プロローグ
「メアリー、あなたとの婚約は破棄させてもらう。」
場の空気が凍りつき、皆の視線は、この言葉を言い放ったニコラウス皇太子とたった今"元"がついた元婚約者メアリー公爵令嬢の一点に集中する。そうこれは乙女ゲーで言う悪役令嬢断罪イベントの真っ只中での場面だ。まぁ、ヒロインであるカレン男爵令嬢をイジメていたことを理由に婚約者がいながら男爵令嬢を好きになった皇太子にとって格好のイベントだったわけだ。実際には親の決めた結婚であり、お互いに好きでもない相手だったこともありメアリーも婚約を解消できる良い機会だと思い特に反論もしなかった。
「謹んで婚約破棄をお受けいたします。」
もちろん、カレン男爵令嬢をいじめもしなければ、存在すら知らなかったのが事実だ。メアリーからすれば皇太子にすら興味がなかったのに興味のない人の心の向きなどありのクソほども興味ないのだ。メアリーは内心で理解する。これはカレン男爵令嬢と結ばれるために自身の存在だけを利用されたのだと。しかしながら怒りもわかなければ好きでもない男と結婚して政治の道具とされないことに安堵している自分さえいた。
予想外だったのはここからだ。皇太子は続けた。
「メアリー君がおかした罪について申し開きはあるか?」
少し考える。『罪?なんのこと?いじめていたという事?その話は私が反論しなかったから終わったんじゃないの?』
「罪とはなんのことですか?私がカレン男爵令嬢をいじめていた罪ですか?」
「違う。君がカレン暗殺を狙って資格を送ったことだ。」
もはや理解が追いつかない。存在すら認識してなかった人物に刺客を送るわけがない。しかし、皇太子は続ける。
「すでに調べはついている、刺客の身柄も証人もいる。」
「刺客?私に雇われたとそう刺客のものが申したのですか?それは私を陥れようとしたものの手のものではないのですか?」
実際そうなのであるから調べればわかる。それを調べることさえ許されれば公爵家の力を持って無実を証明できる。そこで提案する。
「私自ら無実であることを証明します。どうかお時間をいただけませんでしょうか?」
ニコラウス皇太子は一瞬勝ち誇った顔をしながらもすぐに落ち着いた顔に戻り言った。
「それはできない。証人がいるからな。」
メアリーは理解した。いったい誰が証人なのか、どうして認められないのか、ここに来てメアリーに様々な感情が押し寄せる。胸を掴み『痛い、胸が痛い』。
皇太子が続ける。
「どうしてできないか、それは証人がお前の父だからだ。」
メアリーにはもはや何も聞こえていない。父が証人だとわかってしまったからだ。父、サラスティン公爵は昔は優しく、自分を溺愛してくれていた。しかし、母マルスが病で倒れてから父はだんだんと変わっていった。父は母マルスに愛されるためだけに自信を愛してるふりをしているだけだったのだ。そして、後妻となるミラン様と出会って父は私を政治の道具としてしかみなくなってしまった。それでも平和に暮らしていた。事の顛末はこうだ。後妻ミランとの子ミリアのために邪魔となるであろう私を追放することについて新たな婚約者を手に入れるために私が邪魔になった皇太子が結託したのだ。『あぁ〜なんでかなぁ。こんなにも胸が痛い。私を必要としてくれる人はどこにもいないのだろうか。もう、疲れた。』
後ろにいた兵によって上から地面に押さえつけられる。
「牢に連れて行け。怖かったろうカレン、もう大丈夫だ君の命を狙うものはもういない。」
兵に押され部屋を出る時、父と皇太子の口がニヤリと歪むのが見え、また胸が痛み苦しい。痛みはだんだんと怒りに変わり、そして怒りは自身の選択次第で回避できたのではないかという後悔に変わり、最終的に何もできない無力感に変わった。いつのまにか城の地下、薄暗い牢屋に近づいていた。いつのまにか私の周りには私を縛った縄を持つ兵1人になっていた。私がいれられるであろう牢の前に着く。その扉は窓すらなくついているのはとってのようなものだけで不思議な形をしていた。中は横になるのも困難なくらい狭く、固定された椅子が一つ置かれているだけだった。その狭さにあまりにも惨めだと思う。するとここまで連れてきた兵は縄を解いてこういった。
「この世界であなたは誰からも必要とされていない。とても惨めで見ていて辛かった。」
「そうね、私は惨めね。誰からも必要とされないってこんなにも辛いのね。もしかしたら母も私のことを必要としてなかったのかもしれない。」
「そんなことはないよ。僕は君の母に君のことを必要としてくれる人、君が必要とする人を見つけて欲しいとお願いされたからね。」
「母が?あなたは何者なの?」
「僕は僕だよ。さぁ、時間だ、これからの君に幸多からんことを。」
「待って、ねぇ」
バタンッ。扉は閉められ外を伺い知ることはできない。いったい今の兵は何者だったのか、そんな疑問も今のメアリーにとってはどうだって良い。次扉が開かれるときは自分は断頭台に向かう時なのかもしれない。私を必要としてくれる人はいないのだからと考え、横になることもできない狭い部屋で椅子に座り膝を抱えて考えることをやめた。
運命の歯車は回り始める。
ここから始まるのはそう!
日常劇!誰も傷つかない、幸せな物語。
何も考えず、楽しくみていただけると嬉しいです。