現実で目覚める
3月ですね。このまま暖かくなってほしい。
すっかり夕方になってしまった。久しぶりに歩いて足が棒のようになっている。
「あ、そうだ。ついでにご飯とか食べてかない?せっかくだし」
「いいのか?なんか全部任せっきりで悪いような」
「任せるもなにも、来たばかりでどうすればわからないでしょ。むしろ人助けは大歓迎よ」
たしかに、俺一人では何をしたらいいかわからない。この街のどこに何があるのかもまだイマイチだし、何しろこの俺の身体自体がどうなっているのかわからない。有り難く任せられよう。
「ただいまー。お母さん、お父さんいるー?」
アルカが病院の隣にある家に入って叫んだ。
「アルカそんな声出してどうしたんだ?」その家から白衣を着た中年の男性が出てきた。
「あ、お父さん。いやほら警備の時に助けた人がいたでしょ・・・
アルカが父と呼ぶ男性に経緯を説明している。よく見れば目元がそっくりだ。一通りの説明が終わったのか男性が近づいてきた。
「君がそのユキ君だね。僕はターク、アルカの父だ。色々大変だっただろう、一旦家の中に行こうか」アルカとタークさんと共に家の中に入った。
「まぁ、これでもどうぞ」タークさんは紅茶らしきものを出してくれた。
「あ、ありがとうございます」どうやらかなり高そうなもので飲むたびに香ばしい香りが鼻を抜ける。
「そういえばお父さん。お母さんはどこに行ったの?」
「ああ、夕食を作ってて今手が離せないからって」
「わかった。ユキの分も作ってって伝えてくる」そう言ってアルカは部屋を出て行った。
「さて、ユキ君。本当にここに来る前は男性だったんだね」
「え、あ、はい」
「言うのを忘れてたけど、僕は一応医者をやっててね。外科だから専門とは違うけど質問していいかな」
つまりあの病院で働いていると言うわけか。
「アルカから数日前から変な夢を見ていたと聞いているけど、いつからか正確に覚えてるかい?」
「えーと、一昨日の夜からです」
「やはりか・・・」
「え、どう言うことですか?」
「君が気絶している時に魔法で脳を探ってみたんだけど、ちょうどその期間の脳波が異常なんだよ」
「魔法で頭の中を覗けるんですか?」
「まぁ、医療魔法の応用だね。けどどこそこで何をしてたとか、何を考えてたとかは詳しくはわからないよ。せいぜい脳波が正常かどうかがわかるぐらいだねね」
「一昨日何か原因となる出来事とかは無かったかい?」一昨日の事を思い出してみるが、変わったことは仁哉と話しに大学に行ったくらいで特に無かった。
「そうか、特に無いか・・・」
「ユキ、お父さんご飯出来たよー」アルカが呼んでいる。
「まぁ今は脳に異常は無さそうだし、ゆっくり原因を探していけばいいか。さあご飯食べに行こうか」
夕食で出ているのは、焼き魚と白米と野菜のサラダといった庶民的なものだった。
「ごめんなさいね。こんなものしか無くて」申し訳なさそうにアルカの母らしき人が俺に言った。
「いやいや、夕食をご馳走していただけるだけでもとても有り難いですよ。それにとても美味しいですよ」それはお世辞でも何でもなく本当に美味しかったからだ。
「そういえば、ユキ君はどこか泊まるところはあるのかい?」
「え?」そういえばそれに関してもノープランだった。よくこれで、自分一人でどうにかしようなんて思ったもんだ。
「あ、そういえば空き部屋あったでしょ」アルカは言った。上手く世の中は回ってるもんだ。それに女性関係に疎い俺がまさか女の子の家に居候だなんて。色々大変だったが、ここに飛ばされた甲斐があったんじゃないか。そう思うとなんだか、世の中が薔薇色になってきたぞ。
「あ、ここ。この部屋よ」アルカは指を指した。
「ここって、窓じゃないか」
「違う違う、病院に空き部屋があるのよ」
「・・・え?」
「じゃあ、また明日ー」アルカが病院の前で手を振っている。
「マタアシタ-」
なんでだろうなぁ、泊まる部屋を提供していただけるだけでも十分運が良いのにこのガッカリ関係は。言われた部屋の中はベットのみがあって、それ以外は何もない部屋だった。歩き疲れた疲れと微かな悲しみでベットに潜り込む。少し横になるつもりが気がついたら眠ってしまった。
爽やかな日光には相応しくない暴力的な暑さが俺の目を覚ませる。その天井はいつもの白い天井だった。辺りを見渡すと、紛れもなくそこは俺の現実の部屋だった。スマホの時刻は8月3日、さっきまでの出来事は夢だったのか?いや、違う。それだけは違うと直感でわかった。「何かあったら遠慮せず話して欲しい」というカークさんの言葉を思い出す。ベットから降りて、外出の準備を始めた。
前書き 後書きで書くネタが既にもうないんですけど・・・