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マーマン防衛軍  作者: ベスタ
2/21

1 開戦

前作の続きとなっているため唐突に始まっていますがご容赦ください。


わからない人名や地名は0話に記載されていますのでどうぞそちらもご覧ください。

 カララトの首都であるポリフェル城ではいつもの活気が嘘のように静まり返っていた。

 いつもならば人々の声で賑わう、ポリフェル自慢の大通りも今は眠ったように静まり返っていた。ポリフェルの周りにはぐるりと岩が置かれ、完全に防衛態勢へと移行していた。


 人々はわかっているのだ。

 これから戦争が始まるのだと。





 ポリフェルから少し進むと大悪魔の口と呼ばれる海溝がある。

 その方面にはサンゴが山や谷を作っていた。その谷となっている部分に多くの魚人が動く気配がする。


 やがてふわふわとした服を着て、タロス海域の支配者であるビゼンが多くの部下を引き連れてポリフェルに姿を現した。


「ふふ。中々に素早いですのね?」


 ビゼンは足よりも長いスカートをふわり、と大きく膨らませてくすりと笑った。その笑顔は本当に楽しそうであった。

 部下の魚人が身震いするほどに。


「ビゼン様、これからいかがいたしましょう」


 部下の言葉にビゼンは顎に人差し指を当てて少しだけ考える。

 ポリフェルが防衛準備を整えているのだ。すぐに攻め込んでも、簡単に奪い取れるものではないだろう。

 ポリフェルはカララト海域の首都。防衛は簡素だと考えるのは愚かだろう。


「まずは話してみましょう?」

「ははっ!」


 ビゼンとしてはタコスがどんな支配者であるのか見てみたかったのである。

 タコスがアーラウト海域に派遣された時に、タロス海域は通り道なので挨拶のため顔は合わせたはずなのだが、ビゼンはもう覚えていない。

 しかしいま、タコスは7つ中2つの海域を手に入れた充分すぎるほどの支配者なのだ。


(とても、気になるわね?)


 ダゴンという絶対統治者がいるこの海の世界でそんなバカなことをする支配者と会えるのを楽しみにしながら、ビゼンは屋根の美しいポリフェル城へと近づいていくのであった。





 ポリフェル城前で対峙する2つの軍。

 ビゼンが率いる軍勢とタコス陣営のポリフェル防衛軍である。

 城の周りに配備された岩を城壁がわりにタコス軍がひしめき合っている。そんな2つの軍隊はお互いに約1万人。兵の数では負けていないタコス軍の方が防衛拠点を持っている分有利であった。


 ビゼンがたった1人で、少しだけ軍の前に出てくる。


「そちらのトップである、タコスはいますの?」


 それはそんなに大きな声ではなかった。張り上げるような怒鳴り声でもない。しかし、不思議と響き渡りポリフェルの防衛軍にも声が届いた。

 白い鎧の女性が岩から姿をあらわす。


「残念ながらお前とタコスを合わせるわけにはいかないな」


 その女性の姿にビゼンは軽く驚いた。腰に下げていたビラビラのついた扇子を取り出すと広げて口元を隠す。だが、その美しい顔の眉間には、シワが刻まれていた。


「あら、誰かと思えばサイガンドの支配者であるオームじゃありませんの? 貴女がここにいるということはタコスというのはもう負けてしまったんですの?」


 がっかり、という雰囲気を隠そうともせずビゼンは告げる。ビゼンの後ろにいる部下たちが緊張のために背筋を伸ばした。

 オームはそんなビゼンになぜか苦笑する。


「私は負けたよ。私はタコス軍に降伏したと思ってくれて構わない。今の私はタコス軍の防衛隊長だ」

「へえ?」


 オームの言葉にビゼンは面白そうににっこりと笑う。口元を隠していた扇子を閉じると興味深いとばかりにビゼンはオームを見つめる。


「戦闘狂の貴女が降伏する? 面白い冗談を言えるようになったのですね?」

「残念ながら冗談ではない。お前と戦うのは私だよ」


 その言葉にビゼンは考える。たしかに以前のオームでは考えられない態度だ。以前のオームならば一騎打ちと称してこちらに突撃でもしてきていたであろう。

 それがいまや防衛軍として守りを固めているのだ。


 ……まあビゼンとしてもオームが突っ込んでこないのは少し残念ではあった。オームは自分の力量が測れないバカである。いつもの戦争ゴッコであれば支配者の威厳を守るため適当に追い払う程度のことしかできない。だが今は本当の戦争中である。


(殺してさしあげようとおもいましたのにね?)


 ビゼンは思う。

 オームが自慢の鎧とプライドをボロボロにされて傷つく様を。悔しそうな顔でこちらを睨んでくる様を。血を流して這いつくばっている様を。そしてモノを言わなくなる骸と成り果てた様を。

 それを想像するだけでビゼンの顔にうっすらと朱が差して、体に軽い興奮の震えが走るのを自覚する。

 ビゼンはそれはなんとも素晴らしいことだと思うのだ。


 それと同時にビゼンはとても冷静だった。ポリフェルに肝心のタコスがいない。姿を見せてすらいない。それにオームが降伏したことが本当としてサイガンドの軍勢が8000名程いるはずなのだ。それが姿を見せない訳を。


 ポリフェル攻略戦ではあまり被害を出せないことを思うビゼン。熱い吐息を出し切るとビゼンはオームを見つめた。


「私は優しいのでね? 貴女達に降伏をするチャンスを与えますね?」


 そういった後、「まあ…」と区切りにっこりと笑って告げる。


「私個人としては、降伏して欲しくはないのですけどね?」


 オームは頬をひきつらせる。目を閉じて眉間を揉み解しながら言う。


「私はよく周りから戦闘狂と言われているが」


 片目をあげてビゼンの嬉しそうな瞳を見つめ返す。


「お前の方がよほど戦闘狂だ。降伏はしない」

「あら、ありがとう?」


 ビゼンは紅い唇を持ち上げると扇子を持った片手を大きく持ち上げた。その手が振り下ろされる。


「全軍、突撃?」

「「「「「おおおおおおおおお!!!!!」」」」」


 ビゼンの命令にビゼンの部下である魚人達が大声をあげて突撃をしていく。それに対抗するポリフェル防衛部隊のオームは後ろを振り返る。

 そこにはタコス軍の参謀である一二三が待ち構えていた。一二三は軽くお辞儀をする。


「お疲れ様でした。あとは主力軍の指揮をお願いいたします」

「ああ、わかった」


 入れ替わるように見晴らしの良い場所に一二三が立つ。一二三は迫り来る軍勢を前に真珠貝の貝殻を加工したうちわを、大きく横に2度3度と振る。


「迎撃開始!」

「「「「「わああああああ!!!!!」」」」」


 一二三のうちわは貝の内面のように虹色に光り目立つように加工されたものであったのだ。1万の防衛軍が一二三のうちわの合図に呼応する。

 総勢2万の兵士の怒号が地響きのように響き渡りここにポリフェル防衛戦の火ぶたが切って落とされたのだった。

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