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狙っちゃえば!

「ただいまー。母さん、友達連れて来たから。後で飲み物持ってきてぇ。」


「お帰り、了解!」奥から母さんの声がした。


「なっ、大丈夫だろ。山田入れよ。」玄関に突っ立ている山田に声かけた。


「お邪魔します。突然すみません。」山田の声のが聞こえたのだろう。今まで顔を見せなかった母さんがひょっこり顔をだした。


「あら、いらっしゃい。梓がいつもお世話になってます。どうぞ。」

興味深深って感じだ。

でもまあ、男友達が来るのは初めてじゃないし、というよりか圧倒的に男友達の方が多かったんだけど。

母さん、新しい面子が来ると必ず顔みせたりするんだよな。


「同級生の山田です。」とペコリとお辞儀して私の後に続いた。


「はーやっと帰ってきた。部活と給食のない学校なんて疲れるだけだよ。」

そう言いながら部屋の窓を開けた。

振り向くとまだ山田は部屋の前に立っている。


「入らないのか?遠慮する事ないぞ。」


「あぁ。それにしてもお前の部屋って」

そう言って部屋をグルリと見回す。


「俺の部屋と変わらないな。」


「そうかぁ。特になんてことの無い部屋だけどな。」

山田に言われてみてふと見渡してみる。なんてことはない、いつもの部屋だ。


壁には

全日本のソフトボールの選手のポスターが貼ってあり、本棚にはソフトボール関係の解説書や主人公が野球やソフトの漫画。

床には

バットとグローブが置いてある。

カーテンやベットカバーは薄い水色で統一している。

どちらかというと、あまり物が置いていないすっきりとした部屋だ。


「俺、女の部屋っていうイメージを根底から覆されたよ。」


失礼な奴だ。


「それより、話ってなんだよ。」多分あの話だと思うが・・・


「あぁ、そうなんだよな。それを話にきたんだよな。」

と言ったきり話が続かない。

 

丁度その時、

「梓、入ってもいい?麦茶持ってきたわよ。」

母さんだ。


「いいも何も、今まで聞いた事、無いくせに。変な母さん。」


山田は本日4回目の”面白い奴だよ”発言。


「頂きます。僕は相談にきただけなので期待に応えられないみたいです。」

と山田は笑った。

母さんも笑っている。


「あら、残念。やっとこ女の子を産んだと自覚できるかな?と思ったのに。」


聞き捨てならない言葉を聞いた。


「れっきとした、女なんですけど。」

意味解らないって。


「これだからね、じゃあ山田君ゆっくりしてってね。」

と母さんが下へ降りていった。


「お前ん家、母さんも面白いんだな。」


あの会話のどこが面白いんだ?

「そうか?たまに意味不明なこと言うけど、面白いのか?」


「面白いよ。」

”面白い”は山田の口癖なのだろうか?


「それで。さっさと話ちゃえよ。」


「あぁ。」

またそういったきり黙る山田。


暫しの沈黙


「あーじれったい。千恵の事だろ。」

私は痺れをきらして言ってしまった。


一瞬で山田の顔が赤くなった。

ビンゴだ。


「お前、いつから・・・。」


「さっきだよ。自分でもびっくりだよ。こんなにすっきり答えが解ったのは、テストでも何でも初めてだけどな。すげー自分。」

私は満足気に頷いた。



「それで。一体何を相談したかったんだ。」

私が聞くと、覚悟を決めたのか山田は話始めた。


初耳だったのだが、山田と千恵は幼稚園からの友達だそうで、小学校の低学年までは仲が良かったらしいのだが、良くある話でなんでも友達にからかわれたのが切欠で段々と話をしなくなっていったそうだ。


そういえば、千恵は4年生位の時に引っ越してきたのだ。

学区内だったから気にも留めてなかったのだが。

それまでは、山田の家の近くに住んでたってことかぁ。


最近まで何とも思わなかったみたいなのだが、私と一緒にいることで大和や康太、健太達と話をする姿をみて、自分自身が落ち着かなくなってきた事を話だした。


「要するに、嫉妬してた。ってわけだ。」

私の言葉に山田は頷いた。


「それでだ。来週の花火大会に誘いたいんだ。でも俺、今まであいつから随分と離れていたから誘いにくくて・・・。大和や健太、康太も誘うから、お前も一緒に行ってくれないかと。恥を忍んで頼みにきた。」


「仲直りの一歩。ってのか。でもそれっておかしくないか?千恵だってどう思うか。はっきり好きだっていうのが一番だと思うけど。」


「それが出来たら、やってるよ。」

山田は窓の外に目を向けた。




「千恵って好きな奴いるのかな?」独り言のように山田が呟く。


「さぁ。でも今日の様子からしてみるともしかしたら、」


「もしかしたら?」


「秘密だ。まあ回りくどいことしないで、正面から行くのが一番いいんじゃないのかな。」


「で、玉砕したら?佐藤が責任取って俺と付き合ってくれたりして。」

と山田は笑った。


「そんなこと、ある訳ないだろ!」

真剣に話してやってるのに、冗談言ってる場合か?何かこの手の話最近もしたな。


「頼むよ。後は自分で何とかするから。兎に角、きっかけが欲しいんだ。」


さっきとはうってかわった真剣な表情の山田をみてしょうがないなと。

「誘うだけだからな。」と言ってしまった。


「本当か、恩に着るよ。このお礼はいつかするから。」

山田が抱きついてきた。


「わかったから、暑苦しいって。」


その時さーっと風が吹いてカーテンが捲くれ上がった。

そして、窓の向こうの大和の部屋から、こちらを向いている健太と目が合った。


「健太だ」

私の言葉に慌てて山田が離れる。


苦笑いした山田が

「ありがとうな。じゃあ俺帰るわ。」

と立ち上がった。


「おう、頑張れよ。」


山田を玄関まで見送った。


「じゃあな。お邪魔しました。」


山田の声に気がついた母さんが来た時と同じように顔を出した。

「またいらっしゃいね。」


「はい」

にっこり笑って山田は帰って行った。


「感じのいい子ね」

母さんが言った。


「そうかもな」

と返事をする私に。


「狙っちゃえば。」


とニヤリと笑う母。

「怖いんですけど、その顔。それにあいつは今、思ってる子以外目に入らないよ。」


「あら、残念。」


そう一言いうとまた奥に引っ込んでいった。


   









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