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いつかきっと

俺と梓はガキの頃からずっと一緒だった。

男とか女とかそんなことは関係のない親友だった。


俺の隣には梓がいる、それが日常だったのだけれど、小学校の高学年の辺りから、梓の視線の先にはいつもあいつが映るようになった。

それがわかったのは皮肉な事にいつも俺が梓をみていたからであって。


梓はガキの頃から背がずば抜けて高くて、兎に角目立っていた。

本人は女の子は何を考えているか解らないから苦手なんて言ってるけど、だからといって何がある訳ではなく、只単に、男の子と遊ぶ方が楽しいという単純な発想だ。

裏表のない素直な性格の梓は男からも実は女からも人気があった。


そんな梓と並べるのは俺の家が梓の家の隣にあったからだ。

いつも一緒にいた俺は、根が素直というか単純な梓の気持ちが手にとるように解った。

だから梓にかまって欲しくてついついちょっかいをだしてしまっったりして、今思えば好きな子を苛めるってのだったんだろうな。

大きくなってくるに連れ段々と男女別に遊んだりしてくるのだが、梓は全く変わりがなく、それが俺にはとっても嬉しかったんだ。


でもそんな俺の前に康太が現れた。


健太、康太双子の兄弟。

こいつらも背が高くてとても目立つ存在だった。

ごつい身体に細い目をした二人は見た目はちょっと怖かった。そんな俺と正反対の容姿をした康太を梓は気にし始めた。


俺は生まれて初めて嫉妬という感情を覚えた。


俺は中学生になり野球部に入部する。そこで健太と康太と一緒になった。

この双子、揃いも揃って無口だし、ごついし、なにより康太は梓の気になる相手。

あまり関わりたくないって思っていたのだが、付き合ってみるとめちゃめちゃ良い男達でいつの間にか一番気の許せる大事な仲間になっていた。


気がつくと、健太の視線はいつも俺と同じ方向を向いていた。


きっと健太も俺の視線の先に気がついているだろうが、2人でこの話をした事は一度もなかった。

そして、その頃梓の心が動き出したのに気がついた。わかった理由は簡単だ。


あいつらを完璧に見分けられるから。


一卵性の双子というのはちょっとやそっと見ただけでは見分けがつかない。

この双子と一日中一緒にいる俺は正面からみたら見間違う事はないが、横顔や後姿だと微妙なところだ。

が、梓はどんな遠く離れていても、例え後姿だろうと迷いがないのだ。

双子の両親だって間違えることがあるっていうのに.梓はいつだって完璧に見分けていた。

後もう1つ、それは梓の態度だ。わけ隔てなく話しているようだったけど、違うのはその行動だ。ふざけている時、俺や健太には”首四の字だとか何とか、プロレス技をかけてくるが康太には掛けたことがないのだ。

カバンで思いっきり叩くことはあっても、梓は康太に自分から触れることはしないんだ。


それって俺と健太は眼中無いってことだろ。


あいつが俺と接近するのは非常に嬉しいところなのだが、複雑な心境だ。

俺もそうなんだが、健太はどう思っているのだろう。

同じ顔しているのにな、世の中上手く行かないよ。


まぁその方が俺にとったら好都合だけどな。


今は梓より背も低くて健太や康太に野球は勿論のこと勝てるものは無い、完敗だ。

だけど、今に見てろよ。


梓を振り向かせて見せる。


だけど、肝心な康太の気持ちはどうなんだろう?

それに梓が健太に心変わりしたら?

俺の将来は前途多難らしい。


それにしても、今日の試合は散々だった。

一度も塁にでる事なく、いいとこ1つも無かったからな。

梓に良いところ見せたいとは思うのだけど、余計力んでしまうのか気合だけが、空回りした。せめて野球の試合だったら少しはましだったかもなぁ。そんなことを考えていたら、


コンコンコンコンコンコンコン


と窓を叩く音が、梓だ。

この叩き方じゃあ相当怒ってるんだろうな。

深呼吸して窓を開けると案の定、しかめっ面した梓がいた。

俺は、梓が口を開くよりの先に


「何だよ、宿題か?」と、別に宿題じゃなくても良かったのだか。


「終わったって!それより・・・」ほらな、怒っているのに乗り突っ込みをしてくれる。


思った通りの反応で楽しい。

その後もなんだこうだと言っていたが、俺の返す言葉に一瞬押し黙ったりして。

そして俺は止めを刺した。


「誰かに聞かれたくなかったとか?」


「そんな奴いないって・・・」


そうは言っても動揺しまくって、あんなにムキになって反論するってのはそうとしかとられないだろうに。

本当に、梓って解り易いんだよな。

自分で言ってて虚しいけど。


むっとして窓を閉める梓に


”髪乾かしてから寝ろよ”と言った。返事はこない。


最初見たとき本当はドキっとした。

服こそジャージだったが、湯上りでまだ湿り気のある髪、火照った顔。

隣に住んでる特権だよな。


梓は俺がこんな事考えているなんて、これっぽっちも気がつかないんだ。


でも、それでいいんだ。

まだ時期じゃないから。

今は、この小気味良い会話で満足だ。

それに今日のように誰も見たことがない湯上りの梓も見られるわけだし。

俺って危ない奴か?って中学生の男子じゃそう思うだろ。


それにしても後何年かなぁ。俺が本当の意味で梓の隣に並べるのは。


もしかしたらそんな日、こなかったりして。


いらん想像をしてしまって、頭をブルブルっとふった。

こんなことして意味があるとは思わないけど、マイナスの考えを吹き飛ばして、さっきの梓の顔を思い出し、多少早いが寝る事にした。


おやすみ梓。


窓の向こうをみながら返事の返ってこない、いつもの言葉を呟いた。


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