4 処刑
少し残虐な表現が入ります。
ご注意ください。
前回の戦闘から2日後、再びビゼン軍が城の前に姿を現した。
前回の戦闘と同じように防衛軍も配置に着く。しかし、槍のこともあり防衛軍から積極的に戦闘は仕掛けない方向でまとまっていた。
ビゼン軍も魔法攻撃が届かない距離で対峙している。
お互いににらみ合いの状態が続いていたが、ビゼン軍から何人かがポリフェル城からも見える位置に連れて来られる。
「あれは?」
テルが訝しんでいるとその隣にビゼンが進み出てくる。
その手には錆びない魔法のかけられた鉄のサーベルをぶら下げていた。
「あ、あれは!!」
防衛軍の兵士たちの間から声が出る。テルがそれを確認するよりも早くビゼンが声をかけて来た。
「ポリフェルの兵士たち、聞こえていますか? ここにいるのは先ほどの戦いで我が軍が捕まえた捕虜たちなのですよ? これから処刑を行おうと思うのですが?」
それほど声を張り上げてないのによく通る声でポリフェルに語りかけるビゼン。どうやら先ほど声を上げた兵士は、捕虜の知り合いらしい。
悔しそうに呻く声が聞こえる。
「攻めて来てもよいのですよ? ああ、そのまま見てもらっても構いませんが?」
言うがいなや隣にいた捕虜の手首を切り落とすビゼン。
「むぐうぐぅ!!」
口を塞がれているため呻くことしかできない捕虜。きつく縛られているため身動きもできず、痙攣したように震えることしかできなかった。そのまま、ビゼンは背中にゆっくりとサーベルを突き入れていく。
一気にではなく、ジリジリと。
「むぐぅぅぅぅ!!」
叫びが捕虜の口から漏れる。その度に恍惚とした顔を浮かべるビゼン。
「ああ、ああ! 貴方、とてもいい声ですよ?」
傷口をえぐり始めるビゼンに、怯える叫びと苦痛の叫びが混じりあう。
テルは耐えきれなかった。戦争で死ぬのならばまだ、理解はできるのだ。だが、あれは命を弄ぶ行為以外の何ものでもなかった。
「部隊を編成しろ! 救出に向かう!!」
テルの言葉に一二三の冷静な声が止めに入る。
「兄さん。待ってください。あれは罠です」
「わかっている!!」
わかっているが、どうしようもなかった。助けるために出なければテルは自分を許せそうになかった。
だが、フーカが怪我をした時の二の舞をするにはいかないことも、ギリギリの理性でわかってはいた。
「だから! 熱くなって考えがまとまらない俺の代わりにお前が考えてくれ! 罠にはまってでもあいつらを助ける方法を」
「はい」
一二三はテルの言葉を受け止めた。案外救出部隊はすぐに集まった。準備をしている間にもビゼンの処刑は進んでいく。
「ぶぶぶぶぶぶ!」
喉にサーベルを突き入れられていく。だが、決して傷が広がりすぎないように細心の注意を払って、すぐに死んだりしないように。ビゼンは相手を慈しむように傷つけていく。
「素敵ですね? 愛おしいですね? 素晴らしいですね?」
サーベルについた血をなめとるとビゼンは微笑む。唇についた血が口紅のように紅く彩っていた。全てを慈しむ天使のような表情で、悪魔のような行為を繰り返していく。
ぞぶり
耳が切り取られる。
ずぶり
剣が突き立てられる。
ずるり
はらわたが引きずり出される。
だが、死なない。
長くは生きられないだろう。だが、その最期の時を苦痛で埋め尽くされながら、捕虜たちは死ぬことすら願っていた。
血で辺りが煙る中、ようやく部隊が編成された。
「中途半端な部隊では返り討ちにあいます。全軍で攻撃を開始します」
防衛軍は攻撃に転じる。押し寄せる防衛軍にビゼンは処刑を中断する。その目には楽しみを邪魔されたものの苛立ちではなく、新しいおもちゃを見つけた喜びに埋め尽くされていた。
「突撃? 何人か連れ帰るのですよ? そうでなければ貴方達で遊びますからね?」
ビゼン軍の兵士たちは決死の覚悟で防衛をし、再び両軍が戦闘状態となる。だが、防衛軍は中々思い切りのいい攻撃ができないでいた。怪我を負えば戦いに参加できなくなるかもしれない。
捕虜になれば次の処刑は自分たちの番でもある。
加えてビゼン軍は堅実な戦いで動きの硬い防衛軍に確実に打撃を与えていった。
「あら? 貴方達を放っていてごめんなさいね? 相手をしてあげなきゃね?」
そんな激しい戦いの最中でもビゼンは処刑を続けていった。苦しみに耐えかねて1人死ぬと、次へ。痛みに耐えかねて1人死ぬと、また次へと。
結局防衛軍は捕虜を助けることもできずに引き分けとなるのであった。
あんなことが許されていいのか。
それが先ほどの戦いを生き抜いたもの達の共通の思いであった。
戦場で死ぬのはわかる。命をかけて戦っているのだ。だが、先ほどのは処刑という名の拷問だった。あんなことで死ぬのは嫌だと誰もが思っていた。
そんな状態なので、防衛軍が捕まえている捕虜を使うのは当然の考えだと思われた。何人かの兵士たちが捕虜を見せしめのために殺そうと治療院に向かったのだった。
「なんだって!?」
近くにたまたまいたテルはそれを教えてもらったあと、すぐに治療院に向かった。
敵がしたからといってこちらも同じことをしたのではダメなのだとテルは思っている。一時的には抑止力として効果はあったとしても、長期的には恨みとなってタロス海域とアーラウト、カララト海域の魚人は敵対してしまうだろう。
それは『後々タロスの魚人達に寝首をかかれる危険』と戦うことと同意義である。
そもそもあの残虐なビゼンが仲間の兵士が死んだことで動揺するとも思えなかったのであるが。
そんな状況にしてはいけないと治療院についたテルが見たものは地獄絵図であった。
治療院にいるものの傷口が大きく裂けているのだ。あたりには血の匂いが充満しており、とても治りそうな気配すらなかった。
とりあえず近くを通った医者を捕まえて尋ねた。
「これはどういう状態だ!?」
テルが尋ねると医者は泣きそうな顔で答えた。
「これは血カビと呼ばれているものです。健康な魚人には全く問題はありません。ですが小さな傷でもあればそこから繁殖していき、傷口を腐らせていくのです。最終的には傷が塞がらない魚人は死んでしまいます。
普段は決してこんなに流行しない病気なのですが…」
医者の言葉に周りを見回すテル。確かに動き回っている医者達はピンピンとしており、小さな傷口から出血している患者が多数見受けられた。
そしてその視線の中にすでに息絶えているものがいた。最初の戦いで捕虜となっていたビゼン軍の兵士である。
その前でいたたまれない表情で立ちすくんでいる兵士たち。
兵士たちが殺したのではなく血カビで死んだのだろう。その兵士たちの元へ行って兵士たちに言って聞かせるテル。
「お前達は持ち場に戻れ。今回の行動は見なかったことにする」
テルの言葉に安心した兵士たちは治療院を出ていく。それを見て安心したのもつかの間、うめき声が聞こえてきた。
「くぅぅぅ!!!」
「フーカ!?」
そう、治療院にはフーカがいるのであった。安全だと思っていたテルに一気に焦燥感が走る。慌ててフーカの元に向かうとテルは言葉を失った。
背中にあった大きな傷が再び血をにじませている。
傷口の周りには白いほわほわしたものが付着しており、医者がそれを取り除いていた。フーカはその度に苦痛で顔を歪ませている。
「フーカ! フーカは大丈夫なんですか!?」
「すぐにどうにかなる、ということはありません。ただ、処置が遅くなればその分危険になることは間違いありません」
医者が冷静にそう告げた。その態度にテルは少しだけ冷静さを取り戻す。現在テルがいても邪魔にしかならないだろう。ならば、とテルは医者に頭を下げる。
「フーカを、どうかお願いします」
「はい、任せてください」
医者はあえてにこりと笑うとテルをおいて処置を継続した。テルを安心させるためだろう。テルが治療院を出ると寄生虫のノエが口の中から飛び出してきた。
「ふむふむ、今回は蹴らなくてもいいみたいッスね」
「そうなんども蹴られるか」
ノエの言葉にテルは答えた。一度取り乱したテルをノエは蹴っている。そのことをテルはつい最近反省したばかりなのだ。そうなんども周りに心配ばかりかけてはいられない。
ノエはテルの肩に乗ると、テルに笑いかけた。
「ならやることはわかってるッスね」
「ああ、いくぞ。ノエ」
この事態を解決するために、テルは会議室へと向かうのだった。