面白い奴
「やっぱり、化学あの公式でたねぇ。良かった良かった。1つは確実に出来たよ。」
「何、もしかして梓、自信があるの1問だけってわけないよねー。」
千恵は呆れ顔だ。
1問だけってわけじゃないけど近いものはある。でも化学が出来たって将来役に立つか解らないじゃん。
今は2時間目と3時間目の間の20分ある休み時間。千恵と2人キャッチボールをしようと校庭へ向かっている。
「何で、試験中って部活休みになっちゃうのかな〜」
そう思うのはあんた位だよ。と千恵のボヤキが聞こえた。
「梓、見てみよ。校庭ガラガラだよ。本当は私だって見直ししたいっつうの。」
「悪い、悪い。10球でいいからさ。」
ただでさえ最近雨で練習できなかったっていうのに、このテスト休み。
身体が鈍ってしょうがない。
いつもだったら大和相手にキャッチボールするのだけれど、あの一件以来私からあいつに頼みごとするのは何だか癪で、壁相手にするのだが、どうもしっくりこなかった。
校庭に行く途中、渡り廊下に康太の後姿が目に入った。
隣には健太と大和、あとあれはバスケ部の山田か。
一瞬山田と目が合ったような気がしたが、私はキャッチボールキャッチボールと千恵を引っ張り通り目的地へ。
「やっぱり、違うよ。千恵が一番だよ。」
壁とは違う感覚。
やっぱいいねえ。
「本当に10球だけだからね。でもプラス10球、いちごブリックでもいいけど。」
やっぱり千恵って・・・。
「10球でいいよ、でも貴重な時間をくれたから、明日うちで母さんのクッキーご馳走するよ。」後で頼んでおこう。あくまでも母さん任せだけど。
「宜しくね。はい約束の10球。悪いけど私先に教室行くから〜」
マジですか?自分で言ってて何だけど、早すぎませんか?
千恵は言い終わりもしないうちに教室へと戻っていった。
今更詰め込んでもね〜。私はゆっくりと教室へ戻ろうとした。
途中の渡り廊下で
「随分と余裕だね。」康太に話しかけられた。
「まあね」
何がまあね、なのだか解らないが一応返事をしてみた。
「何がまあね、だ。諦めの境地だろうに。」
大和が鼻で笑った。
確かに私もそう思ったよ。でも大和に言われると何だかムカつく。
「お前だってこんなところにいて同じだろうが!」ふーんだ。
そんな私達の会話を周りのやつらが笑っていた。
その時山田が
「やっぱ、佐藤って面白ろいな。俺好きだわぁ」
この発言に大和と双子は反応した。
「お前、好きってー」健太の言った言葉を遮って再び山田が口を開いた。
「まあそれはそれとして、今日佐藤勉強する?」
「多分しないな。」という私の言葉に、大和は
「多分はねえな。」と。全く減らず口が。
「じゃあさ、放課後一緒に帰らない?話があるんだ。」と山田が言った。
そうだな、きっと千恵は最後のあがきをするんだろうし、山田の話も気になるし
「オッケー。じゃあ放課後ね。」
手をヒラヒラを振りながらその場を後にした。
後ろの方で、健太と大和が山田に何か言ってたようだったけど、あまり気にもならず教室へ戻ってきた。
教室へ入ったら驚いた。
殆どの生徒が机にかじりついていた。
このクラス変わってる。
とは言っても今来た途中の教室もこんな感じだったかもしれない、そういえば廊下にでていた人はまばらで、あいつら位だったもんな。
「千恵、次なんだっけ?」
「本当あんたには、」千恵はふーっと息を吐き。
「英語、リーダーだよ。」と教えてくれた。
だからみんな必死で単語覚えてるんだ。
妙に納得してしまった。
服部先生厳しいからな〜。
「梓さぁ。追試になったらそれだけ部活できないの知ってるでしょうに。」
と千恵に言われて思い出した。
何日後の追試に受からないと、夏休みも補習をするんだっけ。
「ゲッっ」
それだけは勘弁だ。
補習はしょうがないけど部活と被らなきゃいいな。
私の中では追試は決まりごとだったから。
もともと勉強してなかったからテストが出来なかったのは当たり前なんだけど、
「夏休みの補習かぁ」
頭痛くなってきた。
試験中は3時間で終わるので、給食を食べずに下校する。
そうそう。今日は山田と帰るんだった、千恵に言わなきゃ。
「千恵、今日さぁ、私山田と帰るから。」
「山田とー?!そりゃまた珍しい組み合わせだね。」
千恵は驚いていた。
「そう何だけど、なんか山田が話があるって言ってさ、そんなわけだから。」
「そんなわけって、もしかしたら告白かもよ?」
千恵は冷めた口調で私をみた。
「それはないない。そんな感じじゃなかったから。」
ちょっと千恵が怖く見えるのは気のせいだろうか?
その時、時の人が姿を現した。
山田は始めに、私ではなく千恵に
「よお」
と声をかけた。
千恵は
「よお」と短く返した。
そして、私の肩に手をかけ
「じゃあ行きましょうか?」といい2人で教室をでた。
勿論、手は払ったが。
教室を出ると、大和と健太が2人して腕を組んで立っていた。
その隣に腕こそ組んでいないが康太まで。
何だか空気が重たいような。
「おっす、またな。」私は3人にいつものように言ったのだが、康太こそ私をみて
「またな」と言ったものの。
他の2人はと言うと私ではなく、山田をみていた。
「本当に一緒に帰るんだ。」と大和が言った。
「おう、じゃあまた。佐藤行くぞ。」
「おう、じゃあな。」2度めの挨拶に2人は
「「またな」」としぶしぶ応えた。
2人並んで校門を出る。
「なんか、あの2人感じ悪かったな。お前ケンカしたのか?」
思ったことを素直に口にした。
山田は笑いながら
「やっぱ、佐藤って面白いな。」と。
全然答えになってないんですけど。
まあいっか。康太は普通だったしな。
「それより、話ってなんだ?」
「まあ、そんな慌てることないだろ?うち行くか?」
うちって山田の家か?
「別にいいけど、」
「いいのか?俺冗談で言ったんだけど。」
これじゃあ、あいつらが気を揉むわけだ、山田は小さな声で呟いた。
「冗談なのか?じゃあ、うちにする?」
「いいのか?」
「別に、いいも悪いもないだろ。大和だってたまに来るし、いきなり友達が来たって母ちゃん嫌がらないぞ。」
そうじゃなくって、と山田は思った。
「じゃあ、遠慮なく。誘ったのは俺なのに悪いな。」
「気にすんなって。」
そんな会話をしながら家へと向かった。
途中千恵の家の前を通りすぎる。
山田の目線は一瞬千恵の部屋に向かったような気がした。
もしかして!
千恵の家の前を通り過ぎると山田は何事もありませんでした、という顔をしながら他愛もないことを話している。
そういえば千恵の態度もいつもと違ったような。
何だか出来なかったパズルが出来たときのようにすっきりしてきた。
試験もこんな風に出来ればいいのに。
知らず知らずのうちに顔が笑っていたらしい、山田に
「そんなに俺と帰るのが楽しいのか?」
と聞かれた。
「そんなところだ。」
どんなところだ?と思ったけどまあいっか。
本日3度目の
”面白い”発言が聞こえた。