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マーマン防衛軍  作者: ベスタ
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7 デンキウナギ

 テルはポリフェルを出発し、薄い民のいる河へと向かっていた。

 今回の旅は救援を求めるものである。そのため一人で向かっているのだが、お供として苦内を連れていた。

 苦内があらかじめ道の先の様子を確認して、テルが後から進む。

 流石のテルも1対1でそこらへんの兵士には負けないという自負は育ってきたものの、数の暴力にはどうしようもない。もしもビゼンの部隊が哨戒でもしていたら捕まえられてしまうだろう。


 そのための安全確認であり、テルとしても苦内がついてきてくれることはありがたいことだった。


「河までもうすぐかな」

「そうですね」


 テルがどことなく話しかけると苦内がどこからともなく返事をしてくれる。

 気心の知れた相手であり変に気構えなくてもいい、というのも苦内がついてきてくれてありがたいポイントであった。


「私が先に触れ込みをしておきます」

「頼むよ」


 久々ということもあり突然訪問するのも驚かせてしまうだろう。テルは苦内にあらかじめテルが来ることを伝えてもらうこととした。

 苦内が影に潜り込む。


 テルはテルで薄い民については思うところがあった。

 以前薄い民は村に来てもらったら村の名前を決めてくれと言われていたからだった。

 さて、どうしたものかと考え込んでいたところに再び苦内が影から飛び出して来た。

 目の前に急に飛び出した苦内に驚きつつも、焦った様子の苦内にテルは驚きの声を寸でで止めた。


「テル様! 村の様子が変です! 何者かに襲われた形跡があります!」


 その報告にテルは今度こそ声を上げた。


「なんだって!?」

「建物は破壊され濃い死臭がしました」


 苦内の報告に焦りが浮かぶテル。今のところポリフェル防衛軍はビゼンの作戦に後手後手に対応している。今度もそんな予感が強くしていた。


「急ぐぞ!」

「はい!」


 テルと苦内は急いで薄い民の村へと急行した。




 村に到着すると村にある建物が何件か破壊されているのがテルにも確認できた。

 また、何かが腐ったような臭いが河の流れがあるにもかかわらず強く感じることができた。となれば、最近何者かがこの村を襲ったことになる。もしくは、今もいるのか…


「気をつけろ…」


 声を潜めてテルは苦内に伝える。苦内は静かに頷くと影の中へと沈んでいった。

 その様子を見て、テルは辺りを慎重に見回しながら進んでいく。


 粘土質の地面に石と木を組んでつくった家が崩壊している。そんな家々を巡りながら進んでいくと、町の少し広がった広場に人々が集まっているのが確認できた。

 まだ少し元気なのか、不安そうな顔ではあるが隣の魚人と話し合っているのが確認できてテルは喜んでその場に駆け寄っていった。


「おーい、何が起こったんだ!?」


 ドンッ


 テルが言葉を発した直後、テルの足元付近の粘土状の地面が吹き飛ぶ。

 衝撃で吹き飛ばされたテルが、宙で一回転して態勢を整えるとその衝撃の主人を探した。しかしいかんせん地面が吹き飛んだ衝撃で辺りがもやもやと煙って見えなくなっている。

 集中しようと体に力を入れたその絶妙なタイミングを狙って煙の中から大きな手が伸びて来た。


 ガシッ


 槍を持っていた左腕を捕まえられた瞬間、嫌な予感がテルの体を駆け巡る。躊躇せずに右拳で捕まえに来た手をなぐりとばす。その一瞬だけ、掴んでいる力が緩み左手の脱出に成功する。


 バチィ


 離れた瞬間捕まえにきていた手から閃光が走り、テルの体にうっすらと痺れが走る。

 距離をとったテルの視線の先には煙の中から突き出た片腕しか見えない。

 それでもテルは相手の正体を想像することが可能であった。


「これはどういうことだ!?」


 煙が晴れるとその下から屈強な戦士の姿が浮かび上がる。テルはその戦士が見た目とは違い紳士だということを知っている。だからこそ尋ねずには居れなかった。


「エルエイルッ!!」

「尋ねたいのは私たちの方です!」


 その紳士、エルエイルの顔には隠そうともしない怒りが浮かんでいた。


「親しくしていた我々に軍を向けるとは一体どういう考えか!」


 対峙していてさえテルにははっきりとわかる。今のテルでは体を自由に動かせるようになったエルエイルには勝てる要素がないことを。

 以前テルはサイガンドの1番魚人であるマコと戦ったがそれくらいの戦力差をエルエイルからは感じる。つまり、勝てる確率は絶望的だった。


「どういうことだ?」

「それを聞いた時、あなた方は矛を収めなかった!」


 タックルしてくるエルエイル。テルはそれをトラックの正面衝突のように感じた。逃れられない勢い、避けられない早さ、追尾する余裕を持った動き。

 直撃すると悟ったテルはひとまず口の中に手を突っ込み無理やりノエを引きずり出す。いきなり引っ張り出されたノエはテルの手の中で慌てていたが、構わずテルはノエを放り投げる。


「ーーーーーーーッッ!!!!!!!」


 ノエの声にならない声が遠くに消えていき、迫るエルエイルに防御をするように槍を構える。それで、タイムリミットだった。


 ドンッ


 衝撃にテルの体が再び宙に浮き上がる。全身が軋んで悲鳴をあげるが、意識はまだ手放していない。しかし、体に衝撃が残っており次のアクションに移ることができない。

 脳みそからの指令が筋肉に届いていない感覚だった。


 その隙をエルエイルが逃すはずもなく、拳がテルの顔面を弾かせる。とっさに頭を衝撃が逃げるようにしたが、あまり威力低下できなかった。耳がキーンとして顔半分の痛覚がなくなる。麻痺してしまったようだ。


 踏みとどまろうとした足は宙をかき、逃れられないアイアンクローを受けることとなる。


「必殺!!」


 エルエイルの十八番であるボルトクローであった。次の瞬間頭が真っ白になり、視界ももちろん閃光で真っ白になった。もはや体は脳からの指令がこないのでふんわりと浮かぶことしかできない。

 それでもすぐに視界が戻ってこようとする辺り、テルの職業のひとつである、電マーが効いているのだろう。


 ぼやけた視界の中で黒い影が2つ、テルの前に立っていた。


 1人は苦内であった。真っ黒なのですぐわかる。そしてもう1人は大きくなったノエであった。

 大きくなったといってもノエは最大1mほどの大きさしかない。こちらも特徴的なのですぐにわかった。


 耳がまだ回復していないので何を喋っているのかわからないのだが、2人ともテルの前に立ち大声で何かを叫んでいるようだった。その姿に申し訳ないなと思いつつもありがたいと思ってしまう。






 ノエがテルの口から放り出されてなんとか態勢を立て直した時、テルはエルエイルの電撃を顔面にくらい吹き飛ぶところであった。力なく河の流れに流されていくテルに追撃しようとするエルエイル。


 テルの死が目前に迫った時、ノエはエルエイルの前に大きく手を広げて立ちふさがった。


「死ぬことになるぞ、小娘!」


 エルエイルの言葉には殺気が漲っていた。目は瞳孔が開き、明らかに興奮状態に陥っていることがわかる。しかし、ノエは負けずに叫んだ。


「あんたらの事情は知らないッス!! だけど、テルさんは殺させないッス!!」


 ノエも負けずにエルエイルの顔を睨みつけた。いつのまにかとなりに苦内が現れた。ノエと同じように体を張ってエルエイルの攻撃を阻止しようとしている。


 正直、エルエイルの攻撃であればノエや苦内ごと貫通してテルを殺すことができるであろう。それを理解していてなおテルの前から退くことをやめないノエであった。


「お前たちは我らを攻撃した! それで十分だろう!!?」

「バカじゃないッスか!! その時、テルさんがそこにいたんスか!? いなかったッスよね? なんでテルさんのせいにするんスか!?」

「お前たちの陣営の者だったからだ!! だから我らはより大きな被害を受けた!!」

「あんたテルさんの側にいてそんなことするような魚に見えたんッスか!? あんたの目は節穴ッスか!!? テルさんは案外気弱だから、そんな大それたことできるわけないッス!!」


 ノエは体の全てを使って大声で叫んでいた。もはや売り言葉に買い言葉である。喋っている言葉の意味すらノエ自身あまりわかっていないのかもしれない。それぐらい必死であると言うことだろう。

 隣にいた苦内は、ノエのそんな姿を見るだけでテルのことをとても大事に思っていることが伝わってきた。それは家族以上の響きを感じさせていた。


 ノエの剣幕に押されたのか、エルエイルの勢いが収まる。そんな状態の時、テルの動く気配がして全員がテルの方を向いた。






 テルは頭を振ってなんとか意識をはっきりとさせようと試みる。


「ぅ………つぅ」


 ふらふらとしながらもなんとか立ち上がると前の2人がテルの様子に気づく。顔がぼんやりとしておりイマイチ2人の表情が見えなかったが、なんとか立ち上がるともう一度頭を振る。


 視界の揺らぎを戻した後、エルエイルの顔を見ると先ほどよりは落ち着いているのがわかった。先ほどまでの勢いが落ち着き、話ができそうな雰囲気だったのだ。

 どんなことをしたのかさっぱりわからないが、2人に心の中で感謝をしつつ、テルはエルエイルと向き合う。


「何があったか話してくれないか、エルエイル。話によっては俺にも出来ることがあるかもしれない」

「………いいだろう」


 エルエイルは幾分か落ち着いた様子で、その時のことを語った。

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