戦略的撤退
「オークどもめ!今日こそは貴様を倒してやる。全軍、突撃!」
女騎士さんがそう叫ぶとうぉぉぉぉぉぉ!と叫びながら数十人が突撃してくる。突撃してくる人たちはあの全身鎧をつけている人がほとんどだ。数人は馬に乗っていて騎士になっているようだが、それでも全身鎧だ。
「懲りずに懲りずに毎回来やがって。今回も痛みを味わって帰ってもらうぞ。」
これはオーク1号さん。名前は知らない。
「はははっ!馬鹿め!今回連れてきた騎士団は我が国の精鋭、近衛騎士団だ!そう簡単には倒れさせん!」
これは女騎士さん。でも、そんなこと言ってるけど、その騎士さんたちはオークの皆さんに倒されてて、全然歯が立ってないように見えるんだけど。
「ふむ。少しは強いようだが、我らにはこの程度では勝てんぞ。我らには進化の女王、サナがいるのだからな。」
これはオーク2号さん。いやー、照れますなー。確かに”私”のおかげではあるけどさー。そんな褒めないでよー。
「ほざけっ!早く、貴様らはその少女を離すのだっ!どうせその少女も貴様らの獣欲に充てられているのだろう!ほらっ!そこの少女も怖がってるではないか!」
いやはや、何を勘違いしてるのか知りませんが別に怖がってなんかないですよ。意外と、オークさんたちは優しいですしね。そもそも、オークだからって悪いやつと決めつけるのはどうかと思うぞっ!
「この無知蒙昧が。サナは我らとともに居たいから共に居るのだ。なぜ、それを貴様が引き裂こうとする?そんな権利が貴様にあるのか?」
これはオーク3号さん。言わせてくれるなら言いたいんだけど。別に”私”はオークさんたちと一緒にいたいわけじゃないよ?でも、ここから一人じゃ逃げ出せないし、騎士さんたちは負けていくし。ジレンマだよねー。
「やはり貴様らは殺さねばならんようだっ!喰らうがいい、『魔物を祓う緋光』!」
女騎士さんの手に赤い光を伴った玉が現れる。その玉は弾へと変化し、それをオーク1号さんへと投げる。オーク1号さんは最近盗賊から奪った剣で迎撃したがその剣はパキンッと折れてしまう。その代わりといっては何だが、魔術は消滅してしまう。
「何?面白くない魔術だ。それに美しくない。」
「黙れっ!この魔術は貴様らに使うのももったいない、王家に伝わる高尚な魔術なのだぞっ!」
へ、へぇ~。それにしてはあっさりとオーク1号さんに壊されてましたけど。
「くそっ!これも効かないなんて、ぜ、全員撤退だ!戦略的撤退だぞ!」
おっと、玉砕したのちの転進ですか。追い詰められた国家のようですね。どことは言いませんが。はい。どことは。
「では、騎士様方。また来てね~。」
”私”は騎士さんに手を振ることにする。いつか迎えに来てくれるといいですね。まぁ、そのころにはオークさんたちはめっちゃ強化されてると思いますが。
「あり得ない。あり得ないぞっ!奴らを災害級に指定して討伐してやる。絶対、絶対にだ!」
・・・・・あ、はい。頑張ってください。応援はしません。でも、小声で叫べるってすごい特技ですね。
「そろそろこの拠点を移すか?それでも、あいつらは見つけてくるんだろうが。」
「おう、わかった。じゃあ、荷物まとめてくるぜ。」
「サナさーん!移動しますよー!いいですよねー!」
”私”が逃げられないことを知っておきながらこう聞くのはどうなんだろう。・・・・・。
うん、紳士っぽいね。あ、騎士かな?
「はいはい。次はどっちに行くの?北?南?東?西?」
こそこそと話し合っているオークさんたち。まぁ、やることなさ過ぎて聴力を成長させた”私”には聞こえるんですけどね?
『おいおい。どうする?もうそろそろ逃げるところがなくなってきたんだが。』
『正直に言うけどな?もう、俺たちもこのナリなんだ。サナを連れて噂の魔都に行ってもいいんじゃないか?』
『あぁ、もうそれでいいんじゃないか。サナもそろそろ限界のようだ。元は文明生活だそうだしな。』
『よし、決定だ。魔都に行くぞ。出発はいつにする?』
『すぐに出発しよう、と言いたいところだが。数日で準備していかないと着けないだろう。サナに野宿してくれと頼んでくる。』
・・・・・オークさんも気づかいができるようになったんだな~。あ、そのあと聞いてきたオークさんには野宿全然いいよ~。と返しておいた。