第5話 チャンスを掴む努力
リリイ特訓回です。お暇な時にどうぞ
ーリリイ領ー
ここはこれから俺が領主となって仕切っていく地だ。魔王軍支配領域でも端に位置するこの土地で俺は日が昇る前から…
走っていた。
「ホラホラ〜走れ走れ〜捕まったら俺のエクスカリ
バーをぶちこまれるぞ〜」
「やめろぉぉ!近づくなぁぁぁ!」
やたらとテンションの高い変態に追われている。
1週間後に控えるドラク・バアルとの領地拡大戦に備えて俺は特訓をしている。
リリン眷属のみんなが俺を特訓してくれることになった。
今俺を追いかけている変態は『ヴリコ・ネベル』
元吸血鬼の転生悪魔で黒髪の爽やかイケメン。だが、男女関係なく変態発言を繰り返すヤベー奴だ。
ネベルと俺は基礎体力向上を目的として、日が昇るまで鬼ごっこをしている。
ネベルは余裕そうに、嬉々とした表情で迫ってくる。結果的に5分程度で捕まるが小休憩を挟んですぐに再開する。
悪魔になって体力は向上しているらしいが、運動不足の俺にはきつい。
「魔術は術式の展開、詠唱、呼名、そして術式に
魔力を流し込むことで発動します」
魔術を教えてくれるのは『サナティエル』
元天使の転生悪魔で眷属内で最年少。緑がかった髪の毛で眠そうな目付き、そして感情の起伏が少ない女の子だ。
美少女に授業をしてもらえるのでとても楽しい!
「こ、殺されるぅぅぅ!」
「限界を超えるのです!その先に覚醒は待っていま
すぞ!」
魔王の魂の能力覚醒訓練の担当は
『バフォメット』さんだ。
バフォメットさんは歴代魔王全てに仕えてきた経験がある凄い悪魔らしく、今はリリンの執事をやりつつ、眷属の一員として俺を手伝ってくれてる。
俺の内に眠る「サタナの秘術」を使えるようにするために俺は今バフォメットさんが作った大量の魔術攻撃をかわしている。どう見ても殺しに来てる。
命の危機に瀕した時、その能力が発現し俺を守ってくれるらしいが…
今のところバフォメットさんの手加減が無ければ8回は死んでる。
「魔王軍というのは『邪悪の樹』と呼ばれる9家当主
と1人の最上級悪魔達が幹部として仕切っていま
す」
「邪悪の樹の内訳は、サタン、ベルゼブブ、
ルキフグス、アスタロト、アスモデウス、
ベルフェゴール、バアル、レヴィヤタン、
マモンの9家当主と『リリス』という悪魔で構成さ
れ…」
一般教養を教えてくれるのは
『メフィスト・アルマ』さん。
黒髪でつり目、角も生えている。厳しそうという印象だが、ミニスカートでフリフリのメイド服を着ていてアンバランスさがとても良い!
この時間は、魔界に関する知識を叩き込まれる。今までの特訓の疲れで眠い…
ついでに、メフィストさんの腰のホルダーには鞭が入っている。
それに気づいて俺の眠気は吹っ飛んだ。
『なんか…痩せた?」
「そりゃな…」
総合戦闘訓練と称し、1日の終わりにリリンと直接対決する。
一日目にして俺は既に心身共にボロボロだった。走って、勉強して、死にかけて、勉強して…
「聞かせてくれ…リリン。俺はドラクに勝てるか
な…?」
率直な意見を聞きたかった。
メフィストさんの授業を聞いてわかった。俺以外の候補者は皆、邪悪の樹の家の次期当主達だ。
将来の魔王軍幹部を背負っている者達だ。才能に溢れ、将来を有望視されている。
対する俺は今日特訓を始めたばかりの悪魔モドキだ。1週間で追い付けるはずがない。
「勝てるかどうかはあなたがチャンスを掴めるかど
うかよ」
「チャンスがやって来るかどうかは誰にもわからな
い。だけど、やって来たチャンスを逃さない為に
努力するのよ」
そうか…チャンスか…
「それを助けるのが私達であり、これよ」
そう言ってリリンは俺に黒い剣を渡してくる。刀身はナイフと言うには長く、剣と言うには少し短い感じだ。
「魔剣アウローラ、この剣があなたを助けてくれる
わ」
重すぎず、軽すぎない。なんだかとても手に馴染む。
「さあ!始めるわよ!」
「お、おう!」
リリンは身の丈程もある大剣を軽々扱い、斬りかかってくる。
すんでんの所で大剣を避け、リリンに向き直るが彼女は何処にもいない。
「後ろよ!」
「なっ…!」
バゴォッ!
音もなく俺の後ろに回り込んだリリンの大剣の横薙ぎを受けて吹っ飛ぶ。
「い、今のは…」
「魔術というのは才能があるものが使えばもろもろの
ステップをスキップ出来るのよ」
てことは今のは転移魔術か…魔力の動きを視なければ反応が全く出来ない…
術式の展開、詠唱、呼名までスキップするとは…
「ほら立って。まだまだ夜は長いわ」
「ぐっ…身体中が痛ぇ…」
「回復魔術を使ってあげるから大丈夫!さあ!2戦目
いくわよ!」
「あ、悪魔め…!」
その後3時間程ボコされ、回復されを繰り返し、特訓の1日目が終了した。
今までにない長さに…なってしまった…