なんてことだ!
「痛っ」
ん?何だかおかしいぞ。
それは夕飯のおかず、かれいの煮付けを食べていた時の事だった。
「何、梓ってば骨まで食べちゃったの?」
母さんが呆れたような声を出した。
「違うと思う。喉じゃないから。」
不思議と今は痛くない。
「じゃあ、舌噛んじゃったとか?いくら腹へってても自分の舌は食えないぞ。」
今度は兄貴が笑い出した。
「だから、そんなんじゃねえって。」
息を撒いてそう言ってご飯を口にかきこんだ。
痛い!
やっぱ痛いぞ。気のせいじゃない。
それは梅干を食べた時に酸っぱくなるあの場所に近いような……。
箸を置き手でその場所をさすってみた。
違和感はそんなにないんだけれど。
そんな私を見ていた母さんが
「もしかして、あんた。」
何だよ、そこで切るなって
「あんたって何だよ。」
痺れを切らして聞いてみた。
まずこれを飲みなさい。
そう言って渡されたお味噌汁。
言われたままに飲んでみた。
うっ
何だこりゃ。
「うん、十中八九これは”おたふく”ね」
母さんの言葉は衝撃だった。
おたふくってあのおたふくかよ。
マジで、勘弁して欲しい。
だって明後日は、明後日は
新人戦だっていうのにー
取りあえず、食べれるだけ食べてもう寝ちゃいなさい。
嫌でも明日にははっきりするだろうから。
死刑宣告のような言葉だった。
兄貴はポツリと
「夜痛くなったら呼べよ。何時でもいいからよ。」
あんまり聞いた事が無いくらい優しい声だった。
そういえば兄貴はやったんだっけ。
どういうわけだか、自分には移らなかったけれど……。
結局ご飯にはそれ以上手をつけられず、寝る事にした。
間違いだって願いながら……
だけれども、私の願いは虚しくものの何時間かで判定は出た。
なんにもしなくて、痛みが襲ってきたのだ。
兄貴の部屋の壁をノックすると夜中だっていうのに兄貴が起きてきてくれて、氷の詰まった水枕を持ってきてくれた。
これを痛いところに当ててると違うからな。
これから、熱も上がるだろうから、頑張るんだぞ。
後は、子機で俺の携帯に掛けろな。
いつもはどんなに頼んだって私の部屋においてくれない電話の子機を枕元に置いてくれた。
「サンキュウ、兄貴。」
そう言うのが誠意一杯で私は水枕にダイブした。