始業式
「宿題終わってよかったじゃん。」
そういうのはいわずと知れた私の親友。
今日は始業式だったりする。
結局私は、千恵からノートを借りて写しまくるも終わらず、朝早くに教室でカリカリと写すはめになってしまった。
最後のページを終えたのはチャイムが鳴る3分前という神業だ。
「そうね、この報酬はイチゴブリック3個ってところかしらね。」
といつもの私のセリフをニコッと笑いながら言い放った。
勿論、私は反抗する事も出来なくて
「了解。」
と返事をした。
すると千恵は
「冗談だって。でも来年はかさないからね。梓の為なんだよ。一緒にソフトするんでしょ。」
と笑った。
今年の夏休み千恵の家は大変だったらしい。親族会議も開いたっていってたな。
結局千恵のおばあさんは、退院した後、暫く千恵の家にいることで落着いたらしい。
そんな中いつこの宿題を終えたのだろう?
久し振りのホームルームの後、ぞろぞろ揃って体育館へ。
毎回毎回よくもまあ話すことがあるなあと感心するくらい気の長い校長の挨拶を聞かされた。
朝っぱらだというのに眠気が襲ってくるのはどういうことなのだろう。
しんどい。
校長の話しにもあったけれど、2学期は行事が多いんだ。
今月の末は体育祭があって来月半ばは文化祭、2年の自分達は修学旅行なんてのもある。そのまた先も何かあるけど、其処までは覚えなくてもいいだろうって、頭が判断したみたいだ記憶に残らなかった。
そんな行事に挟まれて今月はソフトボールの新人戦がある。
修学旅行も気になるけれど、これが一番気になっているんだ。
この調子のままいけば県大会だって、全国だって夢じゃないって本気で思っているからな。
後、2週間だ。
宿題からの開放感は素晴らしく、早く放課後になって欲しくて堪らない自分がいた。
2時間目の休み時間私は千恵と渡り廊下にいた。
そういえば、組み合わせっていつだっけ。
そんな会話をしていた。
「よう、宿題終わったってか?」
大和に聞いたのだろう、康太がにやりと聞いてきた。
「ああ、お蔭様で」
さっきまで滑らかに動いていた口は急にブレーキを掛けてしまったらしい。
隣で千恵が笑いをたえているのが分かった。
「しかし、梓って。お陰様って康太は何もしてねえだろうが。」
後ろから聞えた大和の声、振り向きもせずに肘を後ろに突き出した。
ボスと言う音に肘の感触。
よっしゃヒット!そう思って振り向くとピンピンした大和にうずくまった健太がいた。
「悪り、間違えた。」
そう言って健太の背中に手を当てて隣に屈んだ。
「大丈夫か?」
覗き込んだ健太の顔は赤くて何も言わない。
上手い具合にわき腹に入ってしまったようだった。
「梓、俺の時と感じ違いすぎ。」
と大和は声を上げた。
「煩い、お前はいつも自業自得だろ。健太の場合はあれだ、なんて言ったっけそのそれだ。」
そう言ったら健太が立ち上がった。
そして頭をコツンと小突いて
「大和ってすげえのな。これに堪えてるなんて尊敬するかも。」
って言ったんだ。
その顔が、妙に頭に残ってしまった、近くに康太がいるにも関わらず。
それは康太じゃなくて、似ているけれどやっぱり健太で。
ん?似てるからなのか?
見事な復活を遂げた健太はチャイムと同時にクラスへと引き上げていった。
始業式は午前中でおしまいだから後1時間だ。
職員会議があるので今日の部活はどの部も休みだった。
と言う事は、千恵は山田と帰るのか。
何だかんだといって、千恵は楽しそうだ。
長年の片思いからの脱出だもんな。
それは山田も同じことで。
たまにはバッティングセンターでも行ってみるかな。
そう考えただけで、頭の中はバッティングセンターに先に行ってしまったみたいだった。
3時間めはホームルームで2学期の係りを決めたりそんな感じ。
みんな、まだ夏休みの雰囲気を纏ったままいるようで、教室もいつもとは違って浮ついているようだった。
「梓は何の係りにするの?」
千恵から手紙が回ってきた。
その紙の裏に
「どれでも一緒じゃん。」
と書いて返した。
結局私は保健係りになったようだ。
まあこんなとこだよな。
そういえば最近保健の福田先生みないな。
40歳過ぎくらいの気のいいおばちゃんみたいな先生。
若かりし頃は私もやっていたのよ。
とたまにグランドに来ては、バット振り回していたのに。
ちょっと太目の体格から繰り出す豪快なスウィングは天晴れだった。
当たる時は野球部のダイヤモンドまで飛んでいく勢いなのだか、いかんせん練習不足で、物凄い轟音の空振りばかりなのだけど。
あー今日はやっぱりバッティングセンターだな。
大和を誘ってもいいけど、あいつ煩いからな。
ここは一人で行くとしますか。
上の空も手伝ってか放課後がくるのが早かった。
千恵に
「またな」
と挨拶するや否やカバンを担いで家路を急いだ。