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なるほどな

珍しく朝から陽がでている。

やっぱりスカッとした天気は気分もいいな。

学校へ行く足取りも軽くもう直ぐ校門というその時。


「梓先輩ーおはようございます。」


可愛い声に振り返ると琴音がいた。


「琴音、おはよう。ってよかその梓先輩っていうの止めろって言っただろ。琴音に言われるとなんかむず痒いって。」

本当に変な感じだ。


「だって、先輩は先輩でしょ。それに先輩人気あるから、前みたいに”さーちゃん”って呼ぶと呼び出し食らっちゃうよ。」

にこっと笑った。


山岸琴音。健太、康太の向かいに住むあいつらの幼馴染だ。

無口でいかついと呼ばれるあいつらに、唯一、健ちゃん、康ちゃんと呼び慕っている子。


そして、あいつらにとっても唯一可愛がる特別な子だ。


私よりも20cm近く小さく、髪はふわふわのセミロング。

にこっと笑った顔は天使のようだ。

媚びることもせず誰にでも笑いかける琴音は私も大好きだ。


それにしても呼び出しって?何だ?

「さーちゃんって呼ぶと呼び出し食らうって?」

素朴な疑問だ。


「本当だよ。梓先輩人気あるんだから。表だって言ってると嫌がるだろうから言わないだけで憧れてる子もいて、ファンクラブみたいなもんまであるんだから。」


冗談とも嘘ともとれる話だ。

尤も琴音が嘘をつくとも思わないが。

複雑な心境だ。


「そんな事で琴音がやられたら只じゃおかねえって。それにあの2人も黙ってないだろ。気にしなくていいのに。」

そういうと


「でも私はさーちゃんより梓先輩のが”らしい”と思うけどね。慣れるの直ぐだよ。」

一歩先にでた琴音が振り向きながらそういった。


可愛い。そんな言葉がぴったりだ。


「じゃあ、梓先輩。テスト最終日頑張りましょうね。」

そういって昇降口へと消えていった。


女の子だよなぁ。かといって、琴音は大人しいわけではない。

嫌なものは嫌とはっきり物をいう子だ。

さーちゃんという私の呼び名も彼女が言い出した。

梓ちゃんなんていいにくいから、さーちゃんでいい?と。

外見はいかにも守ってあげたくなるような、何も出来なさそうな感じなのだけれど、騙されてはいけない。

行動派で何でもこなすタイプだったりする。

人は見かけによらないんだよなぁ。


教室に入ると昨日と同様、教科書やノートに噛り付く面々。

今更だよと嘆くのは私くらいかもしれない。

千恵も大和も最後の足掻きに必死なようだった。


特に千恵はいつもだったら私に気がついて手でも振ってくれるのに、今日はまるで気がつかない様子。


私から

「おはよ」

と声を掛けた。


千恵は少し顔を上げ

「はよ」

と超短縮に応える。


テスト前なのか妙に気が立ってるようだった。


今日は最終日なので2時間で終了だ。

本来なら3時間あり、その後部活解禁となるのだが、今日は先生の講習会だか何だかあるらしく、テスト終了後に帰宅となっていた。


席に座ると大和と目が合った。

昨日の不可思議な会話を思い出し、千恵と大和を交互に見るもこれと言って違うとこもなく、いたって普通だった。

やっぱり気のせいだったか?


そうこうしているうちにテストが始まった。

本当に嫌いな雰囲気だ。

話し声のかわりに、カリカリ鉛筆の走る音。

テスト用紙に一番上に書いてある


「基礎解析」


名前からして意味不明だよ。

ざーっと見てみたけど、自信をもって言える。

2ケタ取れないと。


私の机からは、カリカリという鉛筆の音ではなく、フーというため息しか聞こえなかったと思う。


追試決定。


まあこれは始めっから予定だったし、基礎解析は補習は無く、課題のプリントを夏休みの間に済ませばオッケーだ。

大和にでも手伝ってもらおう。

この手の話は千恵は協力してくれないからなぁ。


まだテストの最中だっていうのに、追試やその先の課題の事を考えている私って。

テスト監督の先生が全然鉛筆の動いていない私のところにやってきて、呆れかえった顔をしていた。


テストが終わるまでの退屈な時間を過ごし、やっとの事で終了。

次の社会で最後だ。

実は社会だけは、ちゃんと授業を聞いている。


小さい頃から大河ドラマを見てきた私にとって日本史は、日本史だけは好きだったりする。

鎌倉から江戸にかけての話はどれも面白く、興味をそそられた。

今回もさほどというよりか全然勉強をしなかったけれど、これだけはそこそこの点数が取れるんだよな。


興味のあるものはすんなり頭に入ってくるらしく、武将の名前も年号もばっちり答えられた。

満足満足だ。


2時間のテストも終わりさっき来たところなのにもう下校だ。

「千恵ー一緒に帰ろうぜ。今日うちくるだろ?」

いつもの調子で話しかけたのだが、テストが終わっても千恵の機嫌は直っていなかった。


「あら、今日も山田と帰るんじゃなかったの?」

千恵は冷めた声でそういった。


気にしてるんだ。山田、脈有るじゃん。


「だって、母さんのクッキー食べるんじゃなかったのか?」

そういうと千恵は


「ごめん。気分じゃないんだ。」

と言った。


私は慌てて

「そういえば、昨日山田が一緒に花火大会に行かないか?っていってたぞ」


「ふーん。そうなんだ。良かったじゃない、一緒に行ってくれば。」

私の顔も見ずにそういった。


「だから、千恵と健太と康太とみんなで行こうっていってたから」

私は焦ってシドロモドロに答えた。


「私パス。」

そう言うとカバンを持って帰ろうとした。


だからなんでこうなるんだよ。


私はこういうの一番苦手なのに。

これも山田のせいだ。

こうなったらあいつに言わせないと段々拗れちまう。


「千恵、待ってて頼むから。ここにいてくれ。帰ったら駄目だからな。」

そういうと千恵はしぶしぶ頷いた。


私は急いで山田のいる教室へ行った。

教室を覗くと直ぐそこに健太がいた。


「健太、丁度良いところにいた、山田呼んでくんねえ」


すると健太は

「何でだ。」と。


私は

「用があるからだよ。」


健太はまた

「大事な用なのか?」と


だからそうなんだよ。急いでいる私は軽く健太を睨むと

「もういい、自分で呼ぶから」

と言って教室に足を踏み入れた。


その時、突然健太に腕を掴まれた。


「何するんだよ。山田に用があるって言ってるだろ。」

大きな声をだした。

その私の声に山田が気がついた。


「梓ちゃーん。俺に会いにきてくれたの?」


昨日までは佐藤だったのに、いきなり梓ちゃんかよと思いつつ。


「お前に用があるんだ。一緒きてくれ。」

そういって、健太の手を解き山田を引っ張って廊下に出た。

健太は眉間に皺を寄せていた。


「どうした?」

さっきとは打って変わって真面目な顔で山田が言った。


「どうしたも、こうしたもねえって。千恵が機嫌が悪くて仕方がないんだよ。お前せいだ。何とかしろ。」

軽く睨みながらそういうと


「何とかしろって言われても・・・」

そういって黙り込む山田。


「だーっ。そんな情けない声だすなよ。千恵はまだ教室にいるから一緒に帰って、自分からはっきり言えばいいんだよ。千恵が機嫌が悪いのはお前絡みだ。間違いないから、男らしく行ってこいって。」


そういう私に山田は

「佐藤って、俺より男らしいな。サンキュウー悪かったな」

そういって私の肩をポンと叩くと千恵の元へと走っていった。


ふーっと軽くため息をつくと、

「なるほどな。」と呟く康太がいた。







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