このままでいられたら
「康太、お前趣味悪いぞ。立ち聞きしてたのかよ。」
「お前なぁ。言っとくけど、この場所に先に居たのは俺。お前らが後から来たんじゃないか。」
私と山田は廊下の角で話をしていた。
その直ぐ曲がったところに康太がいたって事か。
「そっか、悪かったよ。」
「お前が素直なのもちょっと新鮮だな。」
廊下の先を見ると、むっとした千恵を追いかけるようについていく山田の姿が見えた。
一緒に帰るんだな。少し安心した。
これで千恵の機嫌が直るかな。
私は知らず知らずのうちに笑っていたらしい。
「俺は、意味がわかってるから何とも思わないが、他の奴がみたら一人でニヤニヤして怪しい奴だぞ。」
と康太が言った。
「大丈夫だろ、お前がいるんだから。一人じゃないだろ。」
「それもそうだな。それで、今野はそんなに機嫌が悪かったんだ。」
「そうなんだよ。山田のせいで全くこっちはいい迷惑だよ。」
「ふーん。俺と同じだな。」
「康太もか?」
「ああ、全くいい迷惑だよ。俺なんかもうずっとだよ、それに昨日からはもっと酷くてな。只でさえ怖い顔がもっと怖くなってやんの。」
「へぇーそれって健太のことか?」
「それはどうかな?」
そこまで言っといてどうかな?はないだろぉ。
っていうか怖い顔って健太だろうに。
でも私はこんな風に康太と話時間がとても心地良かった。
思えば、千恵も健太も大和もいないで2人で話すのは久し振りだな。
と思った瞬間。
「康太、帰ろうぜ。」
と健太がやってきた。
「おう」
と返事をする康太。
何だよ。私は無視かい!
健太は私と目を合わせなかった。
「健太、何なんだよ。お前最近おかしくないか?」
と言うと
「別に、おかしくなんてー」
と言葉に詰まる健太。
やっぱりおかしいじゃないか?
あの時あの健太の顔をみてからどうも調子が狂うんだよな。
それにさっきの健太も。
だけど私は
「なら、いいけど。」
そんなことしか言えなかった。
「なあ佐藤、今野も山田と帰ったことだし、部活もないんだ。昼飯食ってから、大和も誘ってたまには公園でキャッチボールでもすっか。」
「マジで!いいそれ。しようぜ。」
放課後にキャッチボール!今日は良い日じゃん。
久し振りにいい天気だしな。
「なぁ、山田が今野と帰ったって?」
健太が口を挟んだ。
「あぁ。山田は千恵と話がしたかったんだよ。」
と私が言うと
「だって、お前、昨日、」
健太の口から単語が並んだ。
すると康太が
「佐藤は相談役だったんだと」
「そういうことだ。」
ちょっと偉そうに胸をはった。
そこへ
「全くなぁ、梓を相談役にするなんて、超ー無謀だよなぁ」
私の頭をコツンとはじく。
大和だった。
「でもそのおかげで、山田は千恵と一緒に帰ってるんだ。いい切欠になったじゃねえか。」
フンっと鼻を鳴らし大和の背中を叩いた。
「痛いって、お前の力は半端ないんだから。暴力反対!なっ康太。」
うっ、よりによって康太に振るなよ。
康太を見ると
「でもそれが、佐藤なんだよな」
と言った。
ちょっと嬉しかった。
「何?暴力女って認められたのがそんなに嬉しいのかよ。」
本当に大和は余計な事ばかり言う。
今度は口より先に足が動いた。
綺麗に回し蹴りが決まった。
「認めてもらったからな。」
そう言って康太と健太を見ると何故か赤い顔をしていた。
そして健太が一言
「スカートでそれは止めてくれ」
と。
なんだそんな事。
「だって下に短パン穿いてるぞ。」
今度は康太が
「そういう問題じゃないだろ」
と言った。
「あーぁ私もズボンだったら良かったのに。」
本音を漏らした。
「お前らしいよ。」
康太の言葉に健太と大和は頷いた。
そんな会話をしながらそれぞれ家に向かう。
途中で健太と康太と別れ、大和と2人で帰った。
家は隣なのに2人で帰るのは久し振りだった。
今がチャンスとばかりに昨日の疑問をぶつけてみた。
「なぁ、大和。お前本当は千恵の事好きだったんじゃないのか?」
「どうして、そういう発想になるんだ。」
「だって、昨日の会話の流れからしたらそう思うだろ。本気だぞとか言ってたじゃないか。」
「お前ねぇ、話の流れからしたら違うだろ。お前の方がよっぽど解らないよ。でもそれはそれで良かったのかもしれないけどな。」
大和はまた意味不明なことをいう。
理解不能だ。
「まぁ、時期がきたら話すから、その時は聞いてくれよな。」
「おぉ。その時期ってのはわからないけどいつでも聞くから。それってお前の失恋話だったりしてな。」
大和の顔を覗きこむと、大和は
ふーっとため息をつき
「決め付けんなって。それより早く昼飯食って公園行こうぜ。」
と笑った。
「そうだな。」
と返事をして少し早足で帰り道を歩く。
隣に並ぶと、今まで気がつかなかったが、いつの間にか大和の背が私と同じ位になっていた。
そういえば、いつも下に合った目線が今は同じ位だった。
こいつにも成長期ってのがきたんだな。
きっとあっという間に見上げるようになるんだろう。
成長期かぁ、そんなの来なければいいのに。
ほんのちょっぴり膨らんだ自分の胸に視線を落とした。
このままがいいのに、身体の成長と共に自分に沸いてくる感情。
本当は女の子だと認めたくない。
男友達のような関係がいつまで続けていけるのだろう。
自分さえ、康太への気持ちを隠せ通せたら。
きっと大丈夫。そう思っていた。
私は自分の事でいっぱいいっぱいで周りがどう思っているかななんて想像すら出来なかった。
「何しけた顔してんだよ。」
また顔にでていたようで、大和に突っ込まれた。
「しけた顔なんてしてないって。それより早く飯食って公園行こうぜ。」
もう家の前だった。
「おう、お前こそ早くしろよな。」
そういって昼飯を食べに帰った。
ずーっとこのままでいられたらいいのに。
本気でそう思った。