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報酬

家庭教師なんて、もうこりごりだよ。

カバンを下ろしベットに座り込んだ。


でも、陸君のおかげで追試も通ったことだし、お礼はしなくっちゃか?

といいつつ、もう臨時の家庭教師は終わったんだから兄貴が呼ばない限りはこないんだよな。


そういえば、あれほどしつこくきてたのにピタッとこなくなったのはどうしてなのだろうか?

気になる事は気になる。

兄貴が帰って来たら聞いてみますか。


しかし、今日も疲れたな、背中が固まりそうだよ。

お腹も……腹筋が6つに割れるのも、そう遠くはないような気がする。

明日からは夏休み、勉強しなくてもいいかと思うとそれだけで心が躍ってくる。

夏休みがあけたら、直ぐに新人戦だ。

きっと、投げ勝ってやる。

部屋に転がっていたボールを握ってそう自分に誓った。


カタンと隣の部屋のドアが開く音がした。

兄貴だ。

すぐさまノックすると返事を待たずにドアを開けた。

其処には、一人立っている陸君がいた。


「よう、追試通ったって?頑張ったじゃん」

勉強中には決して見せなかった笑顔だった。

それは、そうあの時兄貴の部屋で会って以来の笑顔だった。

何だか、一瞬呆けてしまった。


「おぉ、ちょっと待ってて。」

そう言って自分の部屋に今日返ってきたばかりのテスト用紙を取り出した。

まさか今日会えるとは思ってなかったらちょっとびびった。


「はい」

おもむろにテスト用紙を差し出し、陸君がそれを手に取った。


「こんだけ出来れば上等だよ。発音記号がみんな合ってるとは、よっぽど勘がいいんだな。」

と。


「勘?勘なわけないだろ!あれだけシツコクやってたから、解ったんだよ!」

息を撒いた私に


「冗談だよ。そんなにムキになるなよ、そういえばお前覚えてるか?」

私の目をじっと見て陸君はそう言った。


「は?」

何をだ?英語の単語か、文法か?


私の顔を伺って

「報酬だよ、報酬。」

にやりと笑った陸君。


あっ、あの日のことを思い出してみた、確か……


「今度の休み、俺に付き合え。」

それは、断る事は出来ないみたいに断言されて。

何処に連れて行くかさえわからないのに、私は思わずコクリと頷いていた。


「よし、決定な。」

そう約束したとき兄貴が戻ってきた。


「おう、梓。先生にちゃんとお礼言ったのか?」

兄貴に言われて気がついた。


「ありがとうございました。おかげさまで助かりました。」

今更ながら、他人行儀にお礼を言ったのだった。


兄貴も戻ってきたので、じゃあと言って自分の部屋に戻った。

そういえば、どうしてこなかったんだかそれを聞きにいったのに、聞かないできちゃったよ。

でもまあいっか、お礼も言えた事だしな。

あっ、家庭教師の話!断ってって言っとけば良かったか?

でも何だかもう一度兄貴の部屋に行くのは躊躇われてしまう自分がいた。

それは――さっきの話のせいかもしれない。


何処に行くんだ?


ちょっぴり気になる。

とはいえ、翌日からの部活三昧。

そんな事を考えてる暇はなくて、まあちらっと千恵だけには言ってみたのだけれども。

ボールを追っている最中はそれだけに集中していた。

基礎練習が効いているのか、身体が凄く軽くなった気がする。

まだ、ピッチング練習はやらせてもらえなかったけれど、ノックもバッティング練習も思う存分出来たから楽しくって仕方なかった。


「梓先輩ってタフですよね。私達と違ってあれだけの筋トレとかした後のこの練習で笑ってられるって考えられないです。」

後輩の言葉にまわりにいた子もみんな頷く。


「楽しいんだ、ただそれだけだよ。」

本当にそう思っていた。


今日の練習も終わっていつもの帰り道。

千恵も今日はお母さんが帰っているらしく一緒に帰る。

そこに、野球部の面々。

部活も楽しみだけれど、この帰り道も楽しみだったりする。


「そういや、追試通ったんだって?」

そう声をかけたのは康太だった。

にやけそうな顔を抑えつつ


「実力でしょ。実力!」

そうガッツポーズをとる私に間髪入れず


「んなわけねえーだろ、実力ある奴は追試になんかならないだろ」

大和がお腹抱えて笑いだす。


私はスポーツバックを振り上げて――。


大和は殺気を感じたらしく、

「本当のことじゃねえかぁー」

と駄目だしの一言を言いながら走り出した。


「全く、嫌味な奴だ。」

私が呟くと


「でもいいコンビだよ」

と千恵に突っ込まれる。


「いいコンビって。」

私がため息をつくと


千恵は

「すっごい息が合ってて、漫才コンビみたい!ね、健太。」

千恵は健太に話を振った。


「確かに、そうかもな。」

疲れているのか、それは小さな声だった。


康太がそれをみて、健太の肩に手を置いた。

健太はそれを振りほどいて、何やらぶつくさ呟いている。


千恵はにやにやしているし。


「お前ら、何か変。」

思った事を口にした。


罪な奴だ。

と千恵が呟いたけど、私には何のことだかさっぱり分からなかった。


そのうち大和に追いついて、またふざけながらの帰り道。

毎日夏休みだったらいいのに、と空を見上げた。


そんな日を過ごして、とうとう明日は日曜日。

そう、いつの間にか、陸君と出掛ける前日となってしまった。







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