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マーマン防衛軍  作者: ベスタ
4/21

3 傷

 ポリフェル城内は勝利に浮かれる兵士達で賑わっていた。

 意味もなく叫び出すもの、喜びに騒ぎ立てるもの。彼らの誰もが興奮しており落ち着くのに多くの時間が必要そうであった。


 だが、それでいいのだ。

 これからも戦いは続く。気持ちを向上させる要素がなければ兵士達も長くは持たない。


 攻め込む側は勝てばそれで終わりだが、守る側は明日以降も続く戦いに耐え忍ばねばならない。長い戦いを戦い続けるには時には興奮も力となるのだから。


 そう思いながらみんなの様子を眺めている一二三には、みんなのように無邪気にはしゃぐことはできないでいた。


「この度の勝利、おめでとう、と言っておこうか」

「ええ、ありがとうございます」


 会議室の前でも兵士たちのはしゃぐ声が変わらず聞こえる中、監視の兵を連れてオームが顔を出した。一二三はそんなオームを出迎える。


 オームの立場は非常に微妙なものである。

 現在はタコス軍のポリフェル城防衛軍の総責任者だ。だが、それは押し付けられた責任であり支配者として全軍をまとめられるのがオームしかいないからに他ならない。

 しかし、それと同時にオームはサイガンドでの戦闘で得た捕虜である。サイガンド海域にとってみれば人質といってもいいだろう。


 そのため内心はオームが反乱を起こさないだろうと思っていても、周囲には警戒をしているというアピールをしておかなければならない。

 もっとも、オームはそこらへんの事情を察しており、移動する時には今のように監視を自ら引き連れてくれているのだが。

 素直にありがたいと思う一二三であった。


「これで兵士達もやる気になる。我らの勝利は近いな。まあ、我らの参謀殿はそうは思っていないようだが」

「わかりますか」

「少しはな」


 鋭い。

 一二三は辺りを警戒しながらオームに内心を少しだけ相談して見た。


「わたしにはどうも、ビゼンがあれだけの行動をした理由がわからないのですよ」


 ビゼンはその行動から残虐な行為を楽しむだけの将だと思われがちである。それを肯定する様にビゼン自身も残虐な行為を見せつけるような言動をしてもいる。

 しかしその実、ゲールラを裏切らせたりイソボン砦を早期に陥落させたりと全体をみれば恐ろしいまでの作戦遂行速度である。

 そういった行動ができるものがただの無能であることなど決してない。


 


 しかしそんなビゼンの行動には不思議な点が2つある。


 勝つことを意識していない攻撃。

 まるで戦いそのものが目的であるかのような敵を倒す意識の薄い戦闘である。ビゼンは先の戦闘でいくらでも指示を出すことができた。

 敵が裏で動いているようであればそちらに兵士を多く向かわせるといったことや、最初に魔法の打ち合いで相手の様子を見るといった戦いの定石とも言える戦闘を一切しなかったのだ。勝つ意思がないといっても過言ではないだろう。

 そのため一二三も次第に打つ手がなくなり最後は純粋なぶつかり合いとなってしまったのだが。

 一二三には戦闘に勝たないことにメリットを見出せないのでそこにどんな意味があるのかはわからない。


 次に、恐ろしいまでの兵士の頑強さ。

 そこには目の前のヤリですらも怖くはないといった力強さすらも感じていた。どんなに攻撃しても部隊が崩れないのだ。そこには陣形を一切変えない安定さが加わっていたとしても、異常とも思える兵士の粘りがあった。

 そのため防衛軍はビゼン軍を攻め切れなかった。




 考えを巡らせる一二三を見ていたオームは肩をすくめてみせる。


「まあ、お前がどこまで考えているのかは知らないが、確かにビゼンはあの程度のものではない。おそらく何かあるぞ」

「やはり」


 一二三が相槌を打つとオームは頷く。


「認めたくはないがビゼンは頭の切れるやつだ。そしてそれ以上に残虐だ。こちらはビゼンの意図に気付けない。だが、気づいた時には取り返しがつかない。あいつはそんなやつだ」


 オームは苦々しげに言った。おそらくかつて何かあったのだろう。しかし、一二三はそれを聞ける雰囲気ではなかったため口をつぐんだ。

 戦勝で浮かれている会議室。その中で2人だけが暗い何かに飲み込まれる前のようににじりよる恐怖を感じていたのだった。





 次の日、ビゼン軍は攻めてこなかった。

 調整作業をしていた一二三に連絡が来たのはその日だった。治療院がパンクしていると。その原因を探ると先日の戦闘による負傷者がいつもより多いということがわかった。


「なぜ今回の戦闘に限って?」


 一二三が呟くとその手伝いに来ていたテルが思い出したように、ああ、と声を上げた。


「敵のヤリがちょっと変わっていたんだ。なんか爪みたいなものがついていたな」

「そうなんですか?」


 一二三はテルの言葉を聞くと考え込んだ。そして仕事を置いて立ち上がるとテルに声をかけた。


「兄さん。これからその槍を見に行きたいと思います。一緒について来てもらってもいいですか?」


 一二三は戦いの合間を縫って戦場の調整をしていた。食料、兵士、武器、ポリフェルに住む住民たちの調整も。

 それは一二三がいなければ回らない仕事である。テルも手伝いはできるものの本格的な作業は手に余る。一二三が作業をしないのであればテルとしても暇となるのだった。


「ああ、いいぞ」


 なのでテルがついていくのは問題がなかった。

 テルと一二三は敵から回収した武器も収められている武器保管庫に向かう。突然の訪問に持ち場の兵士が慌てていたが、回収したビゼン軍の槍を見ることができた。


「これですか」

「ああ、刃の根元に紐とその先に爪のようなものがあるだろう?」

「そうですね」


 一二三は手にした槍に爪がついていることに気づいた。テルも戦闘中はよく見えなかったが、いまみると結構凶悪な姿をしているのがわかった。


 その爪は猫の爪のように湾曲しており、刺さったら抜けにくくなるように先端に返しがついていた。おそらく魚の牙を削って加工しているのだろう。わかりやすくいえば釣り針のような形といったほうがいいのだろうか。


「これはまた、凶悪な形をしているな」

「そうなんですか?」


 テルの感想に一二三が尋ねた。

 テルは説明をする。返しがついているため普通にやったのでは取れないようになっている。無理に引き抜くと周りの肉をえぐってしまう。最悪肉がえぐり取れてしまうのだ。

 そうなった場合、傷の治療は非常に遅くなる。抉り取っているので傷口は刺さった時よりも大きくもなる。



 普段使われている現在の小さな釣り針でさえ、深く刺さった場合は病院で手術してとってもらうものなのだ。理由は釣り針をえぐって取るよりも、メスで切ったほうが傷口も小さく切り傷の方が治りが早いからだ。


「まるで傷ができることを狙った武器ですね」


 説明を聞き終えた一二三は考え込む。

 傷を作ることに自体にメリットはある。怪我人が増えれば痛みなどで戦闘できるものが少なくなる。

 さらに死んだ者はそれで終わりではあるが、怪我人はその後の生活を保障してやらなければならない。そうしなければ兵士は誰も戦争になど行かないからである。


 食料と経済と兵士全てに打撃を与える戦法である。

 しかし、だれもそんな戦法は取りたがらない。

 相手も同じことをしてくれば泥沼となるからである。やったことは仕返しされる。

 ルール無用と言われる戦争にルールが決められている場合がほとんどなのはこういった理由からである。


 なるほど。確かに残虐と言われるビゼンにぴったりの戦法だと一二三には思えた。


「汚い手を使ってくるな」

「周りから残虐と言われているだけはありますね」


 一二三の説明に納得したテルは頷く。だが、それも一時的なことなのだ。いずれは怪我も治る。どのみちすぐに効果が出るような戦法ではないのだ。長期戦になれば遠征しているビゼンの方が不利なのは変わらないのだから。


「まだ、何かあるんでしょうね」

「みたいだな」


 テルは一二三と一緒に考えるも答えは出ない。

 結局のところ、打つ手はないのだ。傷を増やしてでも戦いを続ければいずれはビゼン軍の食料は尽きる。そうなれば引き上げなければいけなくなる。

 防衛軍は追撃をして殲滅すればいいだけなのだから。


 一二三たちは自分たちが最善と思える選択をしてくことだけが唯一の救いだと信じていた。

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