大量の光の矢が飛んでくる。
「防御魔術 障壁!」
俺はアウローラを体の前に構え、防御魔術を展開し光の矢を防ぐ。
「初級魔術か!そんなもので防げるもの…か…」
俺の作った半透明な壁は初級魔術とは思えない堅牢さを見せる。
驚いたか!魔剣アウローラ、この剣は魔術を斬れるだけじゃない!柄から入って来た魔力を増幅してくれる!魔力の少ない俺にぴったりだぜ!
よし!これがあれば俺でも戦える!
そう思った瞬間、リキエルが高速で術式を展開し始める。
「光よ!我等を導く光よ!敵を穿つ槍となれ!」
詠唱…!上級魔術、もしくはそれ以上の攻撃が来る!
「光魔術 光槍白穿!」
光の槍が高速で迫ってくる。
その槍は俺の作った壁をいとも容易く突き破り、
ザシュッ!
かわそうとした俺の左腕の一部をもっていく。
い、いてぇ…!光魔術は悪魔の弱点だ…かすっただけでこの威力…!
リキエルは次の一撃を放とうとしたが、
ドシュッ!ドシュッ!
銃弾が体の各所を貫き、それを阻止する。
『リリイ、急所を外してしまいました。トドメをお願いします』
トドメ…だと…?
既に戦闘を終え、天使二人の首根っこを掴んでいるバフォメットさんがこちらを試すように見ている事に気付いた。
二人の狙いが…何となくわかった…
俺を試している…?俺が悪魔として、魔王候補の一人として、悪魔の敵である天使を殺せるのかどうかを…?
目の前の天使、リキエルは急所だけを上手く外され、機動力を失いかけている。
「片翼の悪魔!貴様だけは!」
リキエルは血だらけになりながら向かって来る。
刺し違える気か!
だが、動きは最初に比べて大分遅い。
…やるしかねぇ!心を決めろ!俺!
アウローラを構え、サナティエルに習った通りに術式を宙に描く。
「攻撃魔術 魔弾!」
魔力の塊を打ち出すだけの初級魔術だ。だが、アウローラの魔力増幅効果によってサイズはバランスボール程になる。
だが、魔弾は大した速度も出ずに、リキエルに軽々とかわされた。
リキエルは勝ち誇った様に笑う。
その瞬間、魔弾がはじけ爆風を起こす。
「なっ…!」
予想外の事態にリキエルは動きを止めた。
「ここだ!」
俺は剣を捨て、一気に距離を詰めてリキエルのお腹へとタックルする!
そしてそのまま地面へと押し倒す!
「逃げて下さい!あなたを殺したくない!」
「…ッ!何をッ!
悪魔に背を向けるものか!貴様ら悪魔が…」
「悪魔とか天使とか知りません!だから言ってるん
です!」
「こ、この…!離せ!」
リキエルは俺を引き剥がそうとするが、
離さない!このまま戦っていたらこの天使は殺される!俺じゃなくても、ここにいる誰かに!
俺の必死の説得も虚しく、リキエルは光の剣を俺の背中へ突き立てようとする。
俺は痛みを覚悟した。
だが、いつまでたっても痛みはない。
それどころか、いつの間にか誰かにお姫様抱っこされている。
「転移魔術って便利〜」
リリンだ。めっちゃ笑顔のリリンが俺を抱っこしていた。
次回はちょっと変わったこともやります。
初の戦闘回でしたが、やりたいことが多過ぎて文量が…