異世界生活初日
海外旅行に行ったときで一番苦労することって個人的に貨幣だと思うですよ。特にアメリカはクオーターが本当に厄介。
「ふむ、つまりキミは先程まで異世界にいてそれに女の子になってイタト」
「まぁ、そういうことになりますね」
「それは源野君、不思議な話だね」
「そうですよね加藤先生」
「というよりもお前の頭がおかしくなったんじゃないのかと疑いたくなるな」
「・・・なんでお前はここにいるんだ?」ここは大学内にあるカークさんの部屋だ。俺が来たときには加藤先生はまだしも何故か仁哉も既にその部屋にいた。
「別にいいじゃねーか。それに俺は昨日カークさんに呼び出されたからだよ。むしろなんでここにいるんだ、は僕のセリフだぜ」仁哉はニヤニヤ笑っている。
「兎に角仁哉を含めて何か前例とか心当たりはありませんか?」
「うーん悪いけれど。僕はそういう話は心当たり無いかな」
「ケド、色々タメしてみたらどうカナ?」
「色々と?」
「ソウ、例えばその異世界に居たときの服装トカはどうだったんダイ?」
思い起こせば身体の見た目は変わってはいたものの身につけていた服はパジャマのままだった。そしてパジャマに付いた草や土もそのままこっちの世界に来ていた。
「なら色々と実験してみたらどうかな?どの範囲のものが持っていけるのかとか」
「ええ。まぁ今夜やってみましょうか。本当にただの夢じゃなかったら・・・あーでも何持って行けばいいでしょうか」
「あ、ならこの石とかどうだ?魔力が宿ってるとかなんとかのパワーストーンらしいぜ」すると仁哉は見たとからなんの変哲も無いような足を取り出した。
「これが?」
「そう。これが」触ってみても、河原落ちてそうな薄い灰色のすべすべとした楕円形の石だった。
「ジンヤくんはこの石を鑑定する為にワタシの部屋に来てんだヨ」
「で、どうだったんですか?」
「ウーン。よくわからなかったっていうのが答えダネ」えぇ・・・ますますインチキ臭いなぁ。
「おい。今失礼な事考えてただろ」仁哉に小突かれた。・・・昨晩といい俺の感情ってそんなにバレやすいのか?
「急に来ておいて悪いんですがバイトが入ってるんですみません」と言って仁哉から石を受け取り、部屋を出た。
バイトも終わり、家に帰ってきた。時計の短針は9を少し超えた辺りを指していた。・・・本当に眠ると異世界に飛んでしまうのだろうか。昨日の夜の事がまだにわかに信じられない。しかし本当だったすれば、一体それをどうすればいいのか。そもそも何故この様なことになってしまったのか。などと、頭の中で考えが洗濯機の中の様にぐるぐると回っていた。
・・・朝だ。この部屋は俺が寝た部屋ではなかった。しかし見知らぬ何処かでもない。そう、あの世界で俺が寝た部屋だ。おもむろにパジャマのポケットを漁る・・・あった。昨日仁哉にもらったパワーストーン?だ。ということはやはり、これは現実ということか。するとドアが叩かれ、ドンドンという音が部屋に響いた。
「ユキ起きてる?」アルカの声が聞こえる。
「ああ、今起きたよ」
「よかった〜。昨日朝ごはんの時間伝えるの忘れてて、起きてるかどうか心配だったのよ」
「昨日?一昨日じゃなくて?」
「?何いってるの?ユキが起きたのは昨日のことよ?」考えれば考える程分からない。まあ異世界にいること自体が訳が分からないことではあるが。
「まだ疲れてるのかはわからないけど、取り敢えず朝ごはん食べに行こう」
「夕ご飯だけでなく、朝までなんか悪い様な・・・」
「だから気にしなくていいって、短い間かもしれないけどお互い様ってことで」
せっかくの厚意だし、存分に甘えることにしよう。
朝食が終わるとアルカは弓使い風なロングパンツとポンチョの様な服に身を包んで、弓と矢の準備をしていた。
「私はこれから防衛隊の仕事があるけど、ユキはどうするの?」どうすると言われても何もすることはない。というよりも、何処に何があるかもイマイチよくわからないからどうしようとない。・・・何処に何があるか、か・・・
「・・・探検って言ったらアレだけど、外を散歩とかでもしようかな」
「散歩ねぇ・・・ まあ話を聞くよりも自分で見てみる方が絶対にいいしね」そう言って俺に何かを握らせた。何を渡されたのか見てみると、コインと紙切れが数枚あった。これは初めてそれを見る俺でも貨幣であることがわかった。
「えっ!?これってお金じゃないのか?」
「そうよ。無いと困るでしょ」
「いやいや、流石にそれは悪い様な」
「まあいいから、いいから」と貨幣を押し付けて行ってしまった。
「うーんアルカは少しお節介過ぎるなぁ」
後ろからタークさんがやってきた。
「たしかに。ほぼほぼ初対面なのにこんなに優しくしてもらって逆になんか悪い様な気がして」
「ハハハ、まあ本人はそういう事は気にしてないだろうし、このお金もジャンジャン使っても構わないと思うよ」
「いや、使いにくいですよというか使えません」
「使えないとはどうしてだい?」
「人からもらったお金というのもありますけど、一番はこの貨幣の価値がわかりません」そう、これは円では無い。その為いざ使うとなっても何を出せば良いかわからないのだ。
「ああ、成る程・・・」それからタークさんとの貨幣講座が始まった。
「つまりこの銅色のコインが1カイン、銀色が10、金色が50ですね」
「そう、そしてこの穴あきの銅色のコインが5カイン、銀色が25、金色が75だ」
「やっぱりややこしい・・・というか細か過ぎません?」
「いや普段から使ってると違和感無いけどなあ。それに紙幣は100カイン、1000カイン、5000カイン、10000カインだからわかりやすいよ」
「頑張ってみます。ありがとうございました」この説明でいくと俺が渡されたお金は3000分の紙幣に穴なしの銀色が5枚金色が2枚、穴ありの金色が5枚だから全部で3650カインか。お金をタークさんから貰った財布に入れて外に出た。
数分歩いてたどり着いた場所は商貨街だ。ぶらぶらと歩いていると、いい匂いが漂ってきた。匂いの方を辿ると、パンを揚げたラスクの様なものを作っているお店だった。(せっかくだし、買い物の練習がてらかってみるか)ラスクの袋を手に取る。
「1袋60カインだよ」店主のおばちゃんが言う。
(60カイン・・・穴なし金が50カインで、あれ75だっけ?いや穴あり銀が25カインだから、穴なしが・・・あれ?)
「・・・」
「はい、100カインねお釣りの40カインよ」
お釣りとラスクの袋を受け取る。
なんだろうこの敗北感。なんだろうこの微かな屈辱感は。心のモヤモヤを抱きながらサクサクのラスクを食べながら商貨街を歩いて行った。
初めて行った海外旅行では色々テンパった挙句に結局ドルを出して、結局1度もセントを使う事が無かったのはある意味いい思い出。