予想問題
明日はとうとう追試の日。
けれども、陸君は今日も現れなかった。
私の目の前には
対策
と書かれた2枚の用紙。
そこには追試に出されるだろう予想問題と1枚と、もう1枚は今までの復習が事細かに書いてあった。
最後には
「これで駄目だったら、覚えてろよ!頑張れ」
と締めくくられていた。
この紙は兄貴から受け取った。
今までのスパルタを思うとほっとするとこなのだが、少しだけ、ほんの少しだけど物足りないような気がするのは気のせいだろうか。
びっしりと書き込まれた用紙を見つめ思わずため息をついてしまった。
本当にこれで大丈夫なのだろうかと。
でもやるしかないからな。
英語の辞書を手に取り、復習から始める。
10分もやっていると、背中やお尻がむずむずしてきて、おまけにサボってしまえと頭からの命令も出されてくるから困ったものだ。
でも、これも今日が最後だから。
明日になれば、またソフト漬けの毎日が始まるんだ。
そう思い直し、自ら頭に指令を出す。
もうちょっとだから、頑張れ自分、と。
ここ何日かで、コツというものを覚えたのも事実だった。
先週までには考えもつかなったほど、単語も頭に入っている。
だけど、これは梓を基準にしたもので極一般の生徒からは程遠いものだったりすんだけれど。
一通り、復習を終えた後、陸君が作った予想問題を解いてみた。
それは、今まで嫌というほどやらされたあの試験問題を少し変えたものだった。
カッコの場所を隣にしたり、選択肢を変えたその予想問題は、梓は自分が信じられない程の書き込みが出来た。
それが終わると嬉しくなって兄貴の所へ飛んでいった。
ノックもせずに兄貴のドアを開け放つ。
兄貴はギョっとしてこちらを振り返った。
「何だよ突然。」
憮然とする兄貴を尻目に予想問題をヒラヒラさせた。
「見てくれ、これ。こんなに書けた!」
そう言って今解いたばかりの問題用紙を兄貴に渡した。
「どれどれ、でも書いただけじゃ駄目なんだぞ。まあお前にしたらこんだけ書けたら快挙だろうけどな。」
そういいながら兄貴は採点を始めた。
時々”ほーっ”と声を出しながら、赤鉛筆を滑らせていく。
時折何やら書き込んでいるのが気になるところだ。
テストの採点でこんなにそわそわしたのは初めてだった。
兄貴が赤鉛筆を置いた。
「まじ。すげーよ陸は。こんな短期間でよくもまあ。」
もう一度採点の終わった用紙をみながらそう呟いた。
「で、どうだった?」
テスト用紙を覗きこんだ。
思ったよりも書き込みが多かった。
やっぱそんなに上手くはいかないか。
はーっと大きくため息をついた。
そんな私の頭に兄貴は手を置いた。
「そんなため息付くなって。ほれよく見てみろ。」
兄貴から用紙を受け取り、マジマジと見てみると。
「ここも、ここも、ここもケアレスミスだ。スペルが一個抜けていたり、多分ここは一段間違えたんじゃないか?これさえなければ合格点だぞ。書いて終わりじゃないんだ。良く見直してみる事も大事なんだぞ。」
そう言って、最後にもう一度単語を書いて完璧に覚えるんだぞ。と付け加えた。
驚いたことに発音記号はみんな当たっていた。
兄貴にサンキュウーとお礼をしてもう一度机に向かった。
これなら、上手くいくかも。
俄然やる気が出てきた。
そうして、今は追試の真っ最中だったりする。
教室では私と同様追試を受けている者数名。
カリカリと鉛筆の走る音が聞える。
私はテスト用紙を目の前に、思わず”おおっ”と声を上げてしまった。
監督の先生がチラリと私を見た。
そんなことはお構い無しに私は、もう一度テスト用紙を確認してみた。
そこには、昨日の予想問題と良く似た問題が。
私は鉛筆を握り、一つ一つ問題を解いていった。
中にはやっぱり答えられない問題もちらほらあったのだが、何とか解答欄を埋めることが出来たのだった。
兄貴の言葉を思い出し、見直しもやってみた。
そして追試は終わった。
監督の先生が、結果は終業式だから、覚悟しておけよと意地悪く笑った。
それも私を見てだ!嫌味な先生だった。
ふと、家庭教師を始めた日の陸君の言葉を思い出す。
「何とかなるかもな」
の一言を。
本当に何とかなりそうだよ。
まだ結果はでていないけれど、これが私の限界だ。
これで思いっきりソフトが出来る!
足取り軽く廊下を走って部室へ直行していたら
「廊下を走るんじゃない!さっきのテストから減点するぞ。まあ引ける点があるかは疑問だけれどな。」
と、さっきの試験監督の先生だった。
「すみませんでした。気をつけます。」
悔しいけれど頭を下げた。
先生はスキップしそうな位、嬉しそうな顔をした。
どこまでいっても嫌な奴だ。
後で兄貴に聞いてみよう!
きっと、とてつもなく嫌な奴だったに違いない。
っと下らぬ妄想は止めにして。
先生の目に入らないように小走りしながら部活に向かったのだった。