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マーマン防衛軍  作者: ベスタ
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2 不穏な勝利

 ポリフェル城の周りはサンゴ礁で囲まれている。

 大悪魔の口からはサンゴの広い大きな谷となっており、その谷底を通るように押し寄せるビゼン軍がよく見えた。


 ビゼンの最初の指示が全軍の突撃であったのに対して、一二三の指示は魔法軍による一斉射撃であった。

 防壁がわりの岩の隙間から魔法部隊の隊長である余市が顔を出すと、それに続いて魔法部隊が杖を構える。


「全軍構え…………撃てっ!!!」


 余市の指揮とともに多くの水流魔法弾がビゼン軍にぶち当たる。


 ドドドドドドド……


「ぐあっ!!」

「げえっっ!!!」


 数百名規模での被害が出るが止まらずに攻め込むビゼン軍。当たり前である。立ち止まれば第2射が飛んでくるのだから。ビゼン軍からも魔法の射撃が行われるがそのほとんどは岩に阻まれて大した効果を上げていない。

 接近してくる間に余市は魔法の第2弾を発射する。


 ドドドドドドド……


 同じように数百名の被害を出した。しかし、魔法をまともに撃てるのもここまでである。ビゼン軍は防壁前に到達しようとしていた。ここまで迫られては逆に魔法部隊の方が不利となる。

 一二三はその様子を見てとり、うちわを今度は縦に振るう。


「ヤリ部隊、前へ!!」

「「「「「おおおおおっ!!!!」」」」」


 主力であるヤリ部隊が前に出る。その先頭に武器隊隊長代理の史郎が立ち全部隊を率いる。


 武器隊の隊長はゲールラ将軍であったのだが、現在はゲールラ将軍は敵に寝返っている。そのため、ゲールラ将軍の補佐をしていた副将である史郎がその責任を負っていた。


 防衛軍のヤリ部隊とビゼン軍の軍団が激突する。

 激しいぶつかり合いが起き、すぐさま血の匂いが辺りに広がり始める。それを見ながら一二三はティガを呼び寄せ作戦を伝える。


「ティガ、これから敵の右側に回り込んで素手部隊による攻撃を行って欲しい」

「了解した」


 素手部隊の隊長であるティガは、素手部隊を引き連れぐるりと大回りを開始する。そして、ヤリ部隊が拮抗しているところに側面から突撃を敢行する。


「おおおおお!!!!!」


 充満している血の匂いに興奮したティガは咆哮し、瞳孔を大きく開き漆黒の目で敵を蹂躙していった。戦闘の興奮で膨張し丸太のようになった腕の先で、ビゼン軍の兵士は木っ端のように破砕されていく。

 血と肉片が辺りを漂い、その度にティガの牙がさらなる血肉を求めさまよう。






「だけどそれも一時のことでしょう?」


 ビゼンは戦場を眺めながらゆったりと笑っていた。

 ビゼンの言う通り、一部ではビゼン軍に食い込むものの、ビゼン軍は恐ろしいほどの執念で結束を保っていた。防衛軍がどんなに攻撃を強めても守りが硬く、突破できない。

 史郎も突撃したあとは少し後方に戻り、武器隊の全体の指揮をとり始める。ヤリ部隊も最初の勢いが失われて戦局がこうちゃくし始めたのだ。


「ぐあっ!」

「うぐっ!!」


 戦場のあちこちで悲鳴が上がる。その悲鳴を心地良さそうに聴きながらビゼンは状況を見守った。新しい指示を出すわけでもなく、作戦を変えるわけでもなく。


 一二三はそんなビゼンを訝しく思う。ビゼンは最初の突撃以降、指示を全くしていない。それにひきかえ一二三はこの状況を味方に優位にしようと作戦を常に考えて、その都度指示を出していた。

 しかし、どれも思ったより効果がない。接近してからのビゼン軍には積極性がないのだ。こちらの攻撃を耐えて、すきあらば反撃する。

 それでは防衛軍の攻撃をしのげはするものの、防衛軍を突破することはできない。長く戦えば守る防衛軍の方が有利にも関わらずだ。

 ビゼンは知らないだろうが別行動しているタコスもいる。時間を長引かせることはビゼンにとって不利になっても有利になりはしない。






 テルは戦場の真っ只中にいた。

 武器隊の兵士と一緒にビゼン軍を攻撃していたのだ。テルは戦いながらどうしてもぬぐいきれない不安感とも戦っていた。

 敵の戦い方があまりにも消極的すぎるのである。


 ある程度ヤリで突いてくるだけで、基本的には守りを固めているのだ。そのためテルたちが突いてもほとんどは防がれるか弾かれる。そしてその隙を突いて攻撃をしてくるのだ。

 その攻撃も決して無理はしない。

 こちらに牽制のように突いてくるか、当たっても怪我をするくらいで死ぬような深手は負いにくい、貧弱な攻撃であったのだ。


 今も突き出されたヤリをテルは余裕を持ってかわす。テルの隣の兵士はギリギリで避けて、その攻撃にカウンターを合わせようとしていた。


「痛っ!」


 それはテルの隣の兵士の叫びだった。

 避けたにもかかわらす、兵士は腕に怪我を負った。見てみるとヤリにフックのような爪がついていたのだ。そのため避けたと思っていてもその爪が引っかかり怪我をしてしまったのだった。


 だが、その程度の傷で死んだりはしない。戦闘中に怪我を負うのは当たり前なのである。特に気にも止めずにテルたちは攻撃を続けていった。






 一二三が不穏な何かを感じているときにようやくビゼンの手が動いた。下から上に体の後ろを通って、また下から上に。


 一二三が身構えるのと同時に一斉にビゼン軍が退却を始める。

 その動きは整然としており追撃をすれば反撃を食らいそうな何かを感じた。おそらく前線の指揮官たちもそれを感じ取ったのだろう。史郎もティガも追撃を敢行しなかった。

 やがて完全に見えない位置まで引き下がったビゼン軍に、防衛軍もようやく緊張を解いた。


 戦場に残された負傷した兵士たちを、戦場に出ていたテルは見る。

 そのほとんどはビゼン軍のものであった。防衛軍の死者は少ない。防衛軍の勝利といっても間違いではなかった。






 その後、防衛軍はけが人を収容した。

 重症である者から治療室に運ばれていく。今回の戦闘では予想外に怪我人が多かった。敵の捕虜も多くのものが怪我人であった。しかし、切り傷、擦り傷などの軽症の者がほとんどである。

 怪我人の多さにパンクした治療室は、軽症のものは追い出して重症患者の手当てを優先している。


「今回はやけにけが人が多いんだな」

「私より軽い怪我の人が多いみたいだけどね」


 テルはフーカの見舞いに来ていた。

 幸いにしてフーカは以前負っていた怪我の程度が深い部類であり、治療室を追い出されることもなかった。それがいいことなのか悪いことなのかは微妙なことではあるが。

 治療に専念しなくても治るけが人が多いことはいいことではあるのだろう。


「お前の怪我はどんな具合だ?」

「順調。まだしばらくは治療院で生活しないといけないからテルと一緒には暮らせないけど」


 フーカの言葉に安心するテル。

 フーカはテルが保護しているサメの魚人だ。だがサイガンドとの戦闘で敵のライトの剣を、テルの身代わりになって受けたのだった。深い傷なので未だに治らないのだ。


「安静にしていろよ。動いて傷が開いたら大変だからな」

「うん。……ありがとうね」


 フーカは優しく微笑む。テルも同じように微笑むとうつ伏せになっているフーカの横に座って話し込んでいた。

 フーカの背中の傷が痛々しく見える。それは戒めなのだとテルはその傷を目に焼き付けた。2度と仲間にこんなことはさせないために。

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